第41話 天賦祭当日
コロッセオに似せて作られた施設――『武道館』には大勢の観客、生徒、教師が用意された螺旋状の席に腰を下ろす。
開会式を今か今かと待ちに待っている人々は友人同士、隣同士で話し合い会場も熱気で熱く、最高の盛り上がりを見せる。
「特例席」として今回の特別ゲスト【十傑】【神姫】【歌姫】【黒聖女】の三名が居た。
そこにはちゃっかりと【神姫】神崎冥の相棒という枠で…【召喚士】星見依瑠の姿も。
「あ、あわわ。わ、私がこんな皆さんの近くなんて…恐れ多い。め、冥…私、一般席に…」
目尻に涙を溜めた依瑠はおっかなびっくりと言った様子で隣の友人に泣きつく。
「問題ない。依瑠も直ぐに【十傑】入りするはずだから堂々としたらいい」
親指を上げ、ハンドサインで返す。
「む、無理だよ〜」
「ふふふ。お二人は仲がよろしいですね〜」
そんな二人の微笑ましい様子を二つ先離れた席から見ていた黒椿が話に加わる。
「ぴ、ぴぃ!? く、黒椿しゃま…」
黒椿に声をかけられたことにより緊張のピークを超えた依瑠の脳は焼き切れヒート…という表現が正しいほどその場で固まり、硬直。
「黒椿さん。将来有望な『探索者』をいじめないでくださいね」
「い、いじめなどしておりません!!」
冥の隣に腰を下ろす【歌姫】こと
そんな由仁相手に黒椿は焦ってあたふたと取り繕おうと忙しなく弁解。
「うんうん。仲良し」
三人の様子を他人視点で見ていた冥は何度も頷き、斜め上の感想を述べる。
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「おい、見ろよ今回のゲストたち」
「すごい絶景だな。【十傑】ってのもあるけど眉目秀麗の女性たちを拝められて今回の『天賦祭』に来てよかったと思えたわ」
観客としてきた男性二名の会話。
「【十傑】の三人もいいけど【召喚士】星見さんも初々しくていいよな!」
「俺は断然シア様。教会のあのやたら長い椅子で膝枕してほしいわ。バブみを感じたい」
「俺は由仁様って心に決めている。卒業したら【ホロファン】に入る予定だし」
「甘いな。僕はやはり成長途中と言えるあの逆に完成された御身を持つ、安定の冥様――」
『ロリコンは黙ってろ』
生徒(男子)たちも大いに楽しんでいた。
今回は例外なくみんながみんな楽しんでいるがやはりと言ってはなんだが…男性陣の熱気がヒシヒシと感じる。
『……』
そんな男性陣は知らない。周りにいる女性たち全員から白い目を向けられていることに。
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少しするとリングに白髪の男子生徒が現れる。男子生徒を見た観客たちは話すのを止め、今から始まるであろう開会式を待つ。
「――コホン。皆様、本日は御来場いただきありがとうございます。今回、司会進行役を任せていただくことになりました――生徒会執行部、生徒会長を務めます、
マイク越しに話す男子生徒――名取尚は会場の人々に恭しく頭を下げ、挨拶を披露。
少しして頭を上げると端正な顔を緩め、爽やかな笑みを絶やすことなく語りだす。
「本日は天候にも恵まれ、御来場の皆様にも恵まれ、感無量でございます…と、前置きが長くなってしまっても皆様を退屈にしてしまうでしょう。よって――只今より第三回『天賦祭』をここに開会宣言とさせていただきます」
『ワッーーーーー!!!』
開会宣言により会場から溢れるばかりの歓声が上がり、頭を下げ名取尚が退場する間もその歓声は続き、熱気も最高潮に上がる。
『えー、只今より本日の『天賦祭』の流れをお話しします。まだ、少し説明は続きますのでその場で座って聞いていただけると助かります』
スピーカー越しに先ほど聞いた名取尚の声が聞こえ、それと同時にリングの中央に青白いスクリーンが映し出される。
そこには午前の部…「探索科」
午後の部…「普通科」
〆の部…「エキシビジョンマッチ」
となる。
参加する生徒の名前が正方形の枠に書かれ、トーナメント式に進むように形成されていた。
『まず、簡単な流れとして午前の部は「探索科」から選ばれた八名の生徒が力を競います』
説明が進むとスクリーンは変化し、例として勝ち進んだ生徒が頂上まで登り優勝となる。
『どちらかが「ギブアップ」または私たちの方で試合の続行が厳しいと判断したら中断します。ある程度のスキルは使用可となっておりますが、例年通り会場の皆様に危害を加えることのないように「結界」で守られているため安全面は保証しますので楽しんでいただけると幸いです。次に午後の部「普通科」の説明に移ります』
スクリーンは変わり「探索科」と似た画面が映し出される。変わった点は…「一ノ瀬涼」という名前があり数人が心を躍らせたくらい。
『「普通科」の生徒たちは今回が初参加となります。スキルを使わない以外「探索科」と類似します。ただスキルが使えないと侮ってはなりません。彼らは【
「普通科」の参加証明を聞いた会場はザワザワとざわつきだす。
「いいんじゃない?」
「『探索者』におんぶで抱っこという状態も『探索者』たちだけに負担かけるしな」
「少ないとは言え『探索者育成学校』で育った生徒たちなら信頼を置けるわね」
「次世代を担うにはいい環境だろう」
会場から「好意的」な意見が飛び交う。
『御理解いただけたようで感謝致します。ただ、まだ納得がいかないという方々もおられると思います。最後まで彼らの勇姿を見れば再度、考えが変わること間違いなしでしょう。彼らを暖かく見守っていただけると嬉しく思います』
心に訴えかけるような真撃な言葉に「否」を出す人間は誰もいなかった。
『最後に…「エキシビジョンマッチ」ですがこちらは例年通り、最後のお楽しみとさせていただきます。これで全ての説明は終わります。参加する生徒たちを応援し、自分自身も参加したように楽しんでいただけるとまた楽しさも倍増でしょう。試合は、アナウンスにより進行致しますので何卒、御理解いただきますように』
そう締めくくるとスクリーンの画面は変わり、「
∮
『武道館』で「探索科」生徒たちの熱い闘いが繰り広げられているなか、ある人物も熾烈な「死闘」と呼べる闘いに身を置いていた。
油断していた。
これは、確実に
「――っ」
何が間違いだったのか、何処に見落としがあったのか…そんものはすでに後の祭り。
考えたところで、気づかなかった時点で、自分の「敗北」は決まっていた。
「魔女め…っ」
一ノ瀬涼――いや、名取海は今世紀最大の“敵”と「運命」を賭けた闘いに挑む。
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「便意」という名の「敵」と。
「誤算だ、計算外だった。まさか――身内に敵が潜んでいるとは…っ」
…というのは冗談だけど…うぅ、腹痛い。
昨日の晩御飯…多分「
「自分が参加する部が午後なのがせめてもの救いなのか…クソッ。何が…“面白いものが観れる”だ。こんな体たらくじゃ三鷹君に笑われる。いや、もういっそのこと笑ってくれた方がこちらの心も救われるのかもしれない…」
「は、ははは」と渇いた笑みを垂れ流しお腹の力を緩め、多少なりとも楽になろうと奮闘。
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