第十四夜 カーナビの示す先
これは以前、車で神戸の隣の西灘のあたりから六甲山を越えて三田の方まで行こうとしたときのお話である。なお、この近くには廃墟マニアの中では有名なマヤカン(摩耶観光ホテル)があるのだが、本筋の話ではないので割愛する。
日もとっぷりと暮れた深夜のこと、私は六甲山の山道をカーナビ通りに走っていた。山道といっても六甲山のあたりの道はわりと広い。とはいえ六甲山は油断は禁物で、リアルに巨大な猪が道の脇の林に佇んでいることもあるし、六甲おろしなんていう、ナンパした女性を六甲山に車で連れ込み置き去りにする、というような都市伝説もあるところである。
ただしこの六甲おろしの都市伝説は、二〇〇二年くらいに捕まった強姦魔集団の事件が派生したものであると思われるので、周囲では六甲山おろしされたという人もしたという人も私は知らない。まあでもそう言った噂が出そうなくらい、暗い夜道であることは確かである。
私はカーナビに案内を任せながら、さすがに嫌だなあと思いながら夜の山道を走っていた。するとカーナビはあるとき、若干本線から外れたような道で『左です』と案内した。
ただ、わりと本線と変わらないくらい太い道だったし、近道が何かなのかなと思ってその道を進むことにした。
けれども、進めど進めど人里は見えず、なんだか山の奥に分け入っていくように、だんだんと道は細くなり、路面も荒れてくる。それでもカーナビは『道なりです』と言っていたが、車一台分の車幅とちょっとくらいの道の狭さになって来て、あたりは鬱蒼とした森、灯りの一つも見えない状況になったとき、私はあぁ、これはまずいな、と思ってバックで引き返すことにした。このカーナビに付き合っていると、よくないことが起こる気がしたのである。
適当な道幅のあるところまでバックして、車体を切り返しもと来た道を戻ろうとした。切り返しがおわり、さてアクセル踏もうかな、と思ったとき、件のカーナビはこう言った。
『モウスコシダッタノニ』
それは、雑音混じりの野太い男の声であった。
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なお、この手のお話は、『死ねばよかったのに』系のお話に分類されると思う。
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