第42話 地雷
午前の部も後半に入り「探索科」生徒たちの試合も残り…「決勝」を残すのみとなる。
「探索科」決勝戦。
「稲葉聡太」vs「桐崎亜沙」両者の闘いは闘いと呼べぬ…一方的なもの。
「――紫電一閃!」
競技用片手剣に紫の雷を纏い、電光石火の如く駆けた稲葉は――相手、桐崎に斬りかかり…その刃は桐崎の体に届くことなく止まる。
「ぁ、あぁ、く、そっ!」
凍りつく体。
近づけば近づくほど凍てつく体を刀身を無理矢理動かそうとするが凍りついた箇所から裂け、鮮血の花が咲きその痛みに顔を顰める。
「…つまらないですね」
凍りつく相手に対し冷たい視線を向けため息一つ。言葉の通り“つまらない”試合を早く終わらすために片手に持っていた細剣を構える。
「無益な時間でした」
鞘から刀身を抜かず――目にも止まらぬ速さで胸、左肩…そして額に三回、突きを入れる。
「ッ、ぁ、かはっ!」
胸と肩を突かれた痛み。額を突かれたことで軽い脳震盪を起こし、崩れ落ちる。
『――勝者、三年二組「桐崎亜沙」!』
司会、名取尚の言葉が会場全体に響く。
『ワッーーーーー!!!!』
遅れて歓声が上がる。
「決勝でこの程度ですか…」
倒れる稲葉を二度と見ることなくさっさと退場する女子生徒――桐崎。
その絶対的な強さと美しさを兼ね合わせた生徒に羨望の眼差しが送られる。
「彼女ほどの実力なら『探索者』として直ぐに有名になるだろう」
「噂では彼女が慕う幼馴染の方が強いと聞くが、今回は試合に出ていないのだろうか?」
「それ、司会の――名取君でしょ?」
「叶うことなら今回の『天賦祭』「探索科」で二人の闘いをみたかった」
「無理な願いはするものでは無いだろ」
「…それもそうか」
会場では「優勝者」の彼女――桐崎亜沙という生徒の話題が欠かない状態に。
『これにて午前の部「探索科」生徒たちの試合は終わりとなります。もう一度、今回『天賦祭』に出場し、頑張ってもらった生徒諸君に熱い拍手をお願い致します』
司会の言葉に割れんばかりの拍手喝采が送られ、午前の部は滞りなく終わりを告げる。
・
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「…桐崎亜沙。彼女、かなりやる」
彼女の背中を見て語る。
「私でもわかるよ。スキルだってあの…相手の動きを阻害する「氷」状態にするものしか使っていない。剣技だって…相当の実力だね」
「特例席」に座る冥と依瑠の二人は「本気」を出すことなく「優勝」という勝利の栄誉を掴んだ桐崎の強さについて話題に挙げていた。
先程、桐崎に負けた稲葉や他の参加生徒たちは別段弱くはない。学生にしてはかなりやる。ただその中でも桐崎の実力が抜きん出ていた。
「できることなら、一戦交えたい」
「冥は【十傑】だから少し厳しいかもね」
「むぅ」
不貞腐れる親友の顔を見て苦笑。
(…桐崎亜沙さん。彼女が名取海君の幼馴染で…一ノ瀬涼君の幼馴染でもある…うーん、やっぱりわからない。なら、名取尚君は…)
考えてもわからないことに眉間に皺を寄せ…左手薬指に今も嵌る「指輪」に触れる。
依瑠と冥の二人は「名取海」「名取尚」「一ノ瀬涼」という三人の関係性について調べた。
結果は「名取海」と「一ノ瀬涼」という人間は同一人物であり「名取尚」という人物が何者なのか不確かだった。
おかしいのは「名取海」「一ノ瀬」の両親、妹、幼馴染は「名取尚」を自分達の「家族」「息子」「幼馴染」「兄」と思っていること。
(ホロウとの関わりはまだ未確定だけど、この三人について全て知れば…なんとなく道は自ずと開け放たれると、思う)
「(依瑠)」
「?…(冥、どうしたの?)」
一人、難しいことに頭を酷使し考えていると隣に座る友人に耳打ちをされる。
「(「名取尚」の闘う姿が見れないのは残念だけど、午後の部で「一ノ瀬涼」の闘いは見れる。だから、そう根詰めてはダメ)」
「(…そうだね。ただ自分の正体をわざわざバラすような闘いをするのかな。ホロウが…『天賦祭』に出場するってだけで驚いたし、観客がいる以上目立つし…不自然なんだよね)」
依瑠は二日前…中級者ダンジョン『雨林の杜』で冥に見せられた紙について思い出す。
その紙には――「「一ノ瀬涼」が『天賦祭』「普通科」として出場」と書かれていた。
だからこそ彼女たちはこのチャンスに『天賦祭』「特例席」の枠として参戦した。
「一ノ瀬涼」の義姉である【黒聖女】が参加するのは予想はついていた。
そこに【歌姫】まで参加したのは思いも知れず、【十傑】に囲まれる形になる依瑠。
「(…午後になればわかること)」
「(…うん)」
その一言に納得した。
「(依瑠は気づいた? 「一ノ瀬――)」
「――涼君が見当たらないです」
二人がコソコソと話す中、誰かを探しているのか開会式が始まってから会場中を見渡していた――黒椿の声が耳に入る。
「お義弟君、まだ見つからないのですか?」
隣席に座る由仁が問う。
「…はい。教会の皆様にも探していただいていますが…」
「見つからない、と」
「そのようです…」
(海君。何処に行ってしまったのですか…ノアちゃんも見当たりませんし、姉は寂しいです)
義弟の涼に加え、実妹すら見つけられないことに不安と悲しさで胸が一杯になる。
「…きっと、黒椿さんに見られるのが恥ずかしいから本番まで何処かに隠れてるだけですよ」
心配から暗い顔を浮かべる彼女相手に普段のように煽てる気にはなれず親身になっていた。
「そう、ですよね。そうです! もう、涼君は恥ずかしがり屋さんですね。見つけたら
「……」
普段の雰囲気に戻ったのはいいもの、その大きな胸で「ハグ」をしたら窒息してしまうのでは?と勝手ながら思ってしまう由仁。
(…「一ノ瀬涼」君、ね。何故か黒椿さんの「義理の弟」になった子。彼の写真を見た時から違和感は…胸のざわつきがおさまらない。彼はやっぱり――ホロウ様?…だとしたらいずれ「お義姉様」となる黒椿さん…いえ、「シアさん」と親身になっておくのも悪くないのかも知れませんね。黒椿さんは「姉」という気持ちが強く「異性」という気持ちは今のところ無いようなので…気づかない前に…それに、彼が「名取海」君と同一人物の子なら――)
内心、私利私欲に飲まれる由仁は黒椿を懐柔して「一ノ瀬涼(=「ホロウ」だと認識している)」とお近づきになろうと悪知恵を働かせ。
「ところで、話は変わりますがシアさんは一ノ瀬涼君が「名取海」…という旧名を持っていることは、ご存知ですか?」
「! え、えっと…知りません、よ…?」
(普段から人を騙すという行為を行わない貴方が誤魔化せるとでも? 顔に出てますよ)
目を泳がせる黒椿の顔を覗き込む。
そして、マウントをとることに。
「実はですね〜その「名取海」君に私は――「告白」されたことがあります」
「え?」
トンデモ発言に鳩が豆鉄砲を食ったような顔のままフリーズする黒椿の顔を見て微笑む。
(ふふふ。驚いている。残念だけど事実なのよね。私は昔――Vtuber時代の「ユニ」として活動していた時「名取海」と名乗る人と仲が良く…画面越しだけど「貴女(の声)が好きです」と言われました。「の声」とか…間に入っていた気はしましたが、些細な問題でしょう)
由仁が「名取海」という名前に違和感を感じていた内容は――「昔」自分に告白…紛いのことをした人物と「同性同名」だったから。
(「嘘」をつくことなく「真実」を話せば聖職者の黒椿さんなら受け入れてくれるでしょう。そして義姉の黒椿さんから「許可」を得ることが出来れば私と名取海君――ホロウ様は――)
「あは、アハハハはっ!」
「…し、シア…さん?」
突然大きな声で笑い出す黒椿にギョッと目を剥き、驚く。それは冥や依瑠も同じ。
それはそうだ。怒る時は怒る黒椿だが、周りから見えない「特例席」だからと言って人前で下品に大口を開けて笑うなど、ありえない。
「面白いことを言いますね。海君が由仁様に「告白」?…幻覚、妄想もそこまでいくと一種の病気ですね。きっと、由仁様は心身ともにお疲れなのでしょう。アレでしたら、心労によく効く――心療内科をお薦めしますよ?」
「――っ」
黒椿の言葉に普段のように茶々を入れる余裕など生まれず、由仁は気圧される。
その黒い微笑み。黒椿の体から吹き荒れる黒いモヤ――【闇】を見て恐怖した。
『――只今より午後の部に向けて一時間のお昼休憩を設けます。談笑、お食事を楽しみ下さい』
タイミングよく司会のアナウンスが流れる。
そこで胸を撫で下ろす由仁。
「ちょうどお昼ですね」
黒い微笑み、体から溢れる【闇】は身を潜めると普段の笑顔に戻った顔で手を合わせる。
「海君も顔を出す可能性がありますのでお昼、ご一緒…由仁様も如何ですか? もちろん――冥様と星見様もお昼、ご一緒にどうですか?」
『!!』
由仁はおろか、自分たちに「敵意」が向くと思っていなかった冥と依瑠の肩は跳ねる。
「ふふっ。
そんな三人のマウントを完全に取った状態で黒椿は「逃しませんよ?」と言った様子で微笑みかける。その背後からまた…ズモモと【闇】が這い出し三人の恐怖を煽る。
※作者です。
本日も、拝読ありがとうございます。
タイピングがのり、かなりストックもできたので今夜一話投稿、早めました。
次話は土曜日頃投稿できると思います。
※15時以降になりそうです🙇♂️
拝読はもちろん。応援、コメント、星。執筆の励みになっております。
もし続きが気になる、面白いと思ったら高評価(応援や星様✨)をいただけるとやる気に満ち溢れます💪
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