第八夜 異界へ続く階段
私が通っていた高校には、例に漏れずいくつかの怪談があった。「北校舎四階廊下突き当りの集会室には幽霊が集まる」というもの、「東側校舎三階の音楽室のピアノが突然鳴る」、「北側校舎の東階段には幽霊が出る」、というものもあった。
一人で調べに行こうかなと思っていた私は、最近どこからかはやりの噂を聞きつけた数名のグループに声をかけられ、一緒に真偽を確かめに行くことになった。男女グループで肝試しがしたかったのだそうだ。
私たちは昼間のうちに東側校舎の目立たない場所の窓の鍵を開けておき、夜中にそこからの侵入に成功した。高校の校舎はロの字型で、基本四階建ての構造だが、西側の部分のみ一階建ての下足室になっており、西側校舎一階の屋上部分は北側校舎と南側校舎の渡り廊下に使われていた。ロの字型の校舎の中心には、広場と小さめの人工芝のグラウンドがある。
東側校舎の二階は職員室、四階は図書室で通り抜けができないため、北側校舎と南側校舎を行き来するためには、東側校舎の一階か三階、西側校舎の一階か二階の渡り廊下を通らないといけないという奇妙な構造であった。階段は南側校舎の東側と中央部分、北側校舎との東側部分に位置しているため、私たちが侵入した東側校舎から、北側校舎の東階段を上り、まずは「北側校舎の東階段には幽霊が出る」という噂を確かめることにした。
しかし、真っ暗な階段が続いている以外に不審な点はなく、みんな「怖いねー」など言い合いつつ三階へたどり着いた。ただ、この時点でなんとなく空気が重苦しいような、いやな圧力のある空気が漂い始めていたように思う。
それから私たちは東側校舎三階へ移動し、音楽室を確認してやっぱりピアノは鳴らないね、ということになり、北側校舎東階段に戻り、次は「北校舎四階廊下突き当りの集会室には幽霊が集まる」という噂を確認することにした。その時には、いやな空気はびりびりとした圧のようなものに変わっていて、これはなんだかまずいなと思い始めていた。
三階から踊場を抜けて四階へ。リノリウムの床をたたく音がやけに静かに響いていた。ほかの子たちが先を歩き私は一番最後尾を歩いていて、先頭の子がまた四階から先の階段を上ろうとしたとき、私はある違和感に気付いて咄嗟に言葉を発した。
『ここ、四階だよね』
周りの子たちは、うん、と同意し、三階から一階上に上がっただけだから間違いないね、と言った。私は、闇の中顔を判別することのできない、先頭を歩いていた誰かに向けて言った。
『ねえ、じゃあさ。
なんでまだ上があるのかな? この校舎には五階も屋上もないはずだよね?』
私のその言葉で、数名がぎゃああ! と叫び出し、パニックに陥って我先にと階段を駆け下り始めた。そこに先頭にいた誰かが含まれていたかはわからない。でも、ここにとどまるのは危ないと思って、私もその子たちと一緒に階段を駆け下りた。私たちはもう統率が取れなくなっていたので、散り散りになってそのままめいめい帰ってしまった。
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次の日集合した私は。先頭に歩いていた人は誰なのかみんなに尋ねてみた。けれど皆自分ではない、と否定していた。そして、日中に件の階段を確認してみたけれど、やはり四階より先に続く階段はなかった。
あのとき見た、四階より先へ続く階段を上っていたらどうなっていたか、あのとき先頭を歩いていたのは誰だったのか。「北側校舎の東階段には幽霊が出る」という噂との関係性はあったのか。後日調べてみたけれど、北側校舎の東階段でかつて事故死した生徒がいたということ、もしかするとそれは自殺だったのではないかということ以外、結局のところわからずじまいであった。
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なお、この手のお話は、実話会談の「異界へ続く階段」に分類されることが多いように思う。
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