第十七夜 廃屋に招く子供
これは私が小学生くらいのとき、家の近くの空き地で経験した話だ。空き地と言っても端の方は駐車場で使われていたため、わりと整備されていて子供の遊び場にはもってこいの場所だった。近所の子供達はそこで集まって遊ぶことが多かった。子供の多い地域だったので、ひとたび集まると二十人くらいを超えていたと思う。それくらいの子供達が集まっても、十分駆け回ったりドッジボールができるくらいの広場だった。
夏の暑さも過ぎた、秋口の近くだったと思う。その日も二十人くらいの子供たちが集まって、昼頃からそこで遊んでいた。
夕暮れが近づいて、六時の鐘が鳴ると、だいたいお腹が空いたり門限があるのでめいめいに帰っていく。私はわりと家が近かったので、遅くまでいても大丈夫な方だったので、最後の方まで残っていると、一人の男の子が、こっちこっち、と言った。
私が何の気なしについていくと、空き地から道を渡った廃屋の塀に登っていた。その廃屋の敷地には柘榴が生えており、たまに子供達で失敬して食べることも多かったので、知っている廃屋ではあった。
男の子はその塀からひょい、と向こうに飛び降り、敷地の向こうに入ってしまった。私は塀の上までは登ったことがあったけど、敷地までは入ったことはなかったので、少し躊躇ったけども、その子を一人にしても良くないし、とりあえずついていくことにした。するとその子はこっちこっち、と、角を曲がって廃屋の方へ姿を消した。
待ってよ、と私がその子を追いかけると、曲がった先は深い庭で、その男の子はいなかった。夕暮れの、空の色が変わりつつある時刻であった。私がその男の子のことを探していると、すぐ上の、廃屋の窓から『こっちだよ』と声がした。見ればその廃屋の、上の方にある窓枠が外れており、中に入れるようではある。
中に入ったのかな? 自分より年下の男の子のようだったので心配だった私は、窓枠に手をかけ壁をよじ登って中に入ってみた。そこは土間になっており、どうやら台所として使われていたようだと推察された。ただ、中のものはほとんど残っておらず、男の子の姿もない。
おーい、と呼んでも返事がないので、私は奥に足を進めることにした。土間から畳に上ると、客間と仏壇がある部屋がつながっている場所に出た。明日灯りの中、私が男の子の姿を探していると、ほとんど物のない室内の床に、ころりと転がるものがある。
近づいて手に取ってみると、それは位牌であった。私の地元では備え付けの仏壇があり、だいたいそのに祀られているものだ。仏壇は? と思いあたりを見ると、かつてこの家に住んでいた人たちの遺影が見下ろすすぐそこに、ひっそりと残された仏壇があった。
私は位牌を仏壇に納め、もう一度室内を見回した。ここには誰もいない。直感的にそう思った。『もう行くね』私はそう言い残して、暗がりのなか唯一明かりの差す、台所の窓を通って帰ることにした。
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後日、気になってその廃屋を訪ねてみると、私がその廃屋に入った窓は閉じられていた。私が入った後に閉じられたのか、そもそも入れるところではなかったのかどうかはわからない。
でも、たぶん位牌の位置を仏壇に戻して欲しくて呼んだんだろうし、だぶんこれ以上は関わらない方が良さそうだと思って私はその廃屋を後にしたのだった。
その廃屋に入ろうとしたことは、それから二度とない。
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