第18話 違和感の名


 大きな顎で噛みついてきた赤竜の攻撃を軽く避け、避ける合間に首を落とす。


「ッ!?」


 赤竜は首を落とされ死ぬ――わけではなく切断面から黒い霧が溢れ出し直ぐに再生。


「があっ!!」


 蘇って早々近くにいたナナシ目掛けてその巨大な尻尾を叩きつける。


「やかましい」


 叩きつけてきた尻尾を片手で受け止めるとその勢いを殺さず尻尾を掴んで壁に叩きつける。


「ガアッ!?」


 壁に叩きつけた赤竜の尻尾を離すことなく、地面に叩きつける。壁に叩きつける。地面に叩きつけて――


「吹き飛べ」


「ウゲェッ!?」


 壁に叩きつけられた赤竜は苦しそうに悲鳴をあげ、体から血を流すも直ぐにそれも再生。


 めーーーーんどくさ! 何こいつ?


 こちらに憤怒の顔を向ける赤竜に対してそのタフさに呆れ果ててしまう。


《ほほほ。しかしおかしいですねぇ。“秒”で終わらせるのではないのですか?》


「(ムカ)」


 こちらの神経を逆撫でる声にまた苛つく。


 さてどうするか。斬っても斬っても再生。細切れにしても再生…クソが。どうせあの爺が陰で何かしてるんだろ…。


「があっ!」


 勝ち筋を模索するナナシに対して立ち止まっていることをチャンスだと思った赤竜は火球を放つ。それはナナシに一直線に向かう。


「…鬱陶しい」


 自分を覆い尽くすほどの巨大な火球をまるで小蠅でも払うかのように手で仰ぐ。

 火球は仰いだ時に発生した突風の風圧により主人の口の中に向けて猛スピードに進む返る


「!?」


 己が放った火球を口内に直撃した赤竜は爆炎と共にその場に崩れる。


「学べよ、駄竜」


 黒い煙を顔面から立ち昇らせる赤竜はむくりと立ち上がり、ナナシを睨む。もちろん無傷。


(ほ、ほほほ。どちらも化け物ですねぇ。特にナナシ様。赤竜に「再生能力」を附与していなければ…数千回は殺されていますよ…)


 表面では余裕を見せる運び屋と名乗る老人は内心、頰を引き攣らせ戦況を見守る。

 

「…頃合いだ」


 赤竜が自身の翼を羽ばたかせ上空に飛んだことを確認して片手に持つ白刀を腰に垂らす。


《…ほほほ。不死身の赤竜に勝てるとでも?》


「当然」


 お面の下でニヒルな笑みを作り短く返事を返し赤竜の元に。


(…見届けましょう。まぁ「イヴィルドラゴン」の「再生能力」を足した改造されし階層主赤竜は死なない。この私を倒さない限り)


 上空を飛行する赤竜は自分に目掛けてやってくるナナシ敵対者を本能で感じた。

 排除するために首を後方に引き、口の中に溜めた獄炎を全て放つ。


「――ガアッ!」


 それは灼熱のブレスとなりナナシを焼き殺す。


「二度、言わせるな」


「ガフオッ!?」


 灼熱のブレスをその身にまともに受けたが煙幕の中から平然と無傷で現れ、自分の勝利を確信した間抜けな赤竜に向けて腹パン。


「貴様には少々躾が必要とみた。特別だ」


 無防備の腹に受けた腹パンから復帰できない赤竜は飛行能力を維持できず、落下。

 追随するべく空を蹴り右手に今までの「怨み」を込めた一撃を落下する赤竜に。


「――堕ちろお座り


 「躾」を決行。


「――ァッ!?」


 落下の速度に加えナナシの一撃を土手っ腹にまともに受けた赤竜は抵抗できず地面に激突。

 ダンジョンの地面に大穴を開けたことを確認し、最後の仕上げを行う。


 死なないなら縫い付けてやる。『竜の峠この』ダンジョンの主なら…本望だろう。


 右手に黒炎を出現させ、それを自分が思い描く武器――特大のパイルアンカーに変成。


「そら、おかわり――だっ!」


 特大パイルアンカーそれを片手で掴み赤竜が落ちた穴に向けて――放つ。


 ・

 ・

 ・


『アギヤァァァァァァァァァッ!!?!!』


 少し遅れて穴からこれまで上げたことのない悲鳴が児玉として響き渡る。


 何処の穴に特大パイルアンカーそれが突き刺さったのか定かではない。ただ、しばらくは穴から出てこないことは確定だろう。

 駄竜そんなことよりも…ノコノコと姿を見せたジジイの対処が優先だ。ここまで僕をコケにした報い…生まれてきたことを後悔させてやる。


「ジジィ…次は、貴様の番だ…」


 赤竜にぶつけた物よりも小ぶりのパイルアンカーを右手に生成したナナシは――何故か姿を見せる運び屋を睨み、狙いを定める。


「な!?」


(な、何故…私の【影化】が解けているのですか。それに、おかしい。赤竜とのパスが切れた。何が起こっているのです。一体…)


「テメェの尻の穴にを突っ込んで、歯茎ガタガタ言わせてくれるわっ!」


「ひ、ヒイッ!?――転移!!」


 パイルアンカーを投げるモーションをとるナナシにこれ以上ない恐怖を覚えた運び屋は最後の手段、転移結晶を使い逃走を図る。


「…早く二人の元に行かなくちゃ」


 パイルアンカーを黒炎に戻したナナシは老人のことなど綺麗さっぱり忘れて主部屋から飛び出し猛スピードで階層を駆け抜ける。


 

 ∮



 一方その頃。



「――ふっ」


 天井に向けて一閃。天井は亀裂を入れると飴細工のように瓦礫となり崩れる。

 二人を追いかけていた多数の竜種系統の魔物は道を塞がられたことで立ち往生。


「…前に、進む」


「う、うん!」


 二人はナナシと合流するために走る。


(…一体一体相手していたらキリがない。一人なら…ううん、関係ない。ナナシとさえ合流すれば私達の勝ち。それまで守りきる)


「――冥、奥の部屋から金属の音がする!」

 

 星精霊リルの力を借り身体強化を施し先頭を全力で疾走していた依瑠はその戦闘音に一握りの希望を見出し、顔を明るくさせる。


「…可能性は、ある」


 二人は頷き合い足を早める。


 ・

 ・

 ・


「…きょ、恐竜?」


 音がする元に辿り着き、を見た依瑠は足を止め、青い顔のまま一歩後ろに下がる。


「アースドラゴンがなんでこんな低層に…」


 そこには「アースドラゴン」と呼ばれる緑色の鱗に覆われた体、依瑠が口にしたように恐竜のような見た目に角が生えた竜種が居た。

 よく見ると『探索者』らしき装備に身を包む人物が一人果敢に戦っている。アースドラゴンの巨体を見た後だと霞むほどちっぽけだ。


「…チッ」


(ついてない。ナナシでもなければ魔物も居るし…見捨てるのは簡単。でも…)


「冥、助けよう!」


 片手剣を抜き戦闘体制に既に移行していた依瑠の真剣な顔を間近で見て決心。


「…はいはい」


(わかってた)


 友人のお人好し加減に苦笑いを漏らし、意識を切り替え、刀を素早く抜刀。


「…リル、目潰しお願い」


〈 冥様、承りました 〉


 依瑠の左耳にあるピアスがキラリと一度光ると二人の脳内に少女の声が響く。


「依瑠は邪魔m――要救護者を安全地帯に」


「あはは、了解」


 その指示に苦笑しつつ言われた通り動く。


〈 御主人様、合図をしたら武器を上空に 〉


「わ、わかった」


 『探索者』に注意が向いているなか冥は一人アースドラゴンの背後に潜む。

 そんな冥を信じて自分の『使い魔』を信じてアースドラゴンに向けて全力で走る。


〈 今です! 〉


「――うんっ!」


 『探索者』の攻撃を受けよろめいたアースドラゴンの状態を見計らったような指示。

 その指示通りタイミングを合わせてアースドラゴンの頭上に向けて片手剣を突き出す。


 ピカッ


「ギャッァァァァッ!?!?」


 光線を間近で浴び、一時的に視力を失うアースドラゴンはその場で暴れ回る。


「――十分」


 背後に忍び込んでいた冥は駆け――跳躍。


「無心流、冥禔――神貫かむり!」


 意識を逸らされ、突然の視界の暗転に驚き、暴れるアースドラゴン太刀を両手に自分の出しえる神速の一撃で、貫く。


「――がっ」


 首の根本――唯一鱗で覆われていない弱点を貫かれたアースドラゴンは体を痙攣させ。


「終わり」


 硬直して動かなくなったアースドラゴンに最後のトドメをさすべく、突き刺した刃を反転させて――首を一刀に切り落とす。


 【神速】


 任意で自分の行動全てが“神技”と呼ばれる速度、威力を最大限に引き出す結果に変わる。

 その目は〇〇〇に治されたことで覚醒。全ての理、急所を見抜く。


(…連携プレイ…とは違うけど、うん。依瑠とリルの息もピッタリ。順調順調――っ)


 友人の著しい成長に一喜一憂。そんな喜ばしい最中地面に足をつけ、背筋に悪寒が走る。




「た、助かった…って、依瑠?」


「え?…だ、大地君?」


 アースドラゴンが倒れたことで周りに目を向けることができた『探索者』…佐島大地は依瑠の顔を見て頰を綻ばせると声をあげた。

 その表情を見た依瑠も幼馴染の顔を見てどんな顔を作ればいいのかと思案し…。


「――依瑠から離れろ」


 アースドラゴンと対峙する時より何倍も早く動いた冥は依瑠の首根っこを掴むと瞬時に離れ、依瑠を庇い太刀の刃を佐島に向ける。


「…冥?」


 現状が理解できない依瑠の疑問を帯びた声がダンジョン内に響く。

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