第51話 決着 *佐島サイド


 竜の右腕に【黒炎】纏う佐島は対峙する相手――『邪教』幹部「運び屋」を睨む。


 そして、思い返す。


『佐島。君には…君にしかできないがある。君の今後を左右する物でもある――いけるか?』


 主人に任された「役目」。


(…自分の不始末は自分で消化しろ。ホロウ様は俺に奴と戦う機会をくださった。そして…それはきっとこの【黒炎】も意味がある)


 右手から吹き荒れる【黒炎】を見て考える。そんな佐島に「目」を爛々と輝かせた「運び屋」は満面な笑顔で親しげに話しかける。


「ほほほ。まさかお相手が佐島様だとは…お元気そうで何よりで御座います。して、その「竜の力」も健在。ホロウと似た【黒炎】も使える。流石、佐島様で御座いm――」


「諦めろ。性懲りも無く「洗脳」しようと企んでいるようだがそれは不可能だ。今の俺には「迷い」はなく、貴様の「呪縛」も解けた」


 「運び屋」の言葉を遮り右手を翳す。そこから【黒炎】が呼応するように燃え盛る。


「この【黒炎】がある限り俺は間違えない。主人に賜ったこの力がある限り」


(…抵抗レジストされた…ふん、まあいいでしょう。私の役目はあくまで「足止め」。星見様も空様には勝てないでしょう…っ)


 生意気な態度に平静さを乱されながら名取空の強さを知っている老人はほくそ笑む。


「老害は、無駄なコトを考えたがる」


「っがあっ!?」


 動く動作すら察知させず、暗殺者のように懐に忍び寄ると容姿なく顔面を殴る…迫る危機を察知した老人は遅ればせながらなんとか片腕でガード。竜の腕で薙ぎ払うように殴りつけられた老人は吹き飛び、追撃と称してその近辺に居た怪物を両手に纏った黒炎をぶつけ、焼き尽くす。


『――ッ』


 怪物は跡形も残さず消え、倒れる老人を上から見下ろす。


「くだらないことを考えているようだが、彼女は…は負けない。ホロウ様に追いつくため力を求めた彼女は、絶対に」


 その確固たる自信のもと、ローブの埃を払い立ち上がる老人に対して語る。


「…ほほほ。それはどうですかね」


 自分を守る怪物を呼んだもの一瞬で蹴散らされる。殴られた腕の痛みをポーカーフェイスで隠し、片方の腕で押さえ…少し後ずさる。

 

(…佐島様の攻撃は触れてはならない。私の身を傷つける。まるであの時戦った「ナナシ」様のように…っ!! あの【黒炎】は本物…?)

 

 その事実に辿り着いた「運び屋」は先程の余裕と打って変わって冷や汗が背中に伝う。

 「運び屋」は【影化】という己の唯一無二のスキルに自信があった。

 それはどんな攻撃も【影化】を使えば防げるから、しかし天敵はある。それが…【黒炎】。


「顔色が悪いな。どうした、お得意のポーカーフェイスが崩れてるぞ?」


 その指摘にギクリと肩が揺れる。それを隠すべくなんとか平静を装うと軽口を叩く。


「…気のせいでしょう。人の顔色を観察する暇があるなら向かってきたらどうですか?」


 自分の体を影のように空気中に四散させ消える。消えたかと思えば佐島の周りを分身のように作り出された五人の「運び屋」が囲む。


《ほほほ。どれが本物の私でしょうかねぇ。もしかしたらこの場にはもう私の本体は居ないのかもしれませんねぇ。さa ――っ!?》


 惑わせ、判断を鈍らせ、煽るため言葉巧みに誘う…そんな「運び屋」を全て包み込み消し去る黒炎が周囲を燃やす。


「見苦しい真似はよせ」


「ひ、ひいっ!?」


 佐島の目の先に地面にへたり込む「運び屋」の本体は【影化】が解け、自分の姿が晒されたことに悲鳴をあげ、怯む。


「残念だが、貴様と戯れる時間はないっ」


 竜の腕に変えた右腕を構え、今も地面にへたり込む「運び屋」の腹部に容赦なく突き刺す。


「ガフッ!?」


 吐血を吐き、腹部に突き刺さる佐島の腕を抜こうともがくもそれを拒み強く押し込む。


「消えろっ!」


 「運び屋」の腹部を突き刺した竜の右腕から黒炎が溢れ――辺り一面を覆う爆裂が起こる。


 黒煙が晴れ、立ち上がる佐島ただ一人の姿。


「――手応え、あり」


 右手を戻し、見える範囲を見渡すと一つの懸念…「復讐」を果たせたことに息を吐く。


(ゼロ距離…【黒炎】の一撃を受けた。奴とはいえど仕留めただろう。仮に先の一瞬で逃げたとしても深傷を負いそう遠くは離れられない。確実にトドメを…刺したいところだがどうも胸騒ぎがする。依瑠の手助けが、優先か…)


 少しだけした腕を隠し、無理に深追いすることなく体育館に足を向ける。


 ・

 ・

 ・


「ほ、ほほほ。爪が、甘いんですよぉ」


 佐島が去ったあとモヤと共に姿を見せる「運び屋」は脂汗を浮かべた状態で地面に倒れる。


(…しかし、危なかった。あの…一瞬の判断がなかったら私は…っぅ)


 突き刺された腹部。僅かな黒炎を受けたことで微かに焦げた体。焼かれたことで傷口から溢れた血が固まったのは運が良かった。


「暫く、動けませんね。誰か呼ぶとしても…結界があるから外部からは呼べない。やはり、私と天堂様以外に誰か呼ぶべきでした――ぁ?」


 独り言として呟いているとおかしなことが起きた。何故か


「厄介なので消えてもらいます。もとよりの邪魔になる要素は、掃除致します」


 された「運び屋」はなんとかまだ保つ意識の中、それを見た。

 近くの建物の屋根に佇む…佐島たち【虚】が着る灰色ローブに身を包む謎の人物を。


(…だ、誰ですかっ。私を、この私に、致命傷を与えられる人物など…一体…)


「知る必要はありません。何故なら――ここで貴方の未来は永遠に途絶えますので」


 「狐の面」で素顔を隠す謎の灰色ローブは正体を教えることなく、近くに浮かぶ――数多の光の塊を「運び屋」に――向ける。


(…あぁ、ついて、いないですね。「光」。【虚】で光関連のスキルを使うと言えば――旦那様、お嬢様、私は――)


 それ以上考えること叶わず「運び屋」――漆のその命は途絶える。

 

 漆を殺害した謎の人物は既に姿を消し、幾つかの小型のクレーターと周りに飛び散る肉片の赤黒いシミだけがその場に残る。



 

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