第七夜 外階段の幽霊

兄である次男は内階段の幽霊をたいそう怖がっていたが、私は外階段に出る幽霊の方が危険なものであるような気がしていた。

外階段は家の北側に辺り、隣の家とを隔てる塀の隙間を通ってはじめて外階段を上ることができるのだが、隣家の木々がうっそうと茂っていたため、その外階段の塀は常にしっとりとしていて、絶えず苔生しているような場所だった。


その階段と塀の隙間から、たまにとても寒気のするような強い気配を感じるときがあり、ときにはびりびりとした強い波動のような圧が伝わってくることもあった。そういうときは意を決して息を止めて通り抜けるのだが、飼っていた犬の散歩にその霊がでるタイミングにかち合ったときは最悪であった。


犬は尻尾を丸めてガタガタと震え、くーんくーんと鳴き、一歩も進もうとしない。抱っこしようとしても嫌がる。まるで犬にはその存在が何者であるかわかっているようで、それでもそこを通らないと二階には行けないので(実家では家に犬を上げてはいけない決まりだった)、何とかして連れて上がろうとすると、意地でもそこは通らず、階段を横からがしがしと上って事なきを得る、のような感じであった。


ある日、その霊はやはりいるようで、私もびりびりとした圧を感じ、犬はしっぽを丸めくーんくーんとおびえていた。紐を引っ張っても頑として動かないのでどうしたものかと思っていると、ちりんちりん、と音がして、家で飼っていた三毛猫が姿を現し、シャア―――!!! とすごい剣幕で威嚇すると、その霊の気配は霧散した。犬にとっては姉貴分にあたる三毛猫である。


猫はフン、と鼻息荒く、その霊がいた空間と私たちを一瞥すると、またちりんちりん、と鈴を鳴らしながら半分まで降りてきた階段を上っていった。その霊の気配は完全になくなっており、犬も好機と思ったのか、尻尾を振って階段を上って行った。


********


なお、この場所ではたまに、斑の巨大な蛇や、白い蛇を目撃することがあった。さすがに蛇がいると通れないので、そういうときはいなくなるまでどこかで時間をつぶすか、内階段をとおって二階に上がることにしていた。この蛇が何者かの例の気配と同一のものなのか、今でも判別はつかないでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る