第13話 『欲望』の切り札

――時は少し遡り、『スケルトン』の軍団レギオンが『獣』のダンジョンで進軍を始めた頃、レギオンの後方に出現して『欲望』のダンジョンに突入していくモンスターの大群があった。


◇◇◇


「リヒト!敵が侵入してきたよ!」


「どうやら『プレイルーム』に戸惑ってるみたいだねぇ」


 エイルが言ったとおり、ダンジョン入口に接続された『プレイルーム』は特殊なルームだった。


 入口側の幅は200メートルあるのだが、だんだん幅が狭くなり、2,500メートル先の出口側の幅はたったの3メートルしかない。しかも傾斜角4度の真っ直ぐな上り坂になっている。


 俺は『欲望』のダンジョンの配置をこう変えた・・・


    [入口]

     │

    [プレイR]

     │

[研究室]-[コアR]-[ゴブリン王国]

     │

    [トート商会]

     │

[アゲハ蝶]――[大富豪]

     │

    [迷宮]

     │

    [鉱山]


 俺のダンジョンの客たちは、みんな『アゲハ蝶』と『大富豪』にいて、今はお祭り騒ぎの真っ最中だ!だれも俺たちの『ダンジョンバトル』には気付いていない。


 『獣』の侵入は、この『プレイルーム』でしとめてやる!


『ランボー、メイトリックス 、 カーツ大佐、エリアス軍曹!侵入者を殲滅しろ!1匹たりとも奴らの巣に生きて返すな!』


『『『『・・・』』』』


 俺の命令に無言で肯定の気持ちを伝えてくる4体の『ゴブリンソルジャー』。

 

 『プレイルーム』での迎撃は、このたった4体のネームド『ソルジャー』に委ねられた・・・


◇◇◇


 『獣』のダンジョンの精鋭を率いて『欲望』のダンジョンに突入してきたのは、『獣』のダンジョンマスター、『獅子王の獣人』ゴルド本人だった。


「なんだ?このなんにもない『ルーム』は、ただの通路じゃないか!貧乏臭いダンジョンだな。迎撃の戦士すらいないでわないか!」


 平らな岩が、単調な壁と床を構成している。ダンジョン苔の明かりしか見えないが、目視できないはるか先まで続く坂道だけが気がかりな点であった。


 だが、ゴルドは知っていた。このダンジョンには貧弱なゴブリンしかいないことを。

 森で見かけたゴブリンは、ただ荷物を背負うことしかできない、戦闘力の欠けらも無い哀れで下等なゴブリンしかいなかった。


 たとえそんなゴブリンの上位種がいたとしても、『獣』の精鋭とでは相手にならない。


 ただ、幹部のワーウルフに傷を負わせた者だけが気がかりだったが、おそらく人間のハンターだったのだろう。


ブルグググ・・・

ゴルルルルルル・・・


 幹部である『ミノタウロス』が、ゴルドの両脇に立って興奮の唸りをあげた。


 ゴルドは、引き連れてきた幹部の『ミノタウロス』2体と200体の『ワイルドボア』と150体の『ブラッディバッファロー』を見渡した。


 『ボア』も『バッファロー』も巨大な『ミノタウロス』や『獅子の獣人』であるゴルドに引けを取らないほどの巨体を誇っており、みな興奮で口から泡を垂らしながら、前足の蹄で床を削っている。


 ゴルドは手に持ったミスリル製のバトルアクスを振り上げて、突撃の咆哮をあげた!


ガヴオオオオォォォォ――――ッ!


 ゴルドの合図に、『ワイルドボア』と『ブラッディバッファロー』の大群が、蹄で火花を散らしながら、石畳の坂道をかけ上って行った!


「何の変哲のない、こんな貧乏『ルーム』など、5分で突破して見せるわ!」


 ゴルドは『ミノタウロス』を左右に引き連れて、配下の突撃の後ろを悠々と歩いて行った。


 先頭が通路の約半分、1,200〜1,300メートル程坂道をかけ上った頃・・・


ドガーン!ドドガガードガーン!


 100メートル以下に幅が狭くなった両側の壁の下部が爆発し、数千の小さな鉄球が『獣』の群れの弱い脇腹をえぐった!


『M18 クレイモア地雷』


 『欲望』のダンジョンマスターであるリヒトが『マスター装備』で召喚した武器の一つで、700個の鉄球をC-4爆薬で爆散させる、極めて凶悪な『地雷』だった。


 その『クレイモア地雷』が左右にズラリと並べられた狭い通路で、『獣』の戦士たちは罠にハマったのだ!


 爆煙と血煙に倒れた配下を目にして、ゴルドは絶叫した!


『何なんだぁ!これは――!』


 我を失っているゴルドとは違い、ゴルドの左右にいた『ミノタウロス』たちが同時に叫んだ!


ブウオオオォ―――!

ブウオオオォ―――!


 数少ない無傷だった『獣』も、傷を負った『獣』も、動ける『獣』たちは再び坂道の最上端を目指して突進しはじめた。体を引きずりながら・・・

 

 『あと半分!』等しい想いで『獣』たちが突進する!


 だが、次に『獣』の大群に襲いかかったのは、坂道の最上端に設置された左右のトーチカから発射された超音速の弾丸の雨だった!


ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


 『プレイルーム』出口を挟んで両側に築かれた堅固なトーチカ。

 そのトーチカの中には『ブローニングM2重機関銃』がトライポッドに乗せて設置されていた。


 左右のトーチカの内部では、『ゴブリンソルジャー』のランボーとメイトリックスが『M2重機関銃』のバタフライトリガーを押し込んで、約毎分500発の発射レートで12.7x99mm NATO弾キャリバー50を敵の大群に叩き込んでいる。


ブウオオオォ―――!

ブヴオオオォ―――!


 味方のあまりの損害に激怒した『ミノタウロス』2体が、巨大なバトルアックスを手にものすごい速度で駆け出した!


 2体が『クレイモア地雷』の爆発位置に差し掛かったその時、両側の壁の上部に設置されたトーチカから、激しい弾丸の雨が十字砲火となって降り注いだ!


ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!

ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!


『M134 ミニガン』


 それがリヒトの用意した、この『プレイルーム』最後の切り札だった。


 『ソルジャー』のカーツ大佐とエリアス軍曹に操作された『ミニガン』は、毎分3,000発の発射レートの7.62x51mm NATO弾で、2体の『ミノタウロス』を血煙を上げる肉片に解体し、『M2重機関銃』の攻撃で傷つき倒れ伏しながら、それでもなお前に向かってい続ける『獣』たちを追い討ちし、バラバラの肉片にしていった。


「な、何がおこってるんだ・・・み、認めめん!オレは認めんぞ!『獣』の戦士がこんな理不尽な・・・!」


シュリュュュュュュュ

ギュリュュュュュュュュュュュ

ギュリュュギャン!

・・・ジャッ!


クガァッ!


 ゴルドは、野獣のカンでM2の12.7mm弾をかわし、胸に当たる軌道の弾をミスリル製のバトルアックスで防いだが、その瞬間、もう1発の12.7mm弾が左腕を掠め、その威力でゴルドの左腕を吹き飛ばしてしまった!


 「俺は認めんぞー!戦士たちよ――!うおおおおお!」


 『獅子王』ゴルドは瞬時に心臓を2倍に肥大させ、更に脈拍を5倍に早めて高圧高速の血流を体中に押し出し、3倍以上に高めた身体能力で部下の血が川となって流れる濡れた坂道を、自らの血で真っ赤に染まったたてがみをなびかせながら赤い彗星となって駆け上がって行った!


 直人ただびとでは対処できないスピードとその軌道!


ドドドドドドドドドドドドドド!

ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!


 だが、『M2重機関銃』2門と『M134 ミニガン』2門の十字砲火によって、『獣王』ゴルドの肉体はバラバラに弾け飛んだ・・・


 『獅子王の獣人』の最後の突撃まで計算に入れた『欲望』のマスター リヒトの巧みな配置と、それを完璧に活かした『ゴブリンソルジャー』たちの勝利であった。


◇◇◇


「きゃっほー!やったー!」

「マスター!やりました!『ソルジャー』さんたちがやりました!」

「やれやれねぇ、ほっとしたわぁ」


 『プレイルーム』の結果に、歓声が起きる。


「どうしてこれが予想出来たの?」


 エイルが珍しく俺の真意を聞いてきた。


「ダンジョンの外に出てたモンスターだよ。特に『ワーウルフ』を見た時に確信したのさ。」


 ウチの『ゴブリンアーチャー』が見た記憶の内容は、アイツらがダンジョンに戻った時、『コア』でダウンロード出来るんだ。


「『ワーウルフ』?どうして?」


「あの絶対的な『個』の力。見ただろ?俺達には欲しくても手に入れることのできない力だ。

 だからあえて奴らの力が1番発揮出来るような『プレイルーム』を用意したのさ。」


「それって、どういうことよ!」


「あれ?分からないかなぁ。『野獣』にとって1番わかりやすい力の表し方って何だと思う?」


「・・・」


「簡単さ。カケッコさせるんだよ。よーいドンってね。

 カケッコなら、牙も爪も体術も要らない。己の身体能力だけで、ただただ真っ直ぐに走るだけなんだからさ。」


「アイツら、ホントに死ぬまで真っ直ぐ走ってたね。ボクびっくりしたよ。」

「私、見てるのが辛くなりました・・・でも、敵なのですよね。」


「そうだよ。俺たちの敵だ。倒さなければ倒される。一緒に並び立つことのできない敵なんだ・・・」


「あら、自分にでも言い聞かせているの?」


 エイルの言葉に、最後に突撃してきたライオン頭の獣人を思い浮かべた・・・


「そうだな。そうかもしれないな。だが、俺はみんなを守らなきゃ行けないんだ。弱ければ、誰も守ることはできないんだから!負けたら終わりなんだ・・・」


「何、しんみりしてるのよ!リヒト!あなたアンタの知略だけでここを守り切ったのよ!胸を張りなさい!胸を張って、みんなの勝利を待ちましょ!」


 小さなトートが俺の背中をバンバン叩いてハッパをかける!


「そうだな!信じて待とう!」

「うん!」

「はい、マスター!」

「信じてまちましょ」


 『ダンジョンバトル』は最終局面を迎えた。しかし、リヒトたちは誰1人として自分の勝利を疑っていなかった。



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