第53話 決着 *冥サイド
気持ち悪い。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち、悪い。
気持ち悪いのは…「私」だ。
ピキッ
何処からか何かが割れた音が聴こえた。
正しいのでしょう。彼女――【神姫】の言葉は的を得ている。
「操られた」という外見を振る舞い…「操られる」内面を装い…その身を置いた。
ただ仕方がなかった。彼女を、彼女…空ちゃんを救うには、それしか方法がなかった。
おかしな話ですよね。理解している。それは全部言い訳だ。正当化したい、ただの…。
ピキッ、パキッ
確かに聴こえた、氷が割れる音。
・
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それでも、私は「二人」を支えるなんでもできる「姉」で在りたかった。
カイ君に嫌われようと、彼が守ろうとしたモノは…空ちゃんをこの手で守りたかった。
それがたとえ「偶像」だとしても「間違い」だとしても、幸せで在りたかった…っ。
ピキッ、パキッ、ピキピキッ――
先よりも甲高い音で――彼女の「心」を覆って閉ざしていた「氷」は音を立てて割れる。
・
・
・
「…殻を、破った」
自身の体を己の「氷」で覆い尽くして無理矢理持ち上げ、重力に抗う
上から押しつけられる重力。破壊される「氷」の鎧。壊される度に作り替えて己の体を持ち上げ、足で立つその執念に驚く。
「…私は、馬鹿です。大馬鹿者です。あなたの言う通り弱い。何もかも。あなたに言われないと、大切なことすら思い出せなかった程ですから。つくづく…自分のことが嫌になります」
その足で立つ彼女は自身の胸に片手を置き、冥を見据える…その顔は全てが吹っ切れたように晴れやかでスッキリとした面持ち。
「ありがとう。まずは一つ、感謝を述べます。そして、私はもう迷わない。自分の気持ちに嘘をつきません。あなたを打ち倒して…空ちゃんの元に…彼の、カイ君の元に向かう…っ!!」
【氷結解放】
彼女は確かに呟く。
その瞬間、空気、空間、全てを支配する「冷気」が二人がいる屋上全てを包む。
「…これ、は…」
体の身動きを奪う「霜」。口から吐く白い息。それを引き起こした
「こんなことに意味はない。私が一番わかっている。でも、ここでこのまま食い下がったら私は何も変われない。そして――神崎冥さん、あなたの期待に、応えたいと思った!!」
氷冷を集めて造形された「守護鎧」が亜沙の背後に佇む。それは彼女の心を具現化させた存在。「守護鎧」は両手に溜めた白く眩い光の塊を動けない冥に標準を合わせる。
「空ちゃんを守る。カイ君を救う。元凶、天堂尚弥は私が倒す。神崎冥さん。貴女を打ち破って、この罪を精算して、胸を張って二人の「姉」で居られるように!――
彼女の咆哮とともに氷冷の塊は放たれる。亜沙と冥二人の中間で止まるそれは――暴発。
辺り一面を巻き込む眩い輝き。晴れた空から粉雪のように氷の粉塵が舞い散る。
「――桐崎亜沙。あなたの気持ちは、想いは確かに私に伝わった」
体を包む黒い膜から無傷で姿を見せる冥。そんな彼女を見て唖然と立ち尽くす亜沙。
亜沙の「本気」の攻撃を受けてかすり傷一つ負わない余裕を見せる冥は薄く笑う。
「撤回する。あなたは強い。あなたの気持ちは本物。でもこれだけは覚えるべき…海を貰うのは私の役目。それでも…諦めないと言う気持ちがあるのならいつでも挑んでくればいい――」
一瞬で亜沙の背後に立つ。
「だから、今はおやすみ。きっと海の妹も無事。なんせ、私の相棒が向かったから。それに、海は絶対に負けない」
「…信じて、います」
そっと彼女の頭に触れ、昏睡させる。
「…ほんと、あなたも海も…不器用」
気を失う彼女を支え、苦笑する。
静かに氷冷で作られた「守護鎧」が崩れ、辺り一面を覆う氷の世界も主人の意識が途絶えたことで役目を終え、跡形もなく四散。
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