第17話 消えない不安
運び屋だか遊び人だか知らないけど階層主の部屋に連れてくるとかふざけたことをするね。残念だけど不審者と話す暇なんてないんだわ。
「興味がない、失せろ」
それ以上話を聞くこともなく躊躇わず抜刀。
…斬った、感覚がない…。
「そう焦らずとも。私の体はただの影。言ってしまえば借り物の体。実態はありませぬのでいくら攻撃をしても、徒労に終わります」
斬られた胴体は煙のようなモヤが集まり体を結合させ元に戻る。完全に人の形となった老人は薄気味悪い笑みだけを溢している。
「目的はなんだ」
影、ねぇ。やろうと思えば影だろうと幻影だろうとその体諸共消すことはできるけど…わざわざ接触した理由、気にはなる。
「ほほほ。爺の気まぐれ…興味本意でございます…姿を現さなくなったホロウ。その代わりとして名を上げ出した無銘の『使い魔』。どんな存在か気になるのも、当然のことでしょう?」
「悪趣味な奴だ。それで、満足したか?」
「はい、はいはいはい。それはもう!! 【鑑定】を通さない肉体。超人を超越する力。そして、その実態。自分の容姿をひた隠すミステリアスさ、全てが私の好奇心を唆ります!!」
言葉を止める老人はニタァと嗤う。
「尚のことあなた様のことが気になりました」
「お生憎様、老人に好かれる興味はない。他を当たれ」
端的に言って気持ち悪い。
「ほほほ。それは残念」
そんな言葉を残すと体を霧のような黒いモヤで包み込み…四散する。
チッ。グダグダと与太話に付き合うことなく早目にけりをつければよかった…気配はするのに、その姿を捉えられない。
《どうやら、あなた様は好戦的…戦いが御所望のようだ。ならば、お答えしましょう》
残り香を辿り気配を探っていると、背後から声が聞こえる。
「……」
《私は戦うことは苦手ですからねぇ。あなた様の相手は――こちらに勤めてもらいます》
老人の声の後直ぐにそれは起こる。部屋の中心に黒いモヤが生まれていた。そのモヤは大きく、大きく膨れ上がり。
「ガァォォァァォォッ!!」
約十メートルはあるであろう赤い鱗で覆われた竜――赤竜が産声を上げる。
「……」
ドラゴン。竜。これぞファンタジーってか。その生態に好奇心は沸くけど…早く二人のところに向かわなければいけない。
「秒で、仕留める」
自分に向けて大きな口を開けブレスの構えをとった赤竜に向けて白刀を向ける。
∮
『魔境』地上。
「――【歌姫】様。ご報告です。周りに居た魔物の制圧、討伐共に終わりました」
『ホロファン』隊員が【歌姫】こと由仁の元に報告をする。由仁は護衛を数人連れた安全地…仮の野営地としたテントの中から顔を出す。
「ありがとうございます。皆様は、怪我はありませんか?」
「問題ありません。【歌姫】様の
ビシッと敬礼をして告げる。
「そうですか。まだ、残党も残っている可能性がありますので、地上に登ってきた魔物達は残さず、残滅をお願いします」
『は!』
隊員と背後に居た隊員と『探索者』達は手分けして魔物の残滅に向かう。
「…ふぅ」
「【歌姫】様。長時間のスキルの酷使。少しはお休みになった方が…」
参謀の男性隊員は由仁の疲れた顔を見て労ってそんな言葉をかける。
「いえ、前回のような『鬼神』レベルの魔物だって現れる可能性もありますので、まだ油断はできません。戦えない分、皆様の補助は担います。それに…これでも温存していますので」
「…無理は、しないでくださいね」
男性隊員はそれ以上何も言うことなく護衛の位置に下がる。
(疲れはある。けど、まだ大丈夫。前回と比べると魔物のレベルも数も少ない。ただ、油断は禁物。ホロウ様や冥さんがいない分、この場にいる私達が頑張らないと…)
「〜♪」
気持ちを新たに挑む由仁はこの場にいる全ての『探索者』に向けて【
・
・
・
「…確定ではない。それでも話す価値はある」
あれから魔物の残党狩りをして数十分。【十傑】の一人【忍者】こと八咫に『探索者』達は招集をされた。
場所は由仁が居たテントで他の【十傑】メンバーや『探索者』達が大勢集まる。
「俺の【鑑定眼】で見たところ『魔境』付近に魔物は存在しない。前回のような『鬼神』クラスの反応もない。終わり…と断言はできないが、これ以上の脅威はないと見ていいだろう」
『おぉ』
八咫の言葉に憂いの声が漏れる。
「僕が飛ばした探索ドローンにも魔物の姿は捉えなかった。透の情報と参照すると…」
【博士】こと鍵崎の言葉に終わりの希望が見えた人々の顔に安堵の笑みが戻る。
「念のため、『
真剣味を帯びた黒椿の言葉に緩めた気持ちを切り替える『探索者』達。
「俺も賛成だ。市民の皆は全員俺の家族みてえなもんだ。どんな魔物からだって守るが、近くにいなくちゃ意味がねぇ」
「そ、そうですね。私だって頑張ります!」
【大将】こと北條と【魔術師】こと安達もその提案に賛成の声を上げる。
「あ、あれ、そういえば平田さんは…」
「『魔境』の入り口に居るよ。いやー頑張るね、もっと気楽にいけばいいのに」
背後から声が聞こえる。それは戦場の中緩くおちゃらけた声の持ち主【空疎】こと蘆屋。
「蘆屋、あまり小言は言いたくないが気を緩めすぎだ。もっと【十傑】らしくなぁ」
「あぁーうるさいうるさい。俺が一番魔物を殺してるんだから少しは贔屓してくれよなぁ」
呆れた顔で小言を言う北條相手に蘆屋は手で耳を覆うと適当にあしらい八咫に顔を向ける。
「本当に『鬼神』クラスは居ないわけ?」
「断言はできないと話した。だから『
「つまんないの。あぁー俺も『鬼神』と戦ってみたかったなぁ〜俺が居たら戦況は変わっただろうな〜無様な姿を見せずに勝てたのに、な」
八咫の話に興味をなくした蘆屋は【十傑】と『探索者』達に嘲笑った目を向ける。
「蘆屋、その発言は少し不謹慎だ」
「負けたのは事実だろ?」
「…だとしても、だ。この場で口にする必要はないだろ?」
「敗者は黙れ。それに、俺に意見を出したいなら俺よりもランキングを上げてみろよ。『探索者』になって二週間で【十傑】入りした俺を」
「話の論点をずらすな…」
ヒートアップする話し合い。黒椿達女性陣はいつものことだと我観せず、鍵崎と八咫は互いに深いため息を吐く。
本来なら最年長者の平田が平和的に納めるが今はいない。『探索者』達も口を挟めるわけもなく居心地悪そうにしていた。
「――俺はさぁ、ランキングなんて興味ないの。陰陽師の中でも優れた俺は本来なら【神姫】よりも強い。もちろんホロウよりも――」
「……」
話が逸れて自分の武勇伝を語る蘆屋に対して反論をしていた北條も面倒臭くなったのか無言でその一人語りを聞いていた。
「蘆屋クン」
「!?」
そんな時、突如横槍が入る。その声を聞いた蘆屋は今まで見せていた余裕の表情を潜め、赤らめ、声が聞こえた先を見る。
「黙りなさい」
「は、はい!」
それは由仁が放った冷徹な一言。その一言で『ホロファン』達同様ビシッと敬礼をしてジト目を向ける由仁に対して素直になる。
「…なぁ、やっぱり蘆屋って…」
「み、見たまんまだと。由仁ちゃんはホロウ様のことしか眼中にないから…あはは」
「報われんな。今後は少し、優しくするか」
蘆屋に聞こえない程度の声量で話す北條と安達は哀れな
(はぁ、皆に余裕が出てきたのはいいことだけど…やっぱり違和感は拭えない。本当にこれで終わり?…何か、見落としをしてるんじゃ…)
「ゆ、由仁。今回頑張ったよ!! もちろん、君のためだ。そう、君に褒めてもらう――」
蘆屋の言葉をBGMにその違和感を考える。
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