vision:ⅩⅩ 世界の理Ⅱ~伝承と過去からのSign~

少しずつ、明確になっていく

世界のカタチとその理


古の伝承が伝えたいことは

一体何なのか?


そして、なぜこの世界は

こんなにも優しいのか?


それらを紐解く鍵は………?


――――――――――――――――――――


千紗都が悪夢に魘されて、結翔の精神感応能力を使い、無事千紗都は目を覚ますことが出来た。

千紗都自身、先ほどのことは夢だったのだと思って、敢えて追求はしなかった。


結翔は今、隣のベッドで寝息を立てて眠っている。

よほど疲れていたのか、そのまま朝まで眠り続けていた。


一方、私は一度眠っていたため眠気がなく、身体を寝かせてはいるが眼が冴えてしまって、なかなか寝付けずにいた。

けれど、やはり疲労は感じていたため、いつの間にかまた眠りについていて、気付けば朝になっていたのだった。


「おはようございます。二人とも、よく眠れましたか?」

「おはようございます。気付いたらもう朝って感じでしたね………でも、少しだけでも寝れたので、今はスッキリしてます」

「それは良かったです。結翔も、ぐっすり眠れたみたいですね」

「………ん」


結翔はまだ眠そうに目を擦りながら身体を起こし、ぼや―っとした表情で、辛うじて返事をしていた。


「二人とも、あれから体調に問題はありませんか?」

「はい、特にこれといって気になるようなことは無いと思います」

「結翔はどうですか?」

「ん~、………大丈、夫………」

「そうですか。なら問題は無いようなので、このまま朝食としましょう。こちらに運ばせましょうか?」

「う~ん………、念のためにそうしてもらおうかな?私は大丈夫でも、結翔が歩けなさそう………」

「ですね、分かりました。では、こちらに運ばせるように言っておきますね」


そう言うや否や、仮宥愛は食事担当の従者に、私と結翔の分の朝食を運んでもらうように指示すると、彼らは早々に仕事に取りかかった。

従者から朝食を運んでもらい、仮宥愛がモーニングティーを入れてくれて。

なんだかいたせりつくせりの状態に、くすぐったい気分だった。


その後少し休んでから、結翔が「薬草が少なくなってるモノがあるから、調達に行く」というので、特にすることも無かった私は、「何か手伝うことはある?」と聞くと、「けっこうあるから、運ぶの手伝ってもらえる?」と言われたので、一緒に同行することにした。


温室の奥に仕切られた薬草園につくと、改めてその広さに驚いた。

前に仮宥愛からここに在る薬草全て、結翔が管理していて、その種類も配置も把握していることに、また驚いた。


やはり、結翔は意外と頭がいいのだと、改めて思い知ったのだった。

そんな結翔はと言うと、薬草を観察して、採取できるものを選んでは、手際よく摘み取っていた。


「今採ってるのって、何の薬の原料になるの?」

「これはチドメグサ。主に止血に使うもの。あとは火傷などの皮膚炎に使う薬と、精神を安定させる薬の原料も少なくなってるから、それも一緒に採らなきゃ………」

「精神を、安定させる…?あ…、それってもしかして…」

「うん、美彩姉が飲んでる薬の原料。『帰脾湯(きひとう)』って生薬の原料で、精神不安の他にも、不眠や貧血にも効く」

「そうなんだ…。でも、やっぱり結翔はすごいな。こんなにたくさんの種類の中から、ちゃんと必要な種類と場所を把握してるんだから………」

「………そう?」


そう言いながら、結翔は少し照れるような表情をするも、視線は薬草の方へ向けて、すぐにまたいつもの無表情に戻ってしまった。

その後も結翔は、目当ての薬草を摘み取っては篭に入れ、また移動して摘み取っては篭に入れてとくり返し作業していた。


そしてある程度摘み終えた後、薬草の入った篭を館に持ち帰り、その後の作業も見させてもらうことにした。

摘んできた薬草を刻んで練り、ペースト状にしたり、根の部分は乾燥させるために天日干しにしたり、と、本当に手際よく動いている。

年下とは思えないくらい、真面目な表情で、普段のあの無表情からは感じられないほど、生き生きとした雰囲気が、伝わってくる。


(本当に、好きなんだな…。全然表情が違うや)


ぼんやりと、結翔を見つめていると、その視線に気づいたのか、ちらっと結翔がこちらに目を向けた。


「………何?」

「ううん、何でも。………ふふ」

「………」


暫く無言のまま、じっと見られて、そしてまた先ほどのように真剣な表情で作業に戻った。

そんな結翔を見ていて、私はふと、自分自身もこんな時があったことを思い出した。

けれどその想いは、今はもう無い。

”あの日”に全てを壊されたから。


そう思っていると、自然と表情が曇っていたのか、それに気付いた結翔が言葉少なくも話しかけてきた。


「千紗都はここに来る前、何かしていたことはあるの?」

「え………?う~ん、特には無いかな。昔は絵を描いたりしてたけど、ここ2.3年はいろいろあって、何もしてないよ」

「そっか………。でも………千紗都が描いた絵、見てみたかったな………」

「そう?もう全然と言って良いほど、描いてないし。………落書きとかならたまに描いてたけどね。機会があれば、今度なにか描いてみようかな?」

「……描いたら、見せてくれる?」

「もちろん、完成したら見せるね。って言っても、いつになるか分からないけど………」


それでも、「いつか見せて欲しい」という結翔に、私は「わかった」と約束を交わした。


自然と、いつの間にか結翔とは普通に会話をしている自分に気付いて。


出会った頃は、結翔も自分も口下手で、あまり話をしなかった所為か、無愛想な子だと思って居たけれど。

こうして改めて接してみると、感情表現が出来ないだけで、本当はすごく優しくて純粋な子なんだって分かる。

結翔自身も気付いてはいないが、時々表情が緩むときがある。

その表情を見ると、普段は大人びた感じでも、年相応に視えて。

やっぱり人は見た目だけじゃ分からないと、改めて思った。


と同時に、七身が前に言っていたことをふと思い出して。


『此処はあなたの居るべき場所じゃない。元より、あなたの居場所なんて此処には存在しないんだから』

『アイツがどんな奴か、自分で確かめれば良いわ』


その言葉の真意とは、一体何なのか?

そして夢で見た、私の知らない仮宥愛の表情と、その行為。

それが事実なのだとすれば、一体何が真実で、何が間違いなのか?


そもそも、なぜ私がこの世界へ飛ばされたのか?

何がきっかけでこの世界に繋がったのか?

それすらもわからない状態で。

この世界での魔女の脅威や、仮宥愛たちが持つ精霊の力の意味など、それすら分からないことだらけだ。


改めて考えてみると、本当に不思議なことばかりで。

私は、なぜ今までこんなにも謎だらけこの世界に順応しているのか?

それすら不思議でならないほどに、状況はもうはや錯綜しているのだ。


(でも、何も分からないわけじゃない………)

(少しでも、前に進んでる気はする。けど、本当にそれが正しいのかは、分からないけれど………)


順応しているからと言って、元の世界に帰りたくないというわけではない。

でも、実際戻れたとしても、私の帰りを待っててくれる人など、居るのだろうか?

そもそも、元の世界は今、どうなっているのか?

一度考え出すと、止らなくなって。

すると、結翔がそっと私の頬に手を添えて、顔を覗き込んでいた。


「千紗都………大丈夫?」

「え………?あ、ごめん。ちょっと考え事してた」

「………急に静かになったから、どうしたのかと思って。どこか疲れてたりする?」

「ううん、大丈夫。………ごめんね、ちょっといろいろと考えることが多くて。そろそろ私、行くね。結翔もまだ作業残ってるでしょう?無理しないでね」

「うん。………じゃあ、またね」


そう言って私は医務室を出ると、一度深呼吸して「よし」っと気合いを入れると、ある場所へと足を向けた。


向かった先は教会の図書室。

もう何度か足を運んでいろんな本を読んでみたものの、あるのは神話にまつわる教本や物語、それとこの世界の歴史が記された本ばかりだ

流石に、異世界から飛ばされてきて元の世界に戻る方法が書かれた本など、あるはずないとは思っていた。

けれど、別の見方をすれば、神話にまつわる本であれば、何かしらのヒントが得られるかもしれない。

そう思い、私は改めて神話にまつわる本を集めて、もう一度調べ直すことにした。


本を読み進めること数十分。

ヒントになりそうな文面はいくつかあっても、実際にヒントになるのかどうかは分からない。

けれど、いくつかピックアップして、メモ用紙に書き出してみる。


【平行世界・エレアレム】

【始まりの神子】

【4つのエリアと結界の惑わしの霧】


大きく分けるとこの3点になる。

それから、その3点を中心になるものを探していくと、ある共通点が浮かび上がってきた。

そして同時に、ある記述が書かれた本を見つけた。

それは以前、仮宥愛と一緒に情報収集していたときに読みかけた本だった。

あの時は確か、ページの間に昔の写真が挟まってあって、中途半端になっていた。

途中まで読んでいたので、なんとなくだが内容は覚えている。

そのページを探して、もう一度読み直した。


それは、始まりの神子に関する事だった。


~始まりの神子~

神に最も近いとされる存在。

このエクレシアの創造主とも呼べる存在で、平行世界・エレアレムにおいて、選ばれし存在。

平行世界・エレアレムからの使者とも云われる。

始まりの神子はこのエクレシアと通じて、己の力を発現するとも云われる。

その力は精霊の加護をもつ、Noir Angeよりも強力で、儚く脆い物でもある。


その起源は、幻想郷―Pantasia(パンタシア)―における古の手記によって記されている。


「エクレシアの創造主で、エレアレムからの使者………?」


その言葉に、私は目を疑った。

以前調べた文献から、自分が神子かもしれないと思ったことがあるが、実際にそうかもしれないと思えるような内容だった。

それに、このエクレシアを通じて、己の力を発現するという部分。

もしかして、時々見るあの夢がそうなのかもしれないと、自分の中で燻っていた疑問に糸口が見出されていく。


「そう言えば、この幻想郷っていうのも、前に読んだ文献の中にあったような………」


私は、思い出す限りの本を手当たり次第に読み返して。

そして、その記述が書いてある本に辿り着いた。


そこに書かれていた内容は………。


~幻想郷―Pantasia―~

神によって生まれた最初の子、つまりこの世界における創造主である【始まりの神子】により、最初に創られた地上の楽園と呼ばれる地・幻想郷―Pantasia―。

この世界においての始まりの場所でもあるとされる。


主はまず、様々な動植物を生み、自然の恵みを与えた。

やがてその中で人が生まれ、村が出来た。

そして、人々は成長し、やがて村を出て各地を周り、いくつかの集落が生まれた。


その村々ではそれぞれに掟が有るが、元を辿れば始まりの地【幻想郷・Pantasia】においての規律に基づいたもので、人々はその掟を守り生活をしていた。


「規律か………。そう言えば、古い土地にはその地ならではの掟があるとかって、昔聞いたことがあったけど。それと同じようなものなのかな?」


ふと、誰かから聞いた話を思い出して、それが誰だったかは思い出せないが、そんな内容だったかなと思考を巡らせて。

とりあえず、幻想郷についてはひとまずこの辺にしておいて、気になる点の情報を集める方が先だと、他の文献にも手を伸ばし、情報収集に専念した。


「あ………これ、エリアのことが書かれてる!」


そして何冊目かの本の中に、各エリアについて書かれていた物があった。


~世界を分かつエリアについて~

現在、このエクレシアは4つのエリアに分断されている。


【教会のエリア・Lorelei】

我々が普段生活し、居住するためのエリア。

神の加護の元、瘴気の影響が少なく、唯一人が人としていきられるエリアである。


【残骸のエリア・残滓の森】

魔の瘴気に覆われ、闇の影が彷徨うエリア。

そこに居るのは死者のみで、生きた者が迷いこめば二度と生きては帰れない。


【冥界のエリア・魔女の城】

魔の瘴気が最も濃く、全てが朽ちたエリア。

この世界の最大の厄災・魔女の根城があり、さらに配下である闇の影の巣窟ともされている。


【傍観のエリア・嘆きの丘】

光の加護を受けし者達が集まる神聖なるエリア。

エクレシアの全体を見渡せる場所にあり、また魔の瘴気の影響を受けないための結界がある。


それぞれのエリアには、惑わしの森により分断され、ひとつのエリアの者が別のエリアに迷いこま瀬内容になっている。

しかし、光の加護を受けしNoir Angeのみ、その力で道を示すことが出来る。


現在はこの4つのエリアに分けられているが、原初の世界においては5つめのエリアが存在していた。

【最果てのエリア・World end】と呼ばれ、限られたモノにしか辿り着くことの出来ない、幻のエリアと云い伝えられている。

そこには、全ての理が払拭され、この世界とは異なる場所、平行世界・エレアレムへと通じる扉があるとされる。

しかし、現在に至るまでにそのエリアが実際にあるのかは確認されて居らず、古の伝承による幻に過ぎないとの検証がほとんどである。


「5つ目の、幻のエリア………?それに、原初の世界って………。でも、そこが平行世界に通じる扉があるみたいだけど………。現在のあるのかどうか検証がないって、どう調べれば良いのよ………?」


何だか内容が大ごとになっているような気がして、私は一旦目を閉じ、頭を抱えた。

少し休憩しようと、一旦図書室を出て館に戻ると、エントランスには未遊夢達が何やら騒いでいた。

何かあったのかと、一緒に居た従者に話を聞いた。


「どうかしたの?」

「それが………、絵本を読んでいたら急に泣きだしてしまって………」

「え………?それ、どんな絵本?」

「こちらの絵本です」


そう言って差し出された本をもらい、内容を確認するが、良くある、英雄物の絵本だ。

その内容の何処に、未遊夢と未遊夢が泣き出すほどのことが描かれていたのか?

私と従者がわけもなく動揺していると、騒ぎを聞きつけた仮宥愛が駆け付けた。


「どうしました?一体何があったのです」

「私にも分からないんですけど、この絵本を読んでいたら、急に泣き出したって………」

「貸して下さい………。コレは………!この絵本は、何処に在りましたか?」

「えっと………教会の図書室から借りて来た物です」

「そうですか………。まだ、残っていたのですね」

「え?どういう事?」

「説明は後にします。とりあえず二人を落ち着かせましょう。奏音に事情を説明して、連れてきてもらえますか?」

「分かりました」

「すみません、お願いします」


そう言うと、私は奏音を呼びに部屋を訪ね、事情を説明し、一緒に来てもらうことに。

エントランスに戻ると、そこには結翔の姿もあり、何かの小瓶を持っていた。

聞くと、どうやら気付け薬らしい。

結翔は二人に目線を合わせて、薬瓶を渡した。


「未遊夢、未幸姫、もう大丈夫だからね。ゆっくりで良いから、コレを飲んで?」

「………うん」

「………ぐすん、………あい」


そうして、二人は結翔から渡された飲み薬を受け取り、口に含むと、ゴクンと飲み込んだ。

暫くすると、何とか二人は泣き止んで、少しずつ落ち着きを取り戻したのだった。

その後、奏音に縋り付く未遊夢と未幸姫。


一体、何が二人をそんなにさせてしまったのか?

先ほどの絵本には、特に原因と成るような物は掲載されていなかったようにも思えるが。


「仮宥愛さん、さっきの絵本なんだけど………二人が泣き出すようなモノでも載ってたのですか?」

「………千紗都さんにはまだ、話してなかったですね。二人がここに来る経緯を……」

「え………それって、未遊夢達の過去に、何かあったのですか?」

「はい、………その前に、今は二人を休ませましょう。話はその後でしますので、少し待っててもらえますか?」

「………分かりました」

「すみません………。では、二人を一旦部屋へ連れて行きましょう。さぁ、未遊夢、未幸姫。お部屋に戻って休みましょう」

「………」


奏音に縋り付く二人は、離れたくないとばかりに奏音の服を握りしめて。

未遊夢も未幸姫も、落ち着きを取り戻しはしたものの、まだぐずつき、未幸姫に至っては奏音に胸に顔を埋めている。

仕方ないとばかりに、奏音は二人の頭をそっと撫でながら、仮宥愛に「私の部屋で休ませましょうか?」と提案してくれた。


「二人がそれで落ち着くのであれば、そうしてもらった方が良いですね。お願いできますか?」

「はい、大丈夫です。さぁ未遊夢、未幸姫。一緒に私の部屋に行きましょうか」

「…………うん」

「ふふ、いい子ね」


そう言って優しく二人を抱きしめて、そして二人の手を繋いで奏音達は部屋へと歩き出した。


「………あの、私も一緒に居てあげて良いかな?二人が心配で………」

「ええ、構いませんよ。奏音さんだけでは大変でしょうし、今は一緒に居てあげてください」

「ありがとうございます。………すみません、話はまた後で…」

「はい、行ってらっしゃいませ」


そう告げると、私も奏音達の後を追った。

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