第十三夜 五月山展望台
このお話も、私が大阪に住んでいた頃のお話である。当時大学生だった私は、サークルの先輩、後輩たちに誘われて、五月山展望台行くことになった。
五月山展望台は夜景スポットで、たまにカップルなどがいたりもするらしい。私たちはお酒などをたくさん買い込んで、車に乗り込んで、夜中に展望台へ向かった。七人乗りの車で、テンション的には朝まで飲み明かそう! 的な感じで、あわよくばカップルになりたいとかそういうノリだったようだけども、もちろん私の目的は違っていた。
五月山公園といえば! 幽霊が出ることで有名な心霊スポットである。これは千載一遇のチャンスと思って、五月山展望台で飲んだり語り明かしたりするサークルメンバーを尻目に、一人お化けのでそうなところを調べてみるとことにした。とはいえ、当時の携帯のカメラでは夜間はうまく撮れないため、実際に回ってみる、くらいしかできなかったのだが。
夜も更けて、丑三つ刻を回ったから、しぃん、とあたりが静まり返り、何かが出現してもおかしくないような空気が漂い始めた。何か出るのか……? と胸躍らせながら身を隠していると、一緒に来た人たちの展望台で騒ぐ声がわあわあと聞こえた。これではお化けも出るに出られないかもしれない。
そう思った私はサークルメンバーのところに注意しに行こうとしたけれど、遠目におかしなことに気づいたのである。
八人いる。
七人乗りの車で、七人できたはずのこの場所に、認められる人影は私を含めて合わせて八名。このことをどう伝えたものかと思い、顔も判別できない暗がりの中、とりあえず数は数えるべきかと思って、『一ニョッキ!』と言った。他のメンバーもニニョッキ、三ニョッキと続き、七番目になったとき、『七ニョッキ!』の声が被ったのである。
ゲラゲラと笑いが起こる中、私は『七ニョッキを被せたのは誰?』と尋ねた。誰も答えずにいる中、私は核心に触れることにした。
『ねえ、じゃあ、ここには八人いるってこと? 来た時は七人だったのに?』
その言葉を発したとき、わああ! とメンバーはパニックに陥り、駐車場めがけて我先にと駆けだした。私は放置された小さめのクーラーボックスを担いで、なんとか彼らの後を追った。追いついたのは、もう彼らが車に乗り込んで、今にも発車しそうなタイミングであった。
私がクーラーボックスごと助手席に乗り込むと、飲んでいないはずの運転手がハンドルをずっと見つめて、
『あれは誰だったんだ、あれは誰だったんだ、あれは誰だったんだ……』とぶつぶつと呟き、明らかに正気でない様子であった。その割に、後の席からは『早く出して!』なんて罵声が飛んでくる。エンジンをかけてギアを入れようとした震える運転手に、これは全滅もあり得るかもしれない、と思った私は、クーラーボックスから取り出した、ポカリスエットのキャップを勢いよく回し取ると、ガタガタと震える運転手にキンキンに冷えた状態で中身を思いっきりぶっかけた。さらにもう一本あったので時間差でもう一つぶっかけた。彼はこちらを驚いたように見ていたので、目を合わせると好機に感じ、彼の頬を思いっきり平手打ちした。ビンタである。
彼はそれで我に返ったようだった。ポカリ除霊とビンタは効く、と、オカルトの師匠から習っていて良かった。
『車出して!』
私の掛け声でドライバーは急いで麓の明るい場所へと降り出した。後ろの子たちは最終的に怖いよーと言いながらイチャついていたように思う。
********
後日、飲み会のときはシラフだったドライバーに話を聞いてみたところ、飲み会中にぼっちでいたドライバーに、優しく話しかけて来た人がいたこと。その人が、こんな人たち、殺してしまったら? とエンジンをかけた際に語りかけて来ていたこと。おかしくなる絶妙なタイミングでポカリをぶっかけられたこと。
私は最後に、その人のことを知ってますか? と質問したが、彼は知らない人だと答えた。でも、そのときにはとても仲の良い友人のように思えたのだという。
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