第48話 *冥&黒椿サイド


 *冥サイド


 「探索科」校舎屋上。


「――ナオ君の邪魔をする相手が貴女だとは。ねぇ…【神姫】さん?」


 凍りつく屋上で待ち受けていた彼女、桐崎亜沙は自分の元に現れた相手――【神姫】こと神崎冥を見て冷笑を浴びせ向かい入れる。


「不器用な女」


 相手の言葉を聞くことなく、哀れな目を向け、凍りつく屋上の床を何事もなく歩く。


「…藪から棒になんですか?」


「勘だけど…桐崎亜沙。あなた――?」


 目で見て、肌で感じたことを口にした。


『――この学校にはリーダー…海クンの妹ちゃんと幼馴染ちゃんが居るワ。その二人もおそらく…天堂尚弥に「操られている」。だから…「コア」を壊す時にもし出会って、海クンのことを忘れていたら…救ってあげてほしいノ。彼、ああ見えて結構不器用だから。本当は自分が一番助けに行きたいのに…だから、ネ?』


 それは東と名乗る男性から聞いた言葉。


 当初は冥も二人が「操られている」…「洗脳状態」にあると思った。しかし、今目の前にいる女性は「違う」と直感で感じた。


「…やはり、質問の意図がわかりませんね」


 訝しげな目で見てくる彼女を見てわざとらしく肩をすくめると面倒だと思いつつ説明。


「これも私の勘に過ぎない。名取空を守るため「操られるフリ」をした。しかし、隠し通すには限度がある。だから自分の「心」を無理矢理閉ざして自分自身を欺き、何も見ようとしない。目を逸らす。わからないことでもない。だけどそれはただの逃げとなんら変わらない」


「…心を閉ざしたのは認めます。ですが、それは「悪夢」を忘れるためであり――」


「全部言い訳。学生の割には知的で実力があると思った。結局、期待はずれ。心も何もかも、弱い。まぁ、所詮、学生。幼馴染なんて――」


 「目」を見て確信を得た。反論する小娘の言葉など耳に通さず、決定づける。


「……」


 話を最後まで聞くことなく床に散らばる氷冷をツルのように伸ばし――冥に巻きつく。

 氷のツルに体を拘束された冥はツルが触れた患部から凍りつき、なすがまま。


「聞くに堪えない無益な時間でした。貴女こそ期待はずですね。【十傑】のNo.2と言うほどなのでどの程度の実力かと思っていましたが…どうでもいいことを話すばかりで避けることもできない。これで、終わりです――っ」


 バリン


「何が終わり?」


 なんの前触れもなく氷のツルが粉々に破壊され解放された冥は着地と共に小首を傾げる。


「――何をしました?」


「割った」


「…そうですか」


 冥の言葉に「馬鹿にされている」と捉えた亜沙は周りの氷冷を剣や槍、武器に変える。


「これも割ってみな――」


 バリン、バリン、バリンバリンバリンバリンっ


「っ」


 宙に浮き矛先の標準を冥に合わせ射出する工程まで進めてあと放出するだけだと思った矢先、一つの氷剣の破壊を皮切りに連鎖して氷の武器種はほぼ壊滅し、破壊される。


「生成、速度、判断、遅い。それでは壊してくださいと言ってるようなもの。無論、スキルなんて使ってない。この子で全て破壊しただけ。優しいから教えてあげる…優しいでしょ?」


 太刀、月夜の鞘を無表情に片手で撫でる。


「武器の構えも、遅い」


 パリン


「は?」


 抜刀した細剣が真っ二つに折れていた。


「もういい。意味はない。価値がある戦いなど見込めない。「ゆきしろ」の抹茶パフェを食べる方が断然、有意義な時間」


 抜刀の構えをとり――亜沙の背後にある凍りつく正方形の物体――「コア」を狙う。


「っ。調子に、のらないでくださいっ!!」


 その行動を阻止し、相手を遠ざけるべく氷の津波を広範囲に作り出してぶつける。


「必要がない」


 氷の津波を見て「左目」を瞑る。


「!?」


 氷の津波は、亜沙は…「重力」の負荷をかけられ問答無用で地面に縫い付けられる。

 氷の津波は結晶となり四散。亜沙は何が起きたのか理解できず、うめき声を上げるのみ。


  【月詠】


 それは仮の名で別名【魔剣・ツクヨミ】。武器としての性能もさることながら「重力」を操る力を保有している魔剣の一つ。

 使い方は「月夜」を抜刀した際に起こる現象「月」の力を使う。常時発動出来るようにと死に物狂いで修行をした冥は「月」の力を借りずとも…「左目」を犠牲に「重力」の力を自由に扱える。回数制の制約すら克服した。


「知ってた? 幼馴染は何においても、負けフラグ。桐崎亜沙。お前は「幼馴染」止まり。何も守れない。何も手に入れることなく。もし、感情が戻ったとしても。その密かに潜めた想いを発散しない限り…不器用でつまらない女」


 「コア」に向けて素早く抜刀。


 ピキッ、パリン


 凍りつく「コア」をものの数分で破壊し地面に張り付く亜沙に冷笑を向ける。


「おかしい。心を閉ざした割には…悔しそうに怒りに満ちた顔をする。お前の守るものはもう何もない。私に勝てる道理もない。動くこともままならないお前は、何ができる?」


 戦いは終わった。

 守る「コア」はない。

 冥は彼女――亜沙を煽る。

 彼女――亜沙は悔しそうに冥を睨む。



 ∮

 


 *黒椿サイド


「――三つ目の「コア」の在処を教えてあげる。ただ、条件。


 依瑠と冥と別れた黒椿は自分の本能に従い前へ前へ進む。そんな時、白色ローブを纏う謎の人物からそんな話を持ちかけられた。


「貴女は?」


 声音から「女性」だと判別はできるもの、それ以外は不確かなため警戒が解けない。


「今は私のことはいい。それで、どうする?」


(…無償で三つ目の「コア」がある場所を教えてくださる…本来なら疑うことなく信じますが…あまりにも不自然で、怪しい…)


 怪しんでしまい信じきれない自分がいた。


「あぁ、もう。本当に時間がないんだって…わかった。これはあなたのお義弟…一ノ瀬涼君に借りを返すため…お義姉さんのあなたに伝えてるの。彼、天堂尚弥と戦ってるんでしょ?」


「…海君のお知り合いですか?」


 少し、警戒心を緩める。


「知り合いって言うか、先輩って言うか…まぁそんなことより。どうする?」


(海君のお知り合いでしたか…信じてみてもいいのかもしれません。あの子の知り合いなら)


 「名取海」の「知り合い」という理由だけで黒椿には信頼する価値があった。


「教えてください」


「OK。場所は「普通科」一階保健室…に隠された隠し階段を使った地下施設。そこに最後の「コア」がある。あなたのよく知る人物も待っていると思うから、心してかかりなよ」


 それだけ伝えると踵を返す。そんな彼女に疑問に思ったことを背中越しに質問として投げた。


「あ、あの…どうしてわたくしに?」


「…罪滅ぼし、みたいなもの。家族の不始末は家族が取るように…色々とあるの。私自ら手を下せる訳でもないから、貴女が適正だった。ただそれだけの理由。もう時間もないよ?」


 立ち止まるも振り向くことなく、横目でチラリと黒椿の顔を見て語る。


「…わかりました。この御恩は必ず」


「気にしないで」


 駆けていく彼女の背中を見て女性――上代蒼は役目を終えたことでほぅと息を吐く。


「私も、本当のことを話さなかった。君も、自分の実力を隠していた…たださ、私は形式上「先輩」だ。少しぐらい気を利かせてもバチは当たらないよね。だから、これでもうお互い貸し借りはなし。期待しているよ。あの証言が本当だってカッコいいところ、見せてよ」


 誰にでもなく、初めてできた嘘偽りなく自分の素で話せる子憎たらしい後輩に託す。


(尚弥君。君は私たち――『邪教』が守る一線を超えた。私たちが掲げるのは【無印ノーマ】が存在せず【討伐者スレイヤー】が居る世界。今の彼は誰かれ構わず「選定」し、よりよい世界を作ろうとしている。それはダメだ。だから、消えてもらう)


 彼女の体は血潮のように赤い血煙を発生させ、その体を四散させる。自分がその場に居たという痕跡を何一つ残すことなく。


 ・

 ・

 ・

 

 「普通科」の地下施設。


 「普通科」校舎の一階保健室に行き、言われた通り隠し階段を探したら…見つかった。


(…疑ったことに反省を致します。ですが…)


 意を決して薄暗い階段を下ると光が見え、空けた空間に出た。そこには研究施設のようなラボがあり、周りに無数の培養器が並ぶ。


「こ、このような場所が保健室の下に…」


 緑色の液体で満たされた培養器を見ながら奥へ進む。少し進んだ先に…その人物はいた。


「…ノア、ちゃんですか?」


 黒色のローブで頭から踵まですっぽりと隠した人物。その後ろ姿を見た黒椿は目の前にいる人物がだと確信した。


「…よくわかりましたね」


 体を反転させ、フードを脱いだ黒椿ノアは隠すつもりはないのかただ無表情に口を開く。


(…あのローブの方が話していた人物は…ノアちゃんのこと?)


「ノアちゃん。ここは危ないので外に出ましょう。お父様とお母様や教会の子たちが集まっている避難区域があるのでそちらに――」


は本当に変わりませんね」


 普段と変わらず温厚に話しかけてくる実の姉を見て皮肉げに語る。


「この状況を見て何もわからないとか言わないですよね? 私は姉さん…あなたたち【十傑】の敵です。『邪教』と言った方が早いですか?」


「! じょ、冗談ですよね? あの、ローブは『邪教』の方たちと似ていますし、怪しい場所に居ますが、昔のように遊びの延長戦で…」


「は、はははは。何処まであなたは脳内お花畑なんですか。なら、証明してあげますよ」


 黒椿の話に最後まで耳を貸すことなく、乾いた笑みを漏らす彼女は片手を掲げる。


『グゲゲッ、ゲヒィ』


 彼女の意思に従うかのように会場に現れた赤黒い体を持つ怪物が六体現れる。


「…私は、昔から姉さん。貴女のことが大っ嫌いだった。私の欲しいものを全部持っていて、誰からも愛されて…比べられることが、何よりも嫌でこの蓄積された憎悪は増幅する。それは今も変わらず、憎くてたまらない…っ!!」


 貯めていた心の内を吐露する。


「――っ」


 そんな怒る彼女に気の利いた言葉をかけることも出来ず、ただ悲しい気持ちが溢れる。



  

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