第25話 閑話 殺人姫
「誠に、申し訳ございません…っ!!」
とある廃墟の一室。黒ローブを纏った人物…老人はそこに居た。
壊れ、古ぼけたソファーに腰掛ける一人の少女に対して震えながら頭を垂らし。
「別に私は怒ってないよぉ。それより」
少女は自身の髪、燃えるような紅色のサイドテールを跳ねさせて立ち上がるとその美少女然とした貌を赤らめ、目を輝かせ、詰め寄る。
「ナナシ様に…ホロウ様にサインは貰った?」
「い、いえ。そんな悠長な時間はございませんでしたので…申し訳ありません」
その質問を受け、恭しく答える。
(…始めから私が勝てるわけがなかった。相手は謎の『使い魔』…それが、その正体が…ホロウだと知っていれば手など、出さない)
今回の騒動の発端、『邪教』の幹部メンバーの一人「運び屋」こと
“上”から“今”は絶対手を出してはいけないと言われる相手に自ら手を出したことに。
「そっかー。仕方ないね。ホロウ様は神出鬼没だし、今もナナシ様以外の別の変装を施しているかもだし…ただなぁ、ジィから連絡があった時すぐに『竜の峠』にいけば…ぴえん」
少女は本当に残念そうに肩を落とし、暗い顔を作る、がすぐに表情を和らげ顔を上げる。
「あ、ジィ宛にパパから依頼だよ〜」
そう言うと懐から取り出した封筒を手渡してくる。
「旦那様からですか…」
受け取ると少し警戒しながら、今回の失敗から生まれた信頼を取り戻すべく、今度こそ確実に依頼を成功させるために読み漁る。
「ふむ、承知致しました。手筈通り動きましょう。ただ、あの、本当にお咎めとかは…」
「大丈夫、大丈夫。一度の失敗くらいじゃ私もパパも、他のみんなも怒らないよ。ジィは今までかなり貢献してくれたし、家族だし、相手がホロウ様だし仕方なしってね」
屈託のない笑みを浮かべ微笑む。
「…ありがとうございます」
「あ、ただ…二度、三度の失敗をしたら少し怒っちゃうかも。失敗を重ねたら私たちの計画が外に漏れる可能性もあるからなぁ」
「…承知しております。次こそは。私たち『邪教』の計画――【
首に吊るしていた逆十字架を手に誓う。
・
・
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「ナナシ様がホロウ様だったとはなぁ」
「運び屋」こと漆が立ち去った室内で物憂げに天井を見上げる。
「――ぁ」
何か引っ掛かりを覚え、肩からかけていたショルダーバッグを漁り…一輪の花を取り出す。
その花はガラスケースに大切に保管されている。じっと眺め、思い出した。
「…そっか、ナナシ様と会っていたんだ。頭、撫でてもらったんだぁ。子供の姿で行動をして得しちゃった…えへへ」
花をガラスケース越しに触り、微笑む。
「あぁ、やっぱり好きだなぁ。ナナシ様――ホロウ様、好きだなぁ。お話ししたいなぁ」
ソファーから立ち上がりガラスケース片手にくるくると回る。
その姿はまさしく何処にでもいる異性に恋するうら若き乙女。
「私の殺戮を邪魔して、私の計画を邪魔して、私の大切なものを助けて、どうしてあなたは私の心の中に残り続けるの。あぁ、好き。好き好き好き。狂おしいほど――
頰を赤らめ想い人に恋心を募らせる姿は乙女。殺人鬼のような思想をもたなければ。
幼少から抱くとある「願い」。自分の「願い」一つ叶わないこんな世界など滅んでしまえという理念は普通の少女とかけ離れていた。
「フフ、この手でホロウ様を殺めれば、ずっと一緒。私たちは永遠に二人っきり」
少女は笑う。それはもう、楽しそうに。
プルルルル。
ソファーに置かれていたショルダーバッグから電子音が聞こえる。
「? ♪」
ショルダーバッグからスマホを取り出した少女は相手の名前を確認して顔を綻ばせる。
「あ、パパ?」
周りを見渡し、誰もいないことを確認した上で、その通話にでる。
「――うん。そう。そうなの。今回ジィは失敗しちゃったけど次は――君も着いてるし…うん。はは、そうかなぁ。うん、わかったよ」
楽しそうに、年頃の少女が親と話す時のようにスマホ越しに通話をする。
「はいはい〜じゃあね〜」
ピッ
通話を終えた少女はポスンと小さな音を立てて古ぼけたソファーに腰掛ける。
「学校、かぁ。暇だし…実験も飽きちゃったし、ホロウ様も来る可能性も微レ存だから、私も顔、出してみよっかなぁ」
少女が向けた目の先には――血だらけになってもう動くことのない何人もの無惨な女性の亡骸がワイヤーで吊るされていた。
少女は無邪気に鼻歌を歌う。壊れた玩具にはもう、目も向けず。
その純粋さが、凶器となる。
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