第47話 *依瑠&???サイド
校舎に設けられた三つの「
限られた時間内に「
*依瑠&???サイド
依瑠と謎の灰色ローブの二人は「普通科」別棟にある体育館に向かっていた。
(体育館に「
「……」
真剣な面持ちで前へ前へと徐々に速度を上げて進む依瑠の後に続いて駆ける灰色ローブ。
「ほっほっほ。この先は行かせませんよ」
『!』
突如、聞こえたやけに耳に触る声に二人は動きを止め、周りを見回す。
「【虚】メンバーが一人。そして――【召喚士】の星見様ですか」
何もない空間に煙のようなモヤが発生。
そこから現れる黒ローブに身を包む老人――「運び屋」が姿を見せる。
「ほほほ。「精霊」について調べたいと思っていたところですので運がいいですねぇ」
「…っ」
厭らしい視線を向けられた依瑠は嫌悪感から一歩後退し、庇うように立つ――灰色ローブ。
「先にいけ」
少し、くぐもった声でそう言われた。
「で、でも…」
「俺は【虚】。お前が心配するほど軟弱ではない…それに、早く名取海を救いたいんだろ? こんなところで立ち止まっている場合か?」
「っ。う、うん、ありがとう!」
灰色ローブの「男」に背中を押された依瑠は「
「逃すわけがないでしょう」
「運び屋」の言葉に何もない空間から近衛と似た赤黒い体を持つ怪物が二体出現。
『ゲヒッ、ゲヒヒッ』
怪物は背後から依瑠に襲いかかる――ところをその背後から伸びた竜の腕が潰す。
『ゲヒグゥッ!?』
「お前の相手は、俺だ」
怪物をミンチにした灰色ローブの男は依瑠を背に庇い「運び屋」の対面に立つ。
「振り返るな! 走れ!!!」
「!」
足音が止まったことを音で察した灰色ローブが叫び、言われた通り――駆ける。
「…ほほほ。邪魔をしてくれますねぇ。この仮は高く付きますよぉ」
すでに遠ざかる依瑠の背中を見て今から追いかけるのは至難の業と悟った「運び屋」は目の前の邪魔者を睨み少し苛ついた声を上げる。
『ゲヒヒッ』
その両隣にはいつの間にか先程と同じ赤黒い体を持つ怪物が出現。
「お生憎様、仮は俺の方が何倍もデカい」
振り返ることなく先程ミンチにした怪物に片腕を向け――【黒炎】を放つ。
ズジャッァァ
「再生」されることなく生涯を終えた肉片は炭化し、灰となり風にのって散る。
「これ以上…俺と同じ人間を生み出さないため貴様はここで引導を渡す。【虚】メンバーが一人。No.8【正義】――佐島大地が、必ずっ」
灰色ローブは目深に被るフードを脱ぐとその端正な容姿を晒し――憤怒の瞳で睨む。
「な、なんと…!?」
【黒炎】と似たスキルを扱ったこと。
怪物が何もできず消されたこと。
目の前にいる人物に度肝を抜く。
∮
ズジャッァァ
「!」
背後から聞こえた爆発音に足が止まりそうになるのを抑えて、走る。
(振り向くな、振り向くな、大丈夫。あの人はホロウが「信頼」する【虚】のメンバー。それに彼は、わからないけど…信頼できる)
意味は理解できないもの「彼なら大丈夫」だと信じ、自分の戦いに集中するべく…誓う。
「―― 星に誓いを――【
何が来てもいいように初めから全力で行くべく【
星精霊の力を全身に得た依瑠は星の羽衣を纏い、体育館内に侵入することに成功。
「あぁ〜本当に邪魔者がきた。お爺ちゃんが止めるって言ってたのに…ま、いっか」
体育館からそんな呑気な声が聞こえる。そちらを見ると…宙に浮く青色の立方体を背に椅子に座る茶髪の女子――名取空の姿があった。
「――っ」
(…あの子って海君…ホロウの妹さん? どうして『邪教』に…「名取尚」と騙っていた「天堂尚弥」という男が…原因、だよね…)
作戦を実行する前…事前に写真で見た。「番人」は『邪教』だとばかり思っていたが想定外の相手の登場に思考動作が止まる。
(…彼女の背後に浮かぶ青色の箱…「
「あ、あのね。私の名前は星見依r ――っ!?」
優しく話しかける。そんな依瑠の思いを嘲笑うかのように正面から自分に目掛けてナニかが飛来する空気、予感を感じとりその場を退避。
ズドンっ
「……」
今さっきまで依瑠が居た場所――体育館の入り口扉は無造作に抉られ、大きな穴が開き外が丸見えになっていた。
それは何かとてつもない重量の物体が突撃したような光景で、依瑠の額に冷や汗が垂れる。
「えぇー、今の避けれるの!? 殺すつもりで攻撃したのに…残念だなぁ」
椅子から立ち上がった彼女は悔しそうに、それはもう悔しそうにその場で地団駄を踏む。
(今の、何? 彼女は何をしたの?…スキルを使ったのはわかるけど…何も見えなかった。動作も… もしも、【
その事実にゾッとした。
「あぁ、私に交渉?か何かをしようとしていたけど無駄だよ。この場所に来た時点であなたは尚兄の敵。ということは…私の敵でもあるの」
それは早い話「お前の言葉を聞く気はない」という表し――正しく拒絶。
「待って、少しだけでも私の話を聞いて。あなたは名取海…君の妹さんだよね? どうして天堂尚弥なんかの味方をして――っ」
また、前方から飛来する形の無い攻撃を察知してなんとか真横に転がり回避。
「話すことはないと言ったよね。それに尚兄の味方をするのは当たり前でしょ? あとさ、名取海って…誰のこと言ってるの?」
「ッ」
嘘偽りのない眼差し、本気の言葉。それを理解した依瑠は東から事前に聞いていた話が「本当」であると理解し頭に血が昇るのを感じた。
「…あなたは本当に全部…忘れちゃったの? 大切な思い出も、楽しかった日々も。本当の家族の――「お兄ちゃん」のことも!!」
胸から込み上げる「悲しみ」を押さえてどうか彼女の「心」に届けと叫ぶ。
それは三手に別れる前の話。
『――この学校にはリーダー…海クンの妹ちゃんと幼馴染ちゃんが居るワ。その二人もおそらく…天堂尚弥に「操られている」。だから…「
海自ら提供した“この学校は操られている”という話を聞かされていた東は「味方」である依瑠たちに包み隠さず、苦笑混じりに話した内容。
(…許せない。彼女たちの想いを踏み躙り、自分の道具として使って、過去の思い出を改竄して…無理矢理、彼女たちを…っ!!)
「五月蝿い!!」
「!」
また、不可思議な攻撃は彼女の意思に従うように放たれ――依瑠が居た床が消失。
「! 星壁!!」
足場のなくなった地面に星の熱量を集めて壁を作り出し仮の着地地点を生成。それを足場に崩壊から巻き込まれることなく逃れる。
「黙れ、黙れ、黙ってよ。私のお兄ちゃんは一人だけ…っ。他に何も要らないし、居ない。私のお兄ちゃんは…尚兄だけ。世界に一人だけの大好きな。適当なこと、言わないでっ!!」
片手で額を抑え、何故か痛む頭を振り払い瞳孔を開き憤怒の顔で怒る彼女は攻撃を避け無防備を晒す依瑠に向けて容赦の無い攻撃を追い討ちのように放ち、確実にトドメをさす。
「――っ」
それは先程とは比べ物にならないほど苛烈で依瑠が足をつける床諸共…体育館の半分を巻き込み崩壊させる広範囲の攻撃。
「あ、あははは。私の、お兄ちゃんの邪魔をする奴はみんな、全員、全て死ねばいいんだ。私の【空間魔法】は強いんだ。私の思い通り目障りな奴を消す。邪魔をしたから死んだ――」
「――【空間魔法】、ね」
「!」
その声は崩壊した場所から聞こえる。
「目で見えなかった不可視の攻撃は空間自体に干渉して何もかもを消す攻撃、か。強いね。でもさ――星の熱量までは消せないね?」
微量の星の熱量を体から放出する無傷の依瑠はその足で歩き、彼女のもとに進む。
「私もさ、あなたの気持ちわからなくもないんだ。大好きな…「家族」を亡くした痛みを知るから。大好きな人が馬鹿にされるのは、大好きな人のために行動をするのは間違ってない。でもね、ハッキリ言うよ。今のあなたの心は此処にはない。作られた心を持つあなたの本心はそこにはない。名取空ちゃん。本当は、あなたも心の奥底ではわかってるんじゃないの?」
「っ。勝手なこと、言うな。私は――」
「じゃあ、なんで――泣いてるの?」
彼女の瞳から流れる涙を見て指摘。
「! こ、これは…」
指摘されたことで反射的に涙を拭う。自分が無意識に涙を流していることに気づいた。気恥ずかしさから反抗的に依瑠を睨みつける。
「大丈夫。安心して。お姉さんが助けてあげる。空ちゃんの心を絶対に救ってあげる。だって――あなたの「お義姉さん」になるんだから。これぐらいの試練、クリアしてあげる」
依瑠は彼女を救うと決めた。
見捨てることなく、優しく微笑む。
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