第18話 新たな収入源

◇◇◇


 ヤブネとその一族郎党が、女子供を含めて公開処刑されたその日、背徳の街ジュミラは夜遅くまで異様な雰囲気に包まれていた。


 ある者は恐れ、またある者はその残忍さに興奮し・・・


 そんな街の狂騒も静まった深夜過ぎ、街の暗闇を縫うように足早に進む男たちがいた。


 8人の男たちは、ジュミラの街の東南の外れに位置する、小さな商館の表と裏の入口に二手に分かれて取り付くと、間髪も与えずにドアを打ち破って中に侵入して行った。


 賊に侵入された商館は、トート商会のジュミラ支店で、侵入した8人の男は『盗賊騎士団』でこう言った仕事を専門にする影の男たちだった。


「番頭女が1人と、店員が3人住み込んでいるはずだ。見つけ出して殺せ!」


 先頭を切って店の中に侵入した男が、後に続く男たちに命令する。


 ・・・だが、真っ暗なトート商会は静まり返っており、店に侵入した男たちの気配すら感じんことが出来ない・・・


 刻々と時間が過ぎても、傭兵の男たちがトートの小さな店から、歩いて出てくることはなかった・・・



 翌朝、街の中心、オークションハウスの近くに居を構える『盗賊騎士団』本部の大きな建物の中庭に、8個のワイン樽がのを、朝の門衛交代に4階の宿舎から降りてきた傭兵が発見した。


「誰だよ、こんな所に酒樽を置きっぱなしにしたのは・・・」


 その男は、不審に思って酒樽を動かいてみたが、期待していた液体の動きは感んじられなかったため、不審に思ってキツくしまった樽の天板を剣の柄頭で叩き割った。


「うわっ!ひぃぃーっ!」


 男の上げた悲鳴を聞きつけた『傭兵団』の男たちが、ゾロゾロ中庭に降りてきて、樽の中身を見てしまった。


 樽の中には、塩漬けされた人間のパーツが入っていた・・・



 天頂に差し掛かった太陽の光が、『欲望★』のダンジョンへと至る森の中を、曲がりくねって走っている『欲望の小道』の人の足で踏み固められた小道を照らしている。


 その『欲望の小道』を駈歩かけあしで駆け抜ける武装した騎馬の一団がいた。


 『盗賊騎士団』の騎兵300騎とその先頭を駆ける『盗賊騎士団』団長のルードがそこにいた。


 ルードは傭兵団本部中庭に置いてあった酒樽の中身を一目見るなり、本部に詰めていた百人隊長5名と十人隊長10名を中核とした騎馬隊を即座に編成し、ジュミラの街を飛び出してきた。


 目指すはここまでルードをバカにしたリヒトの首ただ1つ!


 補給は2日分の携行食と水だけを携えて、ルードの顔に泥を塗ったリヒトのダンジョンを速攻で落とすために、『盗賊騎士団』の最精鋭ばかり集めて、騎馬で進軍していた。


 昨日の『黄金の穂波亭』での出来事といい、今朝の酒樽の件といい、ルードの普段の冷静さは軽く消し飛んでしまい、血走ったルードの瞳が求めるのもは、ただただ憎いリヒトの血まみれの姿だった・・・


 細く曲がりくねった『欲望の小道』を、地響きのように駆けぬけていくルードとその手下の300騎!


 だがしかし、彼らは自分たちが既に『欲望★』の領土を駆けていることに気づきはしなかった。



「止まれー!」

「「「「「止まれー!」」」」」


「団長!どうやらダンジョンに飛ばされたようです。」

「後続も着いてきてます。狭いのでもう少し前に進みましょう。」


 ルードは、自分たちが突然洞窟、いやダンジョンの中を駆けていることに気づき、驚いて全軍を停止させた。


 ダンジョン苔で仄暗く明るくなっている細い通路が真っ直ぐに下っている。


「なんだかシケたダンジョンですな!ただ真っ直ぐな通路が下っているだけとは。」


「馬が使えるだけ、ありがたいというものさ。」


 百戦錬磨の百人隊長たちが口々に感想を話してる。


「全騎抜刀!ここは既にダンジョンの腹の中だ!警戒しつつ、このまま騎乗して進むぞ!」


「団長!どうやら下の方はだんだんと広くなってるようですな!」

「通路の幅に合わせて、こちらも縦隊の幅を変えましょう!」


「よし!通路の幅に合わせて、5人の百人隊長毎に縦陣を作れ!このまま行ける所まで進むぞ!」


「「「「「はっ!」」」」」


 ルードは最も信頼している部下を引き連れて、『プレイルーム』の坂道を常歩なみあしで警戒しながら下って行った。


 通路の幅が次第に広くなり、やがて通路の端が見えるところまで下ったその時、甘みのある香りが段々と濃くなっていることに気づいたルードであったが、不思議なことに先程まで荒ぶっていた心が落ち着いていくことに気づいた。

 だがしかし、ルードは心地よい陶酔感と共に馬から崩れ落ちてしまった。


 落馬したルードが最後に目にしたのは、落馬する部下たちの姿と、その部下たちの顔に張り付いている不気味な笑顔だった・・・・・・


◇◇◇


『マイロード。敵が我らが領土に侵入しました。』

『あの男も先頭に確認出来ました。』


 キング『リチャード獅子心王リチャード ザ ライオンハート』とクイーン『ビクトリア帝国の母』が、領土とそれに隣接した森全体に張り巡らされた『ゴブリンラット』の警戒網で捉えた情報を報告する。


「良し。それじゃあ『コア』の映像で見てみようか」


 俺は『コア』を操作して、『欲望の小道』を駆ける騎馬隊の映像を映し出した。


「ねえねえ、先頭を走っているのがヤツなの?」


「ああ、そうだ。俺に敵愾心を向けた傭兵の頭で、ヤブネと裏取引してヤツの復讐を請け負ったチンピラだな。」


「ああそうだね。何か目が血走ってるね

・・・おおコワッ」


「さて、そろそろ『プレイルーム』にご招待するけど、準備は整ったかな?エイル?」


「バッチリよ。『ゴブリンアルケミスト』を総動員して間に合わせたわ。どうなるか、楽しみだわぁ〜」


 エイルが怖いこと言っとる・・・まあ、毎度のことではあるが・・・


「ほんじゃ転移!ドン!」


 ダンジョンが進化して星★シングルスターとなったことで、ダンジョンと領土にいる任意の人物を『コア』ルームで映像を見ながら転移させることができるようになった。


 いちいち俺がついてなくても転移させられるのは正直とっても便利だ!

 これでまた1歩、我が大望 ― 自宅警備員ヒッキーの夢に近づいたぞぉ!


閑話休題そんなこたーどうでもえー


「よしよし、大人しく『プレイルーム』に入ってくれたな。ししし」


「でも何で今回は『ゴブリンソルジャー』配置しないで、しかも坂の上から下に移動させるの?『獣』より弱いんだから、『ソルジャー』の銃撃でイチコロじゃない?」


「分かってないなぁ、ベル吉は。」


「なっ、何がだよう!」


「高いんだよ!弾のDPダンジョンポイントがぁ!」


「ええっ!何それ?貧乏くさっ!」


「うっせー!黙れベル吉!

 大体だなぁ、『M2 重機関銃』の弾なんか、1発50Pもするんだからな!1発で『よわいゴブリン』10匹分なんだぞ!」


「あー、それは高いね。確かに・・・」


 ウチの奴らにものの価値を分からせるには、ゴブリン何匹分換算かで説明するのが1番の早道なんだ。


「それに、今回はエイル姉さんから、無傷で抑えろって言われているからな。」


「そうよぉ。殺さないで確保してねぇ」


「エイルさん、お優しいのですね。」


 違ーう!シフォン、それは全力で違うぞー!


「そうなのよ、シフォンちゃん。私はのぉ」


「エイル、それ怖いから・・・」


「あっ、マスター!男の人たちが、次々に!」


 全長2,500メートルにも及ぶ『プレイルーム』の1番下、傾斜角4度の坂道のに着いた傭兵たちが、次々に落馬していった。皆笑顔を凍らせて・・・


「り、リヒト。これはどういう事?」


「笑気ガス」


「N2O。亜酸化窒素。」


 エイルの黒い笑顔が怖い・・・


「これを吸うと、陶酔して全身が麻痺するガスなんだ。」


「でも、マスター。どうして坂道を降りきってから、麻酔したのですか?」


「亜酸化窒素は空気よりも重いのよ。」


「だから、『プレイルーム』入口の坂の上では普通の空気で、アイツらがだんだん進んで坂の下に来た時、坂の底に溜まっていたガスを吸い込んで、コロり。

 罠にハマったのさ。」


 『プレイルーム』の床に倒れた男たちを、俺は『ゴブリン王国』の奥に作った新しい『ルーム』、『人間牧場』に転移させた。


「さあ、これからは私の出番ねぇ。久しぶりに、いっぱいわよ〜!さあ、あなたたちも付いていらっしゃい!」


 俺はエイルと助手の『アルケミスト』たちを、『人間牧場』に転移させた。


「リヒト、あの人間たちって・・・」


「そのとおり!『DP永久機関』に改造だな。」


「うっわー」


「何だよ!それは。トートの1件は落とし前着いたけど、俺たちに直接危害を加えようとするヤカラはほっとく訳ないだろ!俺たちのために、DPダンジョンポイントをいっぱい作ってもらうぞ!」


「まあ、前の人間たちも、元気にDP生産してくれてるからね。まっ、いっか。」


「たまにアンパーンとミルク食べさせてるんだから、十分幸せだろ?たぶんだけどさ。」


「でも、今回は全員男の人ばかりですから、えっとぉ、そのぉ・・・」


「だなあ!でも、エイルにそんな事気にしないように改造されるんだから、いいんじゃね?」


「まっ、ボクにはそこら辺の気持ちは、永遠に分からないかも・・・」



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