第24話 オスティア国境の戦い

◇◇◇


 その夜、迷宮都市リッチブルが震えた。


 街の中心にあるダンジョンが決壊し、『試練』のダンジョンの胎内からモンスターが溢れ出してきたのだった。


 先頭をリザードマンとリザードマンナイトの大群が駆け、その後方にオーガとオーガジェネラルの群れが続いた。


 その数、およそ1万。


 その強力な軍勢の中央には、首のない馬を駆る首のない黒騎士の姿があった・・・

 デッラハンの黒騎士。第2使徒であるデュゲクランが、『試練』の軍団の指揮をとっていた。


 『試練』のモンスター軍団は、目の前に立ち塞がるリッチブルの街の家屋を、子供のドールハウスのように一瞬で破壊しては、北を目指して駆け抜けて行った。


 リヒトの要請にも関わらず、蹂躙されたリッチブルの住人に避難の勧告はなされなかった・・・


◇◇◇


ジッ『こちら出歯亀ピーピングトム、ミルクがコップから溢れた!繰り返す、ミルクがコップから溢れた!オーバー!』ジッ


 モンスターが迷宮都市リッチブルの街を破壊しながら北上しているその時、街を見下ろす丘の上からじっとその様子を監視している影があった。


 丘の稜線に潜む『ゴブリンニンジャ』のライゾウとニャルトだった。


ジッ『だから、ライゾウ!盗聴なんて出来ないんだから、ヘンテコな符牒ふちょうは使うなっていってるだろ!オーバー!』ジッ


 前回の『獣』のダンジョンとのバトルでは、ニャルトは6kgもの重量がある無線機を背負っていたが、今回は片手で持てるほど小型化した、重量たった1kgの無線機を携帯していた。


 その無線機のヘッドセットから、リヒトの怒りの声が響いた・・・


ジッ『・・・』ジッ


ジッ『こら!返事しろ!ライゾウ!敵の数はどうだ?オーバー!』ジッ


『う〜ん、8千から1万てとこかなあ、ライゾウのおっちゃんてばよ。』


 ニャルトが必死に敵の兵数を見積もる。


『リザードンが七千。オーガが三千だな。』


 ナイトスコープの赤外線画像で敵を監視している『ゴブリンスナイパー』の零号がニャルトの数字を補足訂正した。


ジッ『リザードン七千。オーガ3千だ。オーバー。』ジッ


ジッ『了解。全軍へ通達!作戦は第2段階へ移行。繰り返す。作戦は第2段階へ移行!諸君の奮闘を期待する!オーバー!』ジッ


ジッ『こちらライゾウ。御意!』ジッ


ジッ『こちらメイトリックス!ラジャー!』ジッ


ジッ『全軍、ルビコン川を渡れ!』ジッ


 ライゾウに釣られて、思いついた符牒ふちょうを通達してしまったリヒトであったが、それを聞いた指揮官たちはニヤリと笑っただけであった。


◇◇◇


ドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


 地響きをたてて荒地を駆けるモンスターの軍団。


 迷宮都市リッチブルから休まず駆け続けて、深夜には国境くにざかいの山岳地帯にまで達したのは、脅威の速度と体力であった。


ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!

ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!


 突然モンスター軍団の先頭を駆っていたリザードマンナイトとその取り巻きのリザードンが血煙を上げて倒れた!


グギャ!ギャ!


 倒れたリザードンたちを踏み越えて、モンスター軍団は足を止めずに突き進む。


 その先にはM134 ミニガンを銃座に搭載したJLTV汎用軍用車両が2台たち塞いでいた!


 この汎用軍用車両こそ、リヒトがボルトゥール伯爵家に訪ねた際に乗っていた『自動車』であった。


『ウォーダディ!ミラー!車を出せ!』


 銃座でM134 ミニガンを斉射していたメイトリックスが、それぞれのJLTV汎用軍用車両のハンドルを握る2人に鋭く命じた!


『『ラジャー!』』


ブォン!


 6.6リッター2,500SPのディーゼルエンジンか咆哮をあげ、JLTV汎用軍用車両は停車した状態から、わずか10秒程で時速50kmまで加速した。


『ヒィヒャッハー!』


 夜間の不整地を時速50kmで飛ばすウォーダディとミラー!


 ただでさえ正面視界の悪いJLTV汎用軍用車両を夜間の不整地でこれ程とばすのは正に狂気!


 だが、それを可能にしているのが『ゴブリンソルジャー』が持つスキル、【ヒーロー】の力であった。


 銃座に立っていたメイトリックスとランボーは、銃座から振り落とされないようにし後部座席に潜り込んだ。


『おい!もっと速度を落とせ!トカゲ共をもっと引き付けるんだ!』


 メイトリックスはドライバーのウォーダディとミラーに向かってマイク越しに怒鳴る!


『OK!Old manオヤジ!任せろ!』

 


ガンッ!ゴン!ガッ!


 JLTV汎用軍用車両にモンスター軍団の先頭が投げつけた武器が当たるようになった。


 だが、JLTV汎用軍用車両はIED(即席爆発装置)への防御能力が付与された車両だ。端から投擲された武器などでダメージを与えられる訳がない。


 JLTV汎用軍用車両はモンスターの大群にとある谷間に逃げ込んで行った。


◇◇◇


 首のない愛馬を駆りながら、デュゲクランは違和感を感じていた。


 『ダンジョン』でありながら、人間との馴れ合い交わる『欲望』のダンジョン。


 己のマスター以上にデッラハンである黒騎士デュゲクランはそれを嫌悪していた。


 その不条理な『ダンジョン』のあり方に、その軟弱な『ダンジョン』の存在に。


 だから『欲望』のダンジョンを攻めるに当たって、黒騎士デュゲクランは自ら攻撃隊の指揮をマスターに願った。


 このモンスター軍団の編成も訓練も、みなデュゲクラン自身が行った。★5ファイブスターダンジョンに相応しい戦力になったと自負も感じている・・・だが何かがおかしい・・・


 黒騎士デュゲクランは騎上から奇妙な『箱型の馬車』が、前方のリザードンの戦士たちによって谷間の奥に追い立てられるのを『首のない頭』で霊視した。


 暗闇でも見通すことが出来るデュゲクランではあったが、東の谷の稜線が明るくなってきたのを『見て』、少し焦りにも似た感情を抱いた。


『夜が開け始めたか・・・。『欲望』のダンジョンに急がねばな・・・』


 1晩中駆けても、その勢いが衰えない軍団に、黒騎士デュゲクランは誇りすら覚えた・・・だがその時!『試練』の軍勢の前方と、進行方向右手、谷の東側の斜面で『スケルトン』が立ち上がり、手に持った筒の先端から小さな『炎』を連続して吐き出した!


タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!


 谷中にコダマする破裂音と共に、鋭く空気を切り裂く何かがデュゲクランの軍団に襲いかかった!


◇◇◇


 仄暗い眼下の谷底を『試練』の軍勢がJLTV汎用軍用車両を追って行くのを目にすることが出来た。


 カーツ大佐は、潜んでいた岩の間に掛けた迷彩色のシートを跳ね除け、トライポッドに設置したM2 重機関銃キャリバー50のグリップを両手で握りしめ、両手の親指でM2のバタフライトリガーを押し込んだ。


ダダダダダダダダダダダダダダダ!


 カーツ大佐のM2が、12.7x99mmの死の弾丸を大きなマズルフラッシュ銃口発火炎と共に吐き出すと、10メートルほど離れた所に潜んでいたエリアス軍曹もシートを跳ね除けてM2の掃射を始めた。


ダダダダダダダダダダダダダダダダダ!

ダダダダダダダダダダダダダダダ!


 カーツ大佐とエリアス軍曹のM2 重機関銃掃射を合図に、谷に迷彩シートを被って潜伏していた『ゴブリンスケルトン』5,000体が一斉に立ち上がって、M5自動小銃を構え『試練』のモンスターに6.8×51mmの弾丸を浴びせた。


タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!


 『欲望★』の軍勢に半包囲されたモンスターたちが次々と倒されていく!


 『スケルトン』などとは比肩することさえ有り得ない強力な『リザードン』や『オーガ』たちが、血煙を上げて倒されていく!


ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!


 『試練』のモンスターを罠に誘導したJLTV汎用軍用車両も停車してM134 ミニガンの射撃を開始した!


『うおおおお!こんな敗北など、絶対認めんぞー!ゴドフロワ様、万歳ー!』


 愛馬をM2の掃射で失った黒騎士デュゲクランが、黒剣を振り上げて屍の山を駆け上がっていく!


 だがしかし、5メートルも走らぬうちに黒騎士を形作っていた呪いの鎧は、12.7x99mmと7.62x51mmのフルメタルジャケットで蜂の巣にされ、部下の血肉と共に屍の川に崩れ落ちた・・・


 こうして『試練』の軍団は、ボルトゥール伯爵領の両境を越えることなく全滅した。


 『欲望★』の軍勢に、被害は全くなかった。



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いやはや、ストックも尽きて毎日綱渡りでなんと繋いでます(@_@;)



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