第49話 *由仁・辻&???サイド


 各箇所に設置された「コア」に辿り着き「番人」たちと戦いを繰り広げる彼女たちとは別。避難区域とされた校庭に動けない観客たちがいる。怪物の魔の手から守る由仁たち。


「〜♪」


 由仁は熱唱し己が作った半透明の結界に二重、三重と重ね掛けする。


『ゲヒヒッ!』


 無防備な由仁を狙い襲う赤黒い体を持つ怪物は一斉に攻撃を仕掛け…【ホロファン】の隊員や他『探索者』たちが食い止める。


「【歌姫】様に近づけさせるな!」


「俺たちならやれる。【歌姫】様の恩賜もある。それに――」


 ズジャジャジャっ


 怪物たちを纏めて薙ぎ払う…数多の「鎖」を見た『探索者』たちから歓声が上がる。


「――【虚】が居る! ただし、彼女だけに無理をさせるな! 俺たちも続けえっ!」


『おおっ!!』


 『探索者』を纏めるリーダーの言葉に雄叫びをあげるその他の『探索者』たち。

 怪物は「不死身」だとわかっているがダメージは受けるし「再生」をする時は動かない。

 それを理解しているからこそ――四人一組となり怪物たちに必死に挑む。


 以前と数を減らさない怪物たち。ただ由仁たちは劣勢に立たされてなどいない。

 むしろ「守り」に特化した【十傑】【虚】『探索者』が集まったことで優位に動ける。


「――辻さん! 一旦『探索者』皆さんのバフを抑えて観客の「治療」を優先します!!」


 戦況を見て「大丈夫」だと判断した由仁は空中に舞って鎖で怪物と戦う辻に声をかけた。


「任せて! こっちは全然余裕があるからあなたはそちらに専念して。あなたたちもわかってるわね? 活、入れなさいよ!!」


 由仁の判断を受け入れ、周りにいる『探索者』たちを奮起ささるべく告げる。


『はい! !!』


「誰が姉さんよ!!」


 変なあだ名に怒鳴り、周りの『探索者』たちの余裕の表情を見て、顔を綻ばせる。


(「観客」の「護衛」を任された以上、期待を上回る成果を出す。あなた様が望む世界を。私たちが目指す未来を。そして――)


 周りの怪物を「鎖」で薙ぎ払いながら想う。


 ・

 ・

 ・


「【歌姫】様、苦しいよ」


「私たち、このまま死んじゃうの?」


 大の大人たちが苦しむ中、それ以上に耐性を持たず重症化した子どもたちは【歌姫】由仁の姿を見て涙を流し、無意識に助けを求める。


「大丈夫。あなたたちは私が必ず、絶対に守るよ。それにあなたたち――には最高で最強の味方がいるの。だから、頑張ろう!」


 そんな子供たちに笑顔を見せると励まし、癒すべく目を瞑り…「癒しの歌」を熱唱。


「〜♪」


 由仁が“癒し”を込めて熱唱すると「観客」の身を包むように薄緑色のベールが包む。


「! なんと、苦しさが和らぐ…!」


「痛みが治った…」


「奇跡だ」


 今も額に汗をかき熱唱を続ける由仁に対して「観客」たちは手を合わせて拝む。


(…私の“癒し”でもみんなを救える。それは多分…が行った「処置」のお陰。安心してください。貴方様が守るモノは私が代わりに全て守り通します。だって――)


《ホロウ様に褒められるため!!》


 二人の想いは重なる。

 その強い「想い」を秘めた二人は負けない。



 ∮



 そんな彼女たちとは別に動く影があった。



 名取海は天堂尚弥は見落としていた。会場内には自分たち以外…もう一人、とある生徒が自分の役割を全うすべき残ってることに。


「はぁ、はぁ。はぁっ…」

 

 とある男子生徒――はたまたまトイレに立ったことで外への退路が断たれた。

 ただそれは別段「最悪」な状況ではない。むしろ「最善」と言ってもいいだろう。


「はぁ、はぁ。あと、少し…っ」


 苦しそうに脂汗を流し歩を進め目指す。名取尚もとい天堂尚弥が司会をしていた放送棟に。

 その歩みは遅い。なんせ彼も天堂尚弥が設置した「装置」の影響を受けて動くのすらままならないほど体調が悪く、海が症状遅延のために放った【黒炎】に触れていないのだから。


「君は、さ、僕に…僕たちに「覚悟」を見せた。なら、次は僕たちの、番だろぅ?」


(苦しいのは嫌いだ。痛いのは苦手だ。だからと言って、止まる道理はない…っ)


 なんとか放送棟に辿り着き、椅子に腰掛けることに成功。その姿は満身創痍。それなのに顔に貼り付けた笑顔だけは絶対に消さない。


「…これで、何が変わるかわからない。でも、何もしないよりは、何かして…一ノ瀬君。君の手助けになるのなら、僕は死も厭わない…っ」


 予め事前に用意しておいた「ハッキング」様USBをパネルの側端に差し込む。


「…最高権限者獲得、成功。楽勝さ」


 「解除」と表示される画面を見て放送棟…『探索者育成学校』全てのセキリュティを「ハッキング」した三鷹は次の行動プロセスに取り掛かる。

 寒さでかじかんだように自由に動かない指先を無理矢理動かしてキーボードを叩く。


「…校内だけでいいんだ。範囲を絞れ。映像があれば、いいが…無理なら、音声だけでも…彼の勇姿を、努力を、みんなに届ける…っ」


 口にした通りは何の成果も何の役にも立たない行為なのかもしれない。だが、どうしても彼…三鷹は許せなかった。

 何が「悪」で何が「善」なのかわからず自分たちが忌み嫌った生徒…一ノ瀬涼名取海に助けてもらったことすら知らず、のうのうと守られる『探索者育成学校』の生徒、職員たちが。


「「真実」を目で耳で、確かめろ。言い訳などさせない。被害者ズラなど、させない。お前ら全員が当事者だ。なぁ、黙っとけよ。彼の邪魔をするなよ、迷惑、かけるなよっ!!!」


 咆哮をあげ、Enterキーを押す。


 どさり


「…一ノ瀬君の、勇姿は校内全体に広がる。はは、馬鹿野郎。ざまぁみろ。お前たちを守っているのは正真正銘――「英雄」だ!」


 椅子から転げ落ちた三鷹は笑顔だけはやめず、最後の力を振り絞り片手を上げる。


(…僕はさ、昔からPCを弄るのが好きだった。プログラミング、ハッキングが趣味だった。周りから笑われた。でも好きなものは仕方ない。だからやめなかった。その「好き」で大事な、大切な…友人を守れるなら、本望だ。なぁ、一ノ瀬君。僕も、君に劣らず…


 自分の「役目」を終えた。三鷹の腕は力なく下がり、瞼を閉じた彼は――校内に会場の二人の音声が流れるなか…意識は途切れた。



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