第38話 普通科代表
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『天賦祭』
『探索者育成学校』設立以来からある一年に一度行われる催し物の一つ。
『探索者育成学校』が創設され二年と半年しか経っておらず、今回が三度目の開催となるもの毎年盛り上がりを見せ、来場者は多い。
元々「武」を高め合う式典であり『探索者育成学校』で得た力を試す催し物。
例年、特別ゲストとして有名『探索者』が訪れる。噂では【十傑】が今年観にくるとかで準備期間から一際盛り上がりを見せている。
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六日目。『天賦祭』前日。
場所は、二年二組。
「――今年も『天賦祭』が開催されます」
教卓に立つ女担任は告げる。
『おお!』
宣言を聞いた二年二組のクラスメイト(一部例外一名以外)は盛り上がる。
「みなさん、騒ぐのはまだ早いですよ。今回はですね、なんと――」
溜めて、クラスメイトの顔を見回し。
「――「普通科」生徒の枠もできました!」
『ワアッーーー!!』
先程より盛り上がりを見せる生徒たち。その熱量は――涼の席…廊下後方側まで届く。
「……」
あー、うっさいな。
ゲームに集中できんだろ。
教室の床にベタ座りする涼は携帯端末片手に生徒たちの様子を見ては不機嫌になる。
以前まで座っていた…「黒椿ノア」の隣に座れない理由があるためこうして地べたに座る。
あれは…転校二日目、登校すると椅子の上に画鋲の千山。机には誰がやったのか観葉植物で作られた芸術的なアートができていた…。
『…暇人だこと。草超えて森超えて…モーリーファンタジーってか?…やかましいわ』
当時の涼はそんなことを愚痴り元々元の席に座る気がなかったので地べたを選んだ。
これ以上のいじめ行為は無くなる…と思われたが何故か過激になり…地べたに「ゴミ」が座ることが許せないらしい。それを指導し、叱らない担任や教師を見てもう、色々と諦めた。
「――『天賦祭』「普通科」の枠としてエントリーしたい人は挙手をお願いします」
一人イライラするなか話し合いは進み、涼以外のクラスメイト全員が手を挙げる。
「みなさんやる気に満ち溢れていますね!…それはとてもいいことです。ただエントリーできるのは各クラス一人ですので…みなさんの中から一人、代表を選ぶ必要があります」
女担任の一言に近くの生徒同士話し合う。
『どうする?』
『出たいけど…倍率高そうだし』
『今年は【十傑】もくるみたいだから、少しでも目に留まれば最高だよな〜』
生徒たちは各々盛り上がる。
「…橘君とかは?」
そこに二年二組の総括――「黒椿ノア」の言葉が天命のように降り注ぐ。
『うちの委員長なら申し分ないな』
『決まりじゃね?』
『私も洸夜君だったら応援するよ!』
女子生徒、黒椿ノアの言葉でその「橘」と呼ばれた生徒の支持が徐々に集まる。
「俺はどっちでもいいよ。みんなが出て欲しいって言うなら参加するけど…」
茶髪のイケメン男子生徒――「
ふん、白々しい。
そんな男子生徒を睨む…涼。
相手が「イケメン」という理由で恨み妬む対象ではあるが、転校初日…「以前まで通信制に通っていたと聞くけど、本当なのか?」という余計な質問をしてきた人物でもある。
「…二年二組の代表は橘君で決まりかな?」
生徒たちの話を聞いていた女担任が質問。
『……』
クラスメイトは無言で頷く。
「橘君もそれでいい?」
「そうですね。俺でいいんですが…あれだったらもっと面白い催し物にしたくありません?」
「…それは、どういうこと?」
『?』
橘の言葉に担任、クラスメイトとともに理解が及ばず。ただ一人、いや〜な気配を察知した生徒は携帯から顔を離すことなく。
「――ほら、ウチのクラスには「無能」が居るじゃないですか。そんな彼が…『天賦祭』に出場して勝ち進んだら…面白くないですか?」
『……』
女担任、クラスメイトたちは無言で真後ろ――「無能」こと一ノ瀬涼を見る。
オマエは必ずコロス。
話を聞いたクラスメイトや担任が「面白そう」だと頬を綻ばすなか一人、殺意を増す。
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放課後。クラスメイトたちに押し付けられた教室掃除を終えて。
「…なんで僕なんだよ…」
「一ノ瀬君」
「…?」
教室を出ようとした時、背後から自分を呼ぶ声に一瞬肩を揺らせ、振り向くと男子生徒がいた。「一ノ瀬」などとこの学校に来た初日以来呼ばれていないため反応が遅れてしまう。
「君は…」
「同じクラスの
よく見ると…そこには見覚えのある顔…自分と似た瓶底眼鏡をかけたガリ勉の姿があった。
「…警戒するのはわかる。突然何を言い出すんだと困惑するのも承知の上。ただどうしても君に一言謝りたかった。君に酷いことをした。これで帳消しになんてならないだろう。けど、一度しっかりと謝らせてくれ…ごめんなさい」
背筋を45度曲げ、頭を下げる。
「……」
まさか、謝られるとは思っておらず口が塞がり、どんな反応をとればよいのかと悩む。
「信じてくれなくても構わない。聞き流してくれても構わない。僕は――君の「味方」だ」
決して自分から頭を上げることなく彼はそんな一言を話したっきり動かない。
驚いた…彼の言葉は「本心」だ。「悪意」や「敵意」が全くと言って感じられない。いや、違う。この学校の人間が、おかしいのか…。
「…座って話さない? まずはそれからだね。謝罪ももういいよ。君の気持ちは伝わった」
「…ありがとう。うん、君の言う通りだ」
顔を上げた彼の暗い表情は少しだけ光を取り戻し、薄く微笑む。
二人は自分たち以外誰もいないことを確認した上で、近場にあった席に座る。
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「無駄な説明は省く。まず、僕から君に言えることは一つ。説明なく核心をつく内容で申し訳ないけど…この学校は何処かおかしい」
彼、三鷹は少し濁した口調で語る。
「…黒椿さん…彼女に従っているのとはまた違う何か。それがはたしてなんなのか…でも、僕はこの学校の淀んだ空気が…嫌いだ」
三鷹の言葉を真剣に聞いた上で同意を示す。
「……」
何も返答が返ってこないことに不思議に思い顔を上げると…目を見開き凝視されていた。
「ど、どうかした?」
「…ご、ごめん。素直に驚いたんだ。君は…やっぱり…操られていないんだね」
操られる?
「あぁ、“操られる”と言うのは語弊があるかも。僕が単に呼びやすい単語で現しているだけに過ぎない。けどこの学校は“操られている”…という表現が正しいくらい…おかしくなった」
「初めからじゃないんだ」
「順を追って話すよ。『探索者育成学校』は半年前まで「普通科」の生徒と「探索科」の生徒共々仲が良かった。なのに今は互いが毛嫌いし相容れない存在になってしまった。それはあるキッカケがあった。僕たち「普通科」が入って少ししてから悪い方向に…変化していった」
その悲しそうな顔を見て、何も言えない自分はただ彼の話を聞くことに専念する。
「…喧嘩、罵詈雑言は当たり前。教師たちは見て見ぬふり。拍車がかかったのは「黒椿ノア」彼女の派閥ができてから。情けない話だけど…君が転校する前…僕は、いじめられていた」
少し言いづらそうにそれでも話さなければ話が進まないと心の内を独白。
「君が?」
「あぁ。別に逆らったとか反発なんてもってのほか。なのに突然、僕は無視され、先輩に暴力を振るわれた。それが嫌で嫌で、君が馬鹿にされている中、自分の保身を守るばかりか…みんなと君を、馬鹿にした。はは、僕も同罪だ」
話す彼は苦い顔のまま顔を伏せてしまう。
「三鷹君が情けないと思わないけどね」
彼の気持ちを聞いた上で少しでも気分が晴れる…救われるように優しく否定する。
「……」
「もしも、君と同じ立場なら僕も同じことをしていただろう。謝ったのも君に負い目があったから。それも己の危険を顧みず、僕に事態の危うさを知らせて…守るためなんだろ?」
「だとしても、僕は許されないことをした。最低な人間だ。結局は自分の立場を守るため…君に押し付けたんだ。僕は、僕は…っ!」
自分を卑下する彼の肩をそっと触れる。
「――っ」
「色々と苦労した。一人で戦ってきた。頑張った――そうだろ?」
「…君は、恨んでないんだな」
顔を上げる彼の顔は何処か安心したように、何かに縋るような顔をしていた。
「当然。僕こそポジティブ人間はそうそういないさ。いつも前向きだ。イケメンは全て滅んで死ねと常日頃から思ってるけどね!」
安心させるように微笑み、軽口を叩く。
「ははっ、なんだそれ」
「ようやく、笑った」
彼の笑みを見た涼も釣られて笑う。
「優しいな、そんな優しい君が不憫でならない。アレだったらこの学校を辞めるという選択肢もある。教師に言っても無駄だろう。政府に言えば何か変わるかもしれないけど…」
「逃げないさ」
彼の言葉を遮り、本心で話す。
「明日行われる『天賦祭』で君は笑い物になるかもしれない。大怪我を負うかもしれない。下手したら…君は狂った彼らに…」
「それでも」
「なんで、どうして君はそこまで…」
信じられないと言った様子で見てくる彼に余裕の笑みで返す。
「単純な理由だ。負けず嫌いで頑固者なんだ僕は。そして、他人に左右されることがこの世で一番…死ぬほど嫌いなんだよ。それに、やられたら返しは倍で返す。もちろん…「黒幕」に」
晴れやかな顔で立ち上がる。
「腹も決まった。目的も決まった。うん、多分…面白いものが観れると思うから。三鷹君は特等席で僕の勇姿を観ててよ」
「…強いな」
(わからない。けど、彼なら――一ノ瀬君なら何か凄いことをしてくれるんじゃないかと期待してしまう自分がいる。負けてられないな)
三鷹も立ち上がる。
自然と二人は、無言で拳を合わせた。
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