第35話 友好の証
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「――ホロウ様御本人だと見極めるため、実力行使に出てしまいました。出過ぎた真似、申し訳ありません。今回の発案者は私です。如何様になさってくださっても構いません」
一度上げた顔をまた下げる。それはコンクリートで出来た地面に額を擦り付けるほど。
「…別にどうもしないけど…その口調と態度はやめてもらえると嬉しいな」
土下座をやめない佐島を見て一言。
僕が【ホロウ】じゃないと騙るのは簡単…でも、本能がそれは愚策だと訴える。
自分から【ホロウ】だと認めたわけでもないし…ここは少し様子見かな…。
自己で納得し、それとはまた別で考えなくてはならない問題に直面。
彼、佐島が扱う【黒炎】は紛うことなき僕と同種のもの。触れればわかる。
それを扱えるってことは…前回彼の身を一から再生させた時に…【黒炎】を宿らせた?
考えてもわからない「謎」に頭を悩ます。
「…お許し、感謝致します」
立ち上がり恭しく頭を下げる所作。許しを受けたことにホッとしつつ表情を引き締める。
うん、口調と態度は変えないようだ。
「聡明なホロウ様のことです。現状について全て把握済みだとはお思いですが、今回ホロウ様を襲撃する運びになった経緯。私目の口からお話をすること、お許しください」
「…うむ」
なんだか知らないけど自分から話してくれるみたいだから彼に任せよう。
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ホロウを信仰する宗教団体メンバー【虚】と名乗る二人と行動を共にしホロウを探し始めて一週間と経ったある日、いつものようにオカマ…東の運転で車を走らしていた時のこと。
「――ホロウ様を探す術は、ある」
「聞かせて」
「えぇ、どんな些細なことでもいいのヨ」
その一言に二人は先を促す。
佐島は突然右手に【黒炎】を生成。
「【黒炎】が俺を呼んでいる」
『……』
その厨二病と取れる発言に二人は沈黙。
「ふざけているわけではない。度々、感じるものはあった。それは鳥が自分の家に帰るような、帰巣本能のように【黒炎】が呼ぶ。まるで【黒炎】と【黒炎】が惹かれ合うように」
真顔でそんなことを語りだす。話を聞いて早々辻は胡散臭そうに聞いていた。
「…具体的な場所は特定できるノ?」
女性、辻が半信半疑で疑いの眼差しを向けるなか、唯一、東だけは真剣に取り合う。
「地図とかあるか?」
「…これでいい?」
気を利かせた辻が助手席のダッシュボードから常備している昔ながらの地図張を渡す。
「助かる」
辻から地図帳を受け取とるとペラペラとめくっていき…息を吸うようにとあるページに丸印を付け、二人に見せる。
車を路肩に止めて佐島の様子を見ていた二人はそのページを見つめる。
「ここに、ホロウ様が?」
「おそらく」
「地形が変わって解り難いけど…西区ネ。今は――『探索者育成学校』があるワ」
マジマジと見ていた東の発言。
「じゃあ」
「ホロウ様は『探索者育成学校』付近にいる。それか『探索者育成学校』関係者」
『……』
二人は佐島の発言を聞き無言で頷く。
大まかな場所を特定した三人の行動は早かった。直ぐに車を走らせ、現地――『探索者育成学校』付近に行くと聞き込みを開始。
目をつけたのはこんな時期に「転校」してきた【
「一ノ瀬涼」と名乗る少年。不可解なことに調べてみると「名取海」と出てくる。
「名前を偽る理由…」
「怪しさ満載ネ」
「ホロウ様は誰にもその姿を観測させない。「少年」「生徒」という仮の姿で行動をしているのは自分の正体を隠す変装でしょうね。それに…『探索者育成学校』には…」
『……』
確定とまではいかないが何かを確信した三人は行動に移す。それは強行と呼べるもの。
「作戦は至ってシンプルだ。下校途中を強襲。こちらは出せる限りの本気を出して――その少年「一ノ瀬涼」の実力を引き出す」
それは一人で下校をしているところを狙うという誰でも思いつくもの。
行動に移した直後、自分の自宅とは別の道を進む少年の不可思議な行動に確信から確定へ。
廃墟――廃ビルにおびき寄せ、油断している少年に対して先制として攻撃を仕掛ける。
「! 避けられた」
一番手として攻撃を仕掛けた辻は自分の「鎖」の攻撃が避けられたことに驚く。
「あの動きは…只者ではない」
佐島が一人遠くから戦況を確認しているなか、残り二人は少年への対策を練る。
「あーちゃん。いける?」
「問題ない。私も、全力で行く」
憧れの存在であり、一度手合わせをしてみたいと思っていた相手。そんな相手と自分の本気を出して戦う機会が訪れた。
辻は己の本気を出し、挑んだ。自分の「鎖」は対象とした相手を何処までも追う追尾型のスキル。攻撃はもちろん、拘束もお手のもの。
「…はは、全て、破壊されたわ」
乾いた笑みを漏らす。
そんな辻と変わり東が挑み佐島が【黒炎】でホロウだと思われる少年を襲う。
急拵えの連携。中々と全員が役割を全うして動けていたと思った。
『いやー、うん。何処の誰かは知らないけどさぁ。人様に迷惑かけるの、やめてもらえる?』
待っていたのは自分たちの本気が全く通じず、逆に窮地に立たされた状況。
その少年の周りに微量な【黒炎】を検知した佐島は――お怒りを鎮めるべく土下座を披露。
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「――と、言った経緯があります」
事の顛末を全て話し終え。
「ふーん、そう」
と、言われましても。考えなしに「はい、そうですか」とは信じきれんわな。
佐島が【黒炎】を使える理由とか【虚】とかいうホロウの組織(笑)とか他に説明して欲しいことは山ほどあるし。
「ホロウ様。お言葉申しづらいのですが…二人を解放してもらっても宜しいでしょうか?」
「ん? あぁ、忘れてた」
佐島に言われて二人を空中に持ち上げていることに気づいた海はそっと下ろす。
「ホロウ様、ありがとネ♪」
「…構わないけど…お隣さんはどうしたの?」
東の姿…スキンヘッドに黒スーツ&化粧というアグレッシブな格好を見て若干引きつつ隣の女性に視線を移して首を傾げる。
「……」
女性、辻は何処か夢心地と言った様子で架空を眺めてはニヘラと笑う。
「うーん、夢が叶ったから…トリップしているのかしら? 時期、現実に戻ってくると思うからそっとしてくださると助かるワ」
「そう。ところであなたは?」
最初から気になっていた質問を投げる。
「あら、これはアタシとしたことが…コホン」
指摘に咳払い一つ。
服装を整え姿勢を正すとお辞儀を一つ。
「【虚】初期メンバーの一人。所持スキルは【変化】。No.3【女帝】東千紘。気軽に『ちーちゃん』と呼んでくださると嬉しいワ☆」
佐島に語った時と同様、キャピッと乙女感を出すオカマ。
じょ、【女帝】…?は一旦置いといて。この人…「男」だよね? いやでも「オカマ」の人とか今の現代別に珍しくないし、頭ごなしに差別するのは良くないよ。うん。
「じゃあ、ちーちゃんって呼ぶね」
「あら、あらあらあら。嬉しいワ。ホロウ様自らその名で呼んでいただけるなんて…」
まさか呼ばれるとは思っていなかった東は頰を少し赤らめ、狼狽える。
冗談半分、本音半分で普段通り自己紹介をしたつもりが、逆に嬉しい誤算を生む結果に。
「ちーちゃん。良ければそちらの女性のことも教えてもらえる?」
「任せて。この子は辻絢音ちゃん。スキルとかは…個人の情報だしアタシが説明するのは野暮、本人から直接聞いてあげてネ。あぁ、『あーちゃん』って呼んであげると喜ぶワ」
「なるほど。それもそうだね。よろしく」
二人?の自己紹介を聞いた涼は友好の印として右手を差し出す。
「…今更だけど。アタシたちをそんな簡単に信用しても、いいノ?」
「信じるさ。君たちは【虚】。ホロウを慕う人たちなんでしょ?」
「それは、そうだけど…」
「なら信用しよう。初めから悪意や敵意がないことも知ってたし、ね?」
出した右手を引っ込めることなく。
「…よろしくネ。ホロウ様」
東は照れ臭そうに涼の手を握る。
(流石ホロウ様です。その大らかなお人柄。コミュニケーション能力…感服致します)
二人の姿を後方から見ていた佐島は涙ぐむ。
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