第39話 連合王国の外交
パドリア連合王国が接触してきた。
貿易商人トルトナの名でジュミラの『トリナス』に接触してきたのだったが、ボッシオもカメリアも彼がただの貿易商ではなく、連合王国政府の関係者であることは察していた。
だが、彼の本名がドラグナ・ラウディアナ男爵で、連合王国の諜報機関であるZ機関の長であると突き止めたのは、我が『欲望★★』のダンジョンが誇るエージェント、連合王国の王宮である『王家の塔』に潜入した名も無き『ゴブリンラット』くんであった。
最近、やっと『ラット』のキングとクイーンが張り巡らせている諜報網が北のパドリア連合王国と都市国家連合国の中枢にまで及び、現在鋭意両国全土完全制覇に向けて増殖中とのことだった。
キングリチャード曰く、歴史ある建造物ほど『ラット』が容易く侵入できるそうで、既に先住民のネズミが沢山いるそうなのだ。
しかも、先住のネズミがいた方が繁殖が早くでき、つまりドンドン交配して『ラット』の因子をもった2世3世が生まれ続けるのだそうで、この『ラット』の因子を持ったネズミの子孫は『ラット』のキングとクイーンの支配を受けるのだそうた。
「リヒト殿、リヒト殿。お疲れのようですが、トルトナ殿がお越しになりましたぞ。」
はい、
「リヒト様まで、お呼び立てすることになって、誠に申し訳ございません。
ただ、先方のトルトナ殿が『トリナス』3名に加え、リヒト様と一緒に会談したいとの要望でございましたゆえ・・・」
「『英雄スカー』が『トリナス』に就任したのは、つい3日前の事。なのに日を置かずしてティムガッドも会談に招集するとは・・・やはりトルトナ殿・・・」
ボッシオが訝しげに考えてるが・・・
「おおかたティムガッド本人が話したんじゃないの?最近ずっとシンジ君と一緒にダンジョンや『欲望の街』をうろちょろしてるし。」
ボッシオとカメリアの視線を感じたか、ティムガッドは
「おう。確か3日前に『豊穣の女神亭』でトルトナの旦那にあったぞ。そこで奴とはメシを食いながら色々と話したんだ・・・」
コンコンコン!
「トルトナ様がお見えになりました。」
ボッシオ商会の人間が客人の来訪を伝えた。
「お通ししなさい。」
ボッシオの返答と入れ替わりに壮年の男が、『黄金樹』の広いメインダイニングルームに入ってきた。
・
・
・
「それで、今回は連合王国の貿易商としての立場でのご来訪なのか、それともZ機関の長としてのご来訪なのか、先ずは聞かせてもらいたい。」
「「Z機関!」」
「女王の番犬・・・か」
トルトナと一通り挨拶した後、俺は爆弾をいきなり投下した。駆け引きだと?俺にそんなもん求める方が間違っとるよ。
「両方ですよ。リヒト殿。
トルトナとしては、神輿として担がれてしまった旧友が、自分を見失っていないかどうかを見極めるために。
そして、もう片方の肩書きとして、ベアトリクス女王陛下からの親書をお渡しに参りました。
『欲望の街』のリヒト殿。パドリア連合王国ベアトリクス・ウィルミナ・アウル・ファン・オラリア・パドリアーナ女王陛下からの親書をお渡し致します。」
そう言って、慇懃に一礼したトルトナ、いやこの場合はドラグナ・ラウディアナ男爵は金色の封蝋で封印された羊皮紙を箱から取り出して、恭しく俺に差し出した。
「羊皮紙って初めて見たけど、未だに使っているのな・・・」
女王からの手紙には要約すると・・・現状の国境線が変わるのは面白くありません。仲良くしましょう。と
女王の親書を読み終えたタイミングで、今度はラウディアナ男爵が
「で、こちらも単直に伺います。リヒト殿はゴルチェスター王国を滅ぼすおつもりでしょうか?」
「っ!トルトナ!いい加減なことを口にするな!」
我らの『英雄』君が、旧友をたしなめた。だが・・・
「ティムガッド。これは連合王国Z機関の長、ドラグナ・ラウディアナ男爵としての質問だ。
ティムガッドもジュミラの『トリナス』として、立場をわきまえた方が良いよ。」
パドリア連合王国の外交方針は至ってシンプルだ。バランスこそ至上命題!
連合王国の人口5千万。
それに比べジュミラは1500万人。
ゴルチェスター王国6千万人。
そして帝国に於いてはおよそ1億人。
この時代、人口こそが国力、徴兵能力に直結する。
「ジュミラがゴルチェスターを併呑してしまったら、女王陛下の庭の隣に、単独で連合王国を喰い殺せるドラゴンが誕生してしまう。てか?」
ラウディアナ男爵は重々しく頷くながら、低く掠れた声で言った。
「都市国家ジュミラが誕生を許された理由はそこにあります。
『
「ちょっといいか?都市国家連合国はどうなんだ?さっきから名前すら出てこないが・・・」
ティムガッドがおずおずと手を挙げて質問した。
「6つの都市の集まりで、総人口が4千万にも満たない集団。国家とは呼べない烏合の衆ですのよ。」
「国家としての意思をまとめている間に、各個撃破されてしまうわ。」
あら、カメリアもボッシオも辛辣だね!
「そもそも連合王国とアイゼンタット聖教国と直接国境を接することを避けた帝国が、緩衝地帯として作った国です。」
男爵の言葉を受けて、カメリアが続ける。
「国家として、反帝国や親連合王国や親聖教国にまとまるのを防ぐのが目的で、同格の都市を6つ作ったのです。ちょうど各大国にシンパシーを持った都市が2つづつ存在するよう、陰で経済的に支配して・・・」
「なるほど、だから誰も端から相手にしないんだな。分かったよ・・・」
「分かればよろしい!『スカー』君。」
分かりみの早いおっさんだった。
「いや、お前様方が、どんだけ腹黒いかが分かったって言ったんだよ。」
「あら、心外ですこと!少なくとも『トリナス』は、連合王国のような二枚舌ではなくてよ。ご安心なさい、『英雄』。」
あっ、カメリアのやつ。なんか連合王国に恨みでもあるのかな?でも、連合王国の二枚舌は有名な話だった。
「心外ですぞ!レディー。我が連合王国は過去も未来も最大多数の最大幸福が国是でございますから。」
「詭弁ですな、男爵。そもそも多数決なぞ、どこからどこまでの範囲で決を取るか次第で、多数派が決まりますからな。便利なシステムですな!」
「それを『民主主義』と最近連合王国の学会では申すそうですよ。『トリナス』の皆様。」
「う〜ん。連合王国が諸外国に快く思われていないことが、よく分かったよ。
で、そんな独りよがりな連合王国が我々に何を望むのかな?」
俺の問いかけに、ドラグナ・ラウディアナ男爵が慇懃に頭を下げて答えた。
「我が女王陛下の
「う〜ん。なんで貴国が二枚舌外交と
そんな大事な国同士の約束事の当事者に、首の挿げ替えの効く人間の名をだすからなんじゃない?」
「ご明察でございます。リヒト様。」
「連合王国では、都合が悪くなれば、『民意』の名目で政権が交代し、政権代表の名で署名された約定の数々が、後の政権の名で反故にされた例は、枚挙に厭いませぬな。」
と、辛辣なカメリアとボッシオの言い分に、ラウディアナ男爵が顔を真っ赤にして怒りを顕にした。
「ああ、それそれ。それなら、俺たち傭兵の間でも有名な話しだわ。『先に金貨を握るまでは、連合王国の口約束を信じるな!』ってな。俺もカルト爺さんから教わったよ。」
「それはもしや『紅の剣聖』カルトヴァールその人では・・・」
ボッシオが急にティムガッドに掴みかからん勢いで尋ねた。
「ああ、た、たしかそんな名だった・・・」
「して、カルトヴァール様はご存命なのか?」
「いいや、俺がジュミラの街に旅立った年、今から5年前になるかな?その年の春におっ
剣を抱いたままで、朝日に向かって座したまま死んじまってたよ。」
「カルトヴァール様の最後に相応しい・・・」
なんか、場がしんみりしてしまった・・・が、俺にはそんな事関係ねーし!
「この話、連合王国の首の挿げ替えの効く程度の人間の保証では、話しがまとまらなくなっているのですよ。ドラグナ・ラウディアナ男爵。」
ラウディアナ男爵が、怒りに顔を真っ赤にして抗議しようとしたその時!メインダイニングルームの扉が大きく開かれて、華麗な服装の若者が自信に溢れる足取りで入室してきた。
「やあ!諸君!マルガス帝国第2王太子 ユグノー・ホーエンツェルン・アルベルトである!
皇位継承権は国を出る前に返上すると皇太子殿下に申し出たら、此度のジュミラとの外交交渉が終わって帰国するまで、そのままで良いとのお言葉だったよ。
皇位継承権を持ったままの方が、諸外国勢力からは大事にされるそうなのでな。
あっ、だが万が一意思に反して人質になるような自体に陥った場合には、過去に遡って吾輩の皇籍は抹消されるそうだから安心しておくれ。
さてさて、諸君。吾輩もその話しに加えては頂けないかな?その話には、いたく興味があるのだよ!うわははは!」
知らぬ間にメガトン級の熱核爆弾が、自分から転がり込んできた・・・
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