第46話 命を賭けた一時間
「あぁ、くだらない会話に付き合う暇はさらさらないよ。三つ目の選択肢――それは、“全ての人間を守る” 。さぁ、始めようか」
瀕死だと思われた人間、急展開の事態にみなの頭から忘れ去られた人間が喋る。そんな奇妙な状況を見た男――天堂は、笑う。
「…“守る”と口にして実際、怪物共と同じく皆殺しにしているじゃぁないか。それか何か? 「死」が「救済」とでも言うつもりか?」
「状況を把握してから語れよ、ノウタリン」
一度、指をパチンっと鳴らす。
【黒炎】は消え、気を失うように横たわる観客。先程のように苦しむ姿はない。
それとは反対に怪物は大半が炭化し、生き残った怪物たちはその身を燃やし苦しむ。
「…全てを救う。有言実行。お前の企みも何もかも、封殺するさ」
チッ。怪物は元に戻せなかった…根っこから肉体を改造されてたのか…クソッタレ。
『竜の峠』で出会った時の佐島と同じ気配を感じた「怪物」。
それらを自分の【黒炎】で治せるのではないか?と思ったが、予想は大きく外れた。
「ふん。おめでたい話だ。それで救えたと思うか? 残念ながら――」
「「装置」とやらを止めるまで無制限に生命を吸うんだろ? んなの鼻から理解して行動して、話してる。僕がやったのは少しでも段階を遅くする「処置」。全て自分一人が理解していると思うなよ――脳内お花畑野郎」
相手が一を話す。
それを十で返す。
「そして、自分たちが常に優位に立てていたと思ったか?…全て織り込み済みでこっちも計画を立ててたんだよ。舐めるなよ」
「一ノ瀬涼」という皮を捨て、「名取海」として振る舞うと決めた海は手を振るう。
すると、淡い青色の輝きを灯し会場にあれだけいた人々が全て忽然とその姿を消す。
「…何をした?」
「知る必要はない」
「――やれ」
「話し合い」は「無駄」だと自分に逆らう邪魔者を消すため怪物――近衛に命令。
「――死ねっ、一ノ瀬ェェ」
怪物はその命令に従い海に飛びかかる。そんな哀れな生物を前に片手を向ける。
「死ぬのはそっちだ」
「――カヒュッ!?」
空中に浮いたままその身を【黒炎】に燃やされ、何も成せることなく灰となり、消える。
「言っただろ――「許さない」と」
その言葉はもう「聞こえない」とわかっていながら白けた目でただ淡々に告げる。
「――予定通り。あとは任せたよ」
背後に佇む――「仲間」に託す。
『……』
三人は同時に無言で頷き、リングに残っていた【十傑】の三人と依瑠諸共姿を消す。残されたのは名取海と天堂尚弥の二人。
「…我々の実験体を意図も容易く消し去る黒い炎…【黒炎】。我々の計画を知り、邪魔立てをする。まさか、お前は――ホロウ、なのか?」
「はは、笑わせるなよ。いや、ある意味センスあるかな?…ま、なんだ、そんな話は置いといて…僕が――ホロウ様な訳ないだろ?」
天堂の言葉にやれやれと大袈裟に首を振って答える。その仕草が気に食わなかったようでさっきまでの余裕を消し、睨んでくる。
「なら、お前は誰だ。《探索者:ホロウ》が扱う黒い炎――【黒炎】を使い、灰色ローブ――【虚】のメンバーを従える、お前は…一体」
「――名前に、さして意味はないけど」
面倒臭そうな素振りを見せ、口を開く。
「【虚】、No.0【愚者】名取海。みんなのまとめ役…リーダーなんか務めている。ホロウ様直属「従者」が一人。【黒炎】の恩師を授かりし…「運」がいいだけのただの【
言葉を切り、相手を見て嘲笑う。
∮
場所は移り、校庭。
「――貴方たちに求めるのは…邪魔をせず、余計な質問をすることなく…動けない観客の見張りをすること。他は何も求めない」
海が一人、己を犠牲にして天堂尚弥を「結界」内に閉じ込めている外――予め避難区間として設けていた校庭にて【十傑】や依瑠、他の動ける『探索者』相手に…辻が語る。
「ま、待ってくれ。俺たちは『探索者』だ。せめて、少しだけでも説明してくれよ!…それに――【黒炎】を使う彼は、何者なんだよ!!」
一人の男性『探索者』が質問した。
それは他のみんなも問いただしたい内容。
「…黙れ」
『!?』
ただし、その質問に答えることなく女性、辻は整った顔を怒りの形相に変え「威圧」する。
「…あーちゃ…【節制】。少し落ち着きなさい。取り乱し過ぎヨ」
「…っ。わかってるわ」
大柄の灰色ローブ――東に宥められた辻は余計な質問をした男性『探索者』を睨み一度、深呼吸を行い落ち着く。
「…彼はホロウ様ではない。私たち【虚】のリーダーを務める人物」
『!』
その答えに周りの人々は息を呑む。
「天堂と名乗る男が口にした言葉は事実。「
『…っ』
「命と引き換えに」という言葉に言葉を失う。そして、みんなは思い出した。
「学校の敷地内に隠された「装置」を維持する
その言葉に重みが加わる。
「狡猾で悪辣な『邪教』のこと…スキルを使えなくするルール。悪どい言葉を投げかけるでしょう。だから…リーダーはスキルすらまともに使えず私たちが「
自分の口で話して、その決断をさせてしまった
「リーダーはこの決断をする時アタシたちにこう言ったワ。“「適材適所」。自分しか天堂尚弥を止められそうに無いから「あとは任せた」”――アタシたちは「信頼」されたの」
俯き、肩を震わせる辻に変わってフードを外し素顔を晒した東が訴えかけるように語る。
「今も、リーダーは「死ぬ気」で天堂尚弥の行動を止めている。それは全て…「みんな」を守るため。だからお願い。アタシたちの指示に従ってちょうだい。これでは、リーダーが…」
「――「人数」は多い方がいい」
頭を下げ、懇願する東の言葉を聞き始めから動こうと思っていた――冥が声を上げた。
「早く教えて――「
「うん。私も「彼」が信じるなら従うよ」
冥の隣に依瑠も立つ。
「――
真剣な面持ちで黒椿も声を上げた。
その背後には教会の子供たちの姿もある。
「「彼」の【黒炎】でも観客たちを元に戻せないのなら本当に「装置」は起動しているのでしょう。私は「治療」「護衛」を引き受けるわ。ここに残って少しでも苦しむみんなを――「彼」が守ろうとした人々を救うため」
校庭の土を東のスキルでベットに変化。その上に仰向けになる人々の元に歩を向ける。
【ホロファン】創始者由仁に続くように動ける隊員たちはみな従う。
「ありがとう。あり、がとう」
潤ませた瞳から流れ落ちた涙を指で払い、東は声を上げた三人に向き直る。
「――「
『望むところ(です)!』
試すように話した結果即答されてしまった。
「…余計な心配のようネ」
彼女たちの「本気」を目にして微笑む。
制限時間は「一時間」。
彼女たちは「
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