第13話 その活路は新たな兆し
依瑠達は階層主の部屋に入る。初めは暗い空間だったが突如としてボッボッボッと壁のトーテムに火が灯り、辺りを照らした。
「…大きな、石像?」
警戒しながら一歩踏み出す。その時、部屋の中央に俯く大きな灰色の石像を見つける。
(もしかして、これが?)
体長五メートル程ある大きな石像を見て唾を飲む。横目を向けると冥とナナシの二人は我観せずと言った様子で遠くで待機。
「…よし」
“これは自分一人の戦い”だと思い出した依瑠は考えるのを放棄して、まずは先手必勝。
「格」が上がったことで俊敏さが上昇した。その素早さを活かし、石像の近くまで近づくとジャンプし、右手に持つ片手剣を上段に掲げ。
「やあっ!…て、えぇ!?」
石像の胸部分に刃を叩きつけようとした時、石像の目は青く光、突如動き出す。
予想外だった光景を目の当たりにした依瑠は戸惑いつつその場を退避することに成功。
「う、動いた…」
顔を上げた石像はその目を爛々と青白く光らせ、敵対者――依瑠にその極太の腕を振るう。
「わっぁ!?」
攻撃は避けれた。しかし戸惑いの方が大きく依瑠は立ち止まってしまう。
「依瑠!」
「――はっ!」
冥の声で現実に戻ってきた依瑠は振り下ろされる極太の足を転がってなんとか避ける。
「あ、あぶなっ…冥、ありがと!!」
遠くにいる友人に感謝を伝える。冥はサムズアップで返事を返していた。
(だ、大丈夫。大丈夫。落ち着け。そんなに攻撃のスピードは速くない。大きさに惑わされるな、私なら、いける…っ!)
石像の右腕が振り下ろされる。依瑠は中腰の状態からそれを交わし。
「そこ!」
逆に石像の右腕の関節部分を斬りつける。
「っぅ。硬いっ…!?」
斬りつけた本人がダメージを受け、痛みから顔を歪めその場を離脱。
石像に至っては目に見えるダメージを受けた様子は見られない。
(…澄ました顔、しちゃって…でも、そう言うことかな。ただの石像でも硬いのに、それに加えて“レアメタル” ――「金属」の体…)
ズシンズシンと自分の元へゆっくりと歩み寄ってくる石像を冷や汗を浮かべて睨む。
レアメタルゴーレムとはその名の通り「レアメタル」で体を構成したゴーレム。僕も知らなかったから調べた知識だけど…。
ま、初心者用だけあって動きは鈍く見た目以上の力はない。ただそれは「勝てる」と「=」ではない。厄介なのはその硬い体。
並の『探索者』ではまず攻略は不可能。ゴーレムだけあって「魔法」関連も効きにくいと聞くし【初心者殺し】の異名は伊達ではない。
今も果敢に戦う依瑠を眺めて思う。
「ナナシは、勝てると思う?」
「…さあな。主人の隠された力を発揮すれば、なんとか…といったところだろう」
「隠された力?」
そんな意味深な言葉に冥は首を傾げる。
「まあ、見ていろ。この戦いで主人がそれに気づかないなら、それまで。そも、勝つこと全てが最善ではない。後退は敗退ではないからな」
「…依瑠」
そんな難しいことを語るナナシを尻目に冥はただ友人の勝利、無事を願う。
「はぁ、はぁ、はぁ」
片手剣で体を支え、荒い息を吐き、肩で息を吸う依瑠はそれでも勝利の一手を探す。
(…闇雲に戦ってもダメ。無理に体力を消耗するだけ…一撃で活路を見出す、そんな一撃があれば…ナナシは私の『使い魔』だけど「一人前」と認めてもらうなら、その力は借りられない。冥も同じ。私には…何が残る…)
『私は『特別』だ』
そんないつの日か聞いたナナシの言葉が何故か今になって脳裏に蘇る。
(『
内心、その葛藤を叫ぶ。
星見依瑠は一度挫折した。
両親の死、知り合い皆無の世界。理不尽な時代。そんな何もない自分に公明を照らしたのは『使い魔』で『特別』な存在、ナナシ。
「…はは、あるじゃん。私の戦い方が」
今までのことを考えた。そこであることを思い出す。自分の戦うスタイル。そしてスキル。
「私、勝つよ」
左手薬指に嵌る指輪に口付けをする。
そして、願う。
「――私の声に応えて――【
それは『
ただ忘れてはいけない。この世界はスキルが全て。そのスキルは――“希望”となる。
「わ、手が、熱い…」
その熱に驚き、右手の甲を見ると幾何学的な文様が浮かび、金色に輝く。
ただ、そんな希望を手にした依瑠の希望を打ち砕くべく、脅威が近づく――
「Congratulations」
その脅威――石像の極太の腕を片手で止めるナナシは依瑠にお面越しに微笑む。
「な、なし…?」
「己の意志で道を切り開いた主人へのリップサービスだ。ここは暫く私が担おう。元々私は『使い魔』。手は出さないが、これくらいはな。今は新たな『使い魔』の
「わ、わかった!」
手厚いサポートを得た依瑠は集中する。
そんな依瑠を横目にナナシは石像の腕を軽く掴み、その巨体を軽々と持ち上げる。
石像は宙に浮いたまま暴れるがびくともせず、それは無駄な抵抗に。
元々、おかしな話ではあった。【召喚】というどう見ても強そうなスキル。なのに星見さんは使えない。スキルがあるのに使えないのはありえない。それがこの世界のルールだから。
そこで着目したのは一つ。星見さんの「格」が足りないからだと。わかってしまえば話は簡単だ。魔物を倒して「格」を上げれば良い。さすれば自ずと【召喚】というスキルは使える。
星見さんは
横目で見ると金色に輝く右手を胸にやり、目を瞑り集中する依瑠の姿。
(――私は願う。全てを切り開く力、何もかもを背負って誰をも導く、まるで瞬く星々の輝きのように。私は、強く在りたい…っ!!)
「――きて!!」
ナナシに守られているという安心感、そして全知全能になったような高揚感。
気づいたら右手を胸元に置き、今から誕生する『使い魔』を無意識に呼ぶ。
すると、依瑠の近くに光の球体が浮かぶ。
「…もしかして、あなたが…?」
〈 はい 私は 星精霊 リル と申します。御主人様の声に導かれ、召喚されました 〉
ふよふよと宙に浮かぶ光の塊は音を発することなく、依瑠の脳内に語りかける。
(この子が私の…)
「…本当は、あなたともっと話したいけど、今は倒したい
問い掛けると光の球体は震える。
〈 なるほど、兄様が支える魔物を、ですか。ならば―― 〉
「え? 兄様?…って、わぁ!」
光の精霊リルが口にした「兄様」という言葉につい条件反射してしまった依瑠を他所に手に持つ片手剣にリルが近づくと眩い輝きを放つ。
〈 今の私では多くのことはできません。ですが、あの程度の魔物でしたら、私の力が宿った武器を使えば、倒せます 〉
「え、え、あの、どうすれば?」
(そ、そう言われてもわからないよ…この子のナナシの呼び方も気になるし…)
〈 そのまま魔物に武器を振るえばよろしいかと。あれでしたら景気付けに“星よ”とでも口ずさんでもらえると私のやる気も上がります 〉
「わ、わかった!」
わからないながらも実践してみることに。
「ナナシ!」
「承知した」
ナナシは依瑠の意を汲んで石像を下す。するといつの間にか冥の隣に立っている。
「――」
ようやく地上に降ろされた石像はその鬱憤から目についた依瑠に襲いかかり。
「――ほ、星よっ!!」
片手剣を下段から上段に石像に向けて言われた通り振るう。そこから光の刃が生まれ、石像の元へ一直線に向かい。
シュワン。
そんな音と共に石像――レアメタルゴーレムの体は跡形もなく蒸発する。
「…へ?」
〈 星の熱量をもった光です。ゴーレム如き耐えれるはずもありません。やりましたね 〉
片手剣片手に茫然とする依瑠相手に“それが当然”と言わんばかりに囁く。
・
・
・
「すごい。あれが依瑠の真の力。ナナシはわかっていたんだね」
「…まぁな」
あんなに高威力だとは思ってもいなかったけど、終わりよければ全て良しでしょ。これで僕のお役御免期間も近づいた…グフフっ。
後はどんなタイミングでフィードアウトしようかと考えるナナシであった。
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