第十六夜 屋久島の木霊の写真

怖い話が続いたので、少し良い話ではお口直しをしようと思う。


高校の頃、当時の体育の先生が保健の授業の後に私を呼び止めて来た。当時高校でも『とりあえず幽霊とかそういうのはアイツに』みたいな風潮があったので、先生としては是非とも話したい事柄だったに違いない。先生は一枚の写真を取り出すと、満面の笑みで私にそれを見せた。


『屋久島で木霊が写ったんだ』


先生が縄文杉を背にポーズを取る写真には、一面に多数のの白いオーブが映り込んでいた。オーブはすごい数である。初見で悪い感じはしない写真であった。


『オーブですね』

『オーブ??』

『あぁ、いえ、多分木霊です』


先生の夢を壊してはいけないと思ったので、そのときの私はわりと適当なことを言った。もしかしたら本当に木霊かもしれない可能性も一応あったからである。

ただ、当時のカメラによるオーブの撮影はそんなに難しくない。レンズやカメラ内部、空気中の水滴やホコリにフラッシュを乱反射させたり、ピントをぼかしたり光の当て方を工夫すればわりと撮れるものである。


一応そのことを確認するため、私は先生に木霊が写ったのはこの写真だけだったこと。写ルンですでなくて一眼レフを使ったこと。雨は降っておらず、霧も出ていなかったことなどをそれとなく確認した。オーブに囲まれる先生の服装などを見ても、雨は降っていなかったことが見て取れた。


『どうだ? 良い写真だろう? 前の休みに屋久島に行ってからお守りにしてるんだ』

『はい。とてもすごいですね。きっとたくさんの幸運が舞い込みますよ』


先生はそうだろうとはっはっはと笑っていたが、それから先、本当に彼には幸運が舞い込むようになり、例えば宝くじで組み違い賞が当たったり、剣道の七段の試験に受かったり(どうやら七段は相当難しいらしい)、そのほかにもいろんな幸運が続いたそうだ。


ただ、そのオーブの写真を木霊だ、と解釈した彼の感性は鋭いものだったと思うし、確かに悪い感じを受ける写真ではなかったので、本物だったのだろうと思う。

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