第十九夜 沖縄県那覇市某ホテル
これは、私の父と長男が体験したお話である。
父と長男が、確か長男が高校生くらいの時に、沖縄県那覇市のホテルに泊まった。そのホテルはわりと古くからある老舗のホテルで、風の噂に最近リフォームされたのだと聞く。
父と長男がツインルームに宿泊したところ、長男はその部屋に入った途端寒気がしたらしく、特に入り口の扉には黒いモヤがかかっているように見えたのでと言う。
何話か前に書いたが、母と長男はいわゆる見えるタイプの人である。長男はまあ寝るだけだしと思って、早々とお風呂に入って奥のベッドで寝ることにした。父も概ねそのようだったらしいが、異変は深夜に起きた。
『¢£%#&□△◆■!?』
父は突然夜中に、おおよそ人間の言葉ではない何かをうめき出すと、しばらくして、
『ちょっと待っとれ』
と言ってむくりと起き上がり、ドアの方へと歩いて行ったのだそうだ。ドアにはまだ例の黒いモヤがある。これはまずいとと思った長男は、ベッドから飛び起きて父を掴んで揺さぶった。すると父はまたフラフラとベッドの方へ移動し、倒れるように寝てしまった。
まあ、一応これで大丈夫だろうと思った長男も、そのまま寝ることにした。しかし、二度目の異変は朝方起きた。まだ夜も明けやらぬ早朝に長男が寝苦しさを感じて目を覚ますと、父の姿がないのである。
まさかあの後、どこかへ連れて行かれてしまったのかと思って、ホテルのドアを引き開けると、すぐ目の前に、白目を向いて意識を失った父が、ぼうっと立っていたのだという。
*******
長男の呼びかけで、父は我に帰って何事があったかを聞いて恐れ慄いたと言うことだが、長男曰く、朝方父がいなくなったときには件の黒いモヤは無くなっていたのだそうだ。
なお、この件があって以降も父はこのホテルに中毒性があったのか、事あるごとに何度も宿泊している。その際何度かおかしな体験をしたと言うようなことも言っていたので、きっともう既に何かに憑かれていたのだと思う。
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