第十二夜 呪いのテレカ
最近の若い人は知らないと思うが、昔は公衆電話で電話んするときに使うテレホンカードというものがあった。たぶん今でもあると思うけども、街中で公衆電話は数を減らし、それに伴いテレホンカードを見かける機会もとんと減ってしまった。このテレホンカードのことを、略してテレカという。
昔、テレカはわりとどこでも売っていたので、父が出張に行った先や観光地のお土産などをテレカにしてもらったり(お土産テレカはわりと装飾が凝っていた)、あとは懸賞などで当てたりして、私はそれをコレクションしていた。アマギフみたいな感じで贈答用に使われることもあった。
当時、兄である次男には付き合っている女性がおり、家の電話で毎晩長電話していたところ、電話代がすごいことになった。それをたいそう両親から咎められた次男は、わりと盗癖があったため、私の集めていたテレカを盗んでそれで電話をかけるようになった。
数が減っていることに気づいて次男を問い詰めると、『兄を疑うのか。傷ついた』と言って大暴れした。次男は典型的なDV気質なので、付き合った女性たちともだいたいそんな感じで別れた。しかしながら彼の盗んだテレカには一枚いわく付きのものがあった。
学校からの帰り道、知らないおじさんから、『これをあげるよ』と言われて渡されたテレカだった。そのテレカは真っ黒に塗られており、あまりいい印象を受けるものではなかったので何度か捨てたりしたけれど、次の日には机の上に置いてあったり、また『拾え』と言わんばかりに道に落ちていたりで、そんなこんなで仕方なく所持していた一枚であった。ただ、持っている分には特になにも起こらなかったので、途中からコレクションを確認して、『あー、こんなのあったね』と思うくらいになっていた。
ところがある日、テレカを取り出してみるとやはり何枚かが無くなっていた。どうせ次男が盗んだんだろうも思って、どれを盗られてしまったのか一応確認してみると、どうやらあの黒いテレカも無くなっているようだった。まあいいか、使い道ができて良かったね。
私はそんなことを思っていたのだが、事件は起きた。
黒いテレカが無くなって数日後、次男が車で事故を起こし、大怪我で入院することになった。見舞いに行った母から聞いたところ、彼女に電話をした帰り道のことだったのだという。次男はおそらく私から盗んだ、あの真っ黒なテレカを使ったんだと思った。そして事故に遭った。もしかしたらあのテレカは呪いのテレカだったのかもしれない。次男が盗んだから、所有権が私から次男へ移ったのか?
そんなことを思いつつ、私はテレカを使う人ではなくて、集める側の人間で良かったな、と胸を撫で下ろしたのであった。黒いテレカがどこに行ったのか、事故ったのはお前のせいだと言われそうなので、次男にはその在処をいまだ聞けていない。
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ところで、かけた人は事故にあったという事実があるが、一方でそのテレカで電話をかけられた側がどうなったのか、大人になった今ではとても気になるのだが、当時の私はそこまで気が回らなかったため、今や確認する術がない。それは非常に残念なことである。
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