第20話 新たな成長を目指して

「リヒトー!帰ったよー!」


 トートが『欲望★』のダンジョンに、『ゴブリンポーター』を連れて帰ってきた。


 その様子を『コア』ルームで確認した俺は、トートと『ポーター』たちを入口から転移させた。その背負った『荷物』と一緒に。


「おかえりー!トートちゃん。おっ、連れてきたねぇ」


 転移してきたトートを、早速仲良しのベルが出迎えた。


 トートが率いた『ポーター』たちが、今回ジュミラの街から運んできた『商品』は『物』ではなくて、『人』だった。


「リヒト。あなたが希望したとおりの・・・『人生に絶望した』子供の『奴隷』たちよ。」


 そう言ってトートは、20体の『ポーター』に背負われた、20人の子供の奴隷を俺に見せた。


「ご苦労さま。ああ、みんな死んだ魚の目をしてるね・・・」


「みんな『訳あり』だからね。『ボッシオ商会』では、扱わない『訳あり』の奴隷だからさぁ、ジュミラの街中の『奴隷商』を探し回って集めてくれたみたい。」


「その分ボッシオには、んで文句ないだろうよ。」


 そう、今回俺が注文したのは、身体を欠損したり、重い病気にかかった子供の奴隷ばかりだった。


―― 話は数日前に遡る ――


「う〜ん・・・ほぁ・・・ふ〜ん

・・・」


「どうしたの、リヒト?」

「トイレかい?」


 最近恒例になっている朝のアンパーンタイムに、トートをはじめ『欲望★』の幹部たちが集まってアンパーンとミルクを味わっている最中、俺は悩んでいた。


「ちげーよ!・・・いやなぁ、まあ聞いてくれ。『欲望の街』の建設も順調に進んでるし、ダンジョンの経営も順調ときたもんだ・・・となると・・・」


「となると、どした?」


 ベルが自分の体よりデカいアンパーンと格闘しながら聞いてきた。


 トートもエイルも俺のことは気にせず、アンパーンとミルクを美味しそうに味わっている。


 なんて薄情なヤツらだ!俺がこんなに悩んでるのにさ!


 シフォンだけが食事の手を止めて、俺の話に耳を傾けてくれる・・・ええ子やぁ〜


『ゴブ!』


 アダムがゴブリンのクセにイケメンなスマイルでサムズアップしてくる・・・いや、ホント分かっているのかよ、お前さん。


 こいつらアダムとイブも、最近は朝のアンパーンタイムに顔を出すようになったんだ。

 どういう風の吹き回しなのか・・・さっぱりだが、イブもいつも大きなお腹を抱えてアダムに付いてくるんだよな〜


「『アゲハ蝶』では、恋人のいない寂しい1人ヤモメ共の心を鷲掴みにした。

 それは『アゲハ蝶』でしか得られない『疑似恋愛体験』、『虚栄心の充足』、『ストレスの発散』、そして『承認欲求の満足』があるから。」


「ぷっ、何それ。恋人のいない寂しい人かハマるってのは分かるけどさ。その後の理屈がわかんないや。」


 ベルが器用に俺のミルクのコップに頭だけ突っ込んでミルクを飲みながら言った。なんか、ハチドリみたいな不思議な動作だ。


「いいか、『アゲハ蝶』での遊びはな、あくまでも『擬似的』な恋愛なんだ。とりこになってるアイツら自身、自覚のあるなしに関わず、その事はよく理解している。」


「リヒト、それはどういうことなの?」


「なんだ、トート。お前も興味があるのか?お前も女だなぁ・・・」


「いいから早く説明しなさいよ!」


 何故怒るのだ!トート・・・


「まず大事な事だが、元々恋人のいる男は『アゲハ蝶』には来ない!まっ、恋人がいても『アゲハ蝶』にハマってる『女好き』もいるっちゃあいるが、そんなクズ野郎は少数だな。」


「まっ、当たりと言えば当たり?なのかな?」


 ベルもトートもこのテの話し、好きだよなぁ。これって『恋バナ』になるのか?


「それで、恋人のいない圧倒的大多数のボッチ男たちが、『アゲハ蝶』のお嬢たちにハマるのは、それが『虚構』の恋愛だからだ。」


「『虚構』の恋愛?つまり、それがリヒトの言う『疑似恋愛体験』だってこと?」


 ゴブリンのアダムとイブまで食事を止めて俺に注目してやがる。お前らに『人間』の心理分析なんて要らんだろ・・・


「そうだ。『アゲハ蝶』のお嬢たちはな、アイツらを絶対に拒絶しない、全てを肯定して受け止めてくれる『安全』で『安心』できる『女』なんだよ。」


 分かったような、分からないような顔してるな。


「ベルには分からんだろうが、トートなら経験があるんじゃないか?好きな異性に対して気持ちを打ち明けたら、『拒絶されるのが怖い』とか、『いい関係が壊れたらどうしよ』とかさあ・・・」


 トートが顔を真っ赤にして俯いてしまった。なんだ、有るのかよ・・・


「でも、『アゲハ蝶』の『コンパニオン』の子たちは、そんな女慣れしない男たちの『気持ち』に寄り添って受け止めると・・・。それが、男たちを惹き付ける魅力だとぉ?」


 ここでエイル姉さん参戦。


「そうだ、そのとうりだ!」


 アダム以外の女性たちの顔を見渡しながら続ける。

 アダムは知らん!さっきからホゲった顔してるから。


「『アゲハ蝶』のお嬢たちは、男共の話す手柄話や自慢話、なんなら苦労話だっていい。男たちの垂れ流すどんな誇大妄想、虚言空言、お嬢の気を引きたいだけのヨタ話・・・何でもいいんだ。お嬢は何でも笑って受け止める。『凄いわぁ!ステキ!』って本気でね。」


「あー、それなら分かるなぁ。ボクなら絶対に『妄想乙』って突っ込むからさぁ」


「私も鼻で笑ってやるわ・・・」


「私なら、そんな戯言垂れ流す口は縫合ほうがうしてしまうわねぇ」


「あわわ・・・」


「なぁ、シフォン。現実の女って怖いだろぅ?」


「えっと、そのぉ・・・私も一応・・・女の子・・・なので・・・」


「ははは、そうだな。済まなかった、シフォン。」


「ふ〜ん。リヒトがいう『アゲハ蝶』が如何に男共をトリコにしてるか、分かったし、きっとカジノ『大富豪』も男共の心を鷲掴みしてるってヤツもあるのでしょうね。」


 と半信半疑なトート。


「うん。どうせボクには分かんないでしょうけど、『アゲハ蝶』も『大富豪』もしっかり男のハートを掴んで、『顧客満足度』が高くて結構じゃない!」


「何か、隠れた問題でもあるのでしょうか?・・・マスター?」


「問題はナイがアル!大アリだ!」


「「どっち!」」


「えっ?ええ??」


「ちゃんと説明しなさいよぅ!」


『ゴブ』


「俺たちは、現状で満足してたら、現状に満足して足踏みしてたらダメなんだ!」


「でも『一つ星★シングルスター』のダンジョンにしては、ボクら結構イケけてない?」


「そうねぇ、『獣』とのダンジョンバトルの手応えは、なかなかだったしねぇ」


「甘いよ2人とも!どうして次の相手が同格だって思えるんだ?

 俺たちは残り8ヶ月以内に後2回ダンジョンバトルで勝たなければならないんだ!

 例えそれが格上相手だったとしてもな!」


「「・・・」」


「マスター。そのために私たちは・・・」


「そうだ。俺たちは『成長』し続けなきゃならないんだ!」


「気に入ったわ!リヒト!

 既存の市場に固執することなく、新市場への進出や新製品の開発・投入、経営の多角化などで、市場シェアの獲得を常に意識しなければ、私たち商人は死んだも同じだわ!」


「お・・・おう・・・」


「それで、どんな方向性て次の成長を目指すのかしらぁ?」


「そ、それなんだよ、エイル。方向性が思いつかなくてさぁ・・・次は、男だけでなく、女性も魅了出来るような足がかりが欲しいんだけど・・・」


「女性かぁ、難しいねぇ・・・」


「私、まだ女の子だから・・・女性が魅力的に思うこと・・・う〜ん・・・」


『ゴブ!』


 アダムがドヤ顔でアンパーンを手に掲げた・・・


「どうした、アダム。アンパーンお代わりか?」


『ゴブゴブ!』

『ゴ、コブブ!』


 アダムにつられて、イブまてアンパーンとミルクを俺に突き出してきた。


「もしかして、お前ら『食べ物』って言ってるのか?」


「あっ、それはいいかも!リヒト。

 このまえの『カツドゥーン』美味しかったわ。私、また食べたいなあ・・・」

「そ、そうです!マスター。『カツドゥーン』、とてもとても美味しかったです!優しいお味で・・・」


 トートとシフォン、よっぽど美味しかったんだな、『カツドゥーン』。

 思い出の一杯になってくれたら・・・・・・


「・・・まてよ、『食欲』こそ『根源的な欲求』じゃないか・・・」


「そうねぇ、飢えていたら『女遊び』する気になんてなれないし、『ギャンブル』だって成り立たないわねぇ」


「そうよ、リヒト!美味しいものを食べたい!脳の記憶に刻みつけられるような『味』を食したい!」


 トートの目がギラギラし出したぞ!


「そうよねぇ。『視覚』、『嗅覚』、『口の中の触覚』・・・人間の全神経を鷲掴みに出来る『食』があったらぁ・・・」


 エイルのマッドなオーラが燃え上がる!


「『食』なら、男も女も関係ないよ、リヒト!」


 そうだよな!ベル吉!


「そ、それに、女の人なら、か、甘い物に目がないと思います・・・マスター」


「いいぞ!オマイラ!次の『欲望★』は、『食』を目指すぞ!」


「『食』で胃袋を鷲掴みだね、リヒト!」


「そうだ、ベル!がっちり掴んで『欲望★』のとりこにしてやるぞ!」


「ついでに財布のヒモも捕まえるのよ、リヒト!」


 安定のトートクオリティーだった。



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