第10話 発展と忍び寄る影

「ユキちゃーん!ポッチー食べさせて〜!」

「バッキャロー!ユキちゃんのポッチーは俺のもんだ!」

「私のポッチー食べるの誰〜れだ♡」


「サチちゃん!!ふ、フルーツ食べさせてっ!」

「はーい!フルーツオーダー入りました〜!♡」

「こ、こいつう!サチちゅわん!俺もフルーツプリーズぅ!」

「きゃはっ♡やった〜」


「きゃーっ!ダルくんのエッチ〜♡」

「キャフォー!ツルちゃんの乙杯最高ー!」

「もう、お触りはダメだぞぉ〜!ぷんぷん♡」


「さあ、わたくしの靴を舐めたいのは、どの豚かしら?」

「た、タエ様!どうか、ぼ、ボクを、ボクを踏んでクレメンス!」

「いいや!この豚だおー!」


 トート革命歴6日。

 トート神の神託に阿鼻叫喚あびきょうかんとなった迷える子豚たちは、一時天国アゲハ蝶から足を遠ざけたが、今では連日『迷宮』と『鉱山』に潜ってはせっせと『宝物』や『鉱石』等のダンジョン資源を持ち帰って来て、『トート商会』で換金して『アゲハ蝶』の女神たちコンパニオンシスターズへ貢ぐようになった。


「はい、マスター。お代わりどうぞ〜」


「ありがとう。メイドちゃん。」


 トート師匠の予言どおり、コンパニオンシスターズに貢ぐ喜びを知ってしまったコブタたちは、溢れかえるDPダンジョンポイントと顧客満足度ボーナスに加え金貨銀貨を『欲望』のダンジョンにもたらしてくれた。


 故に、ブラックな職場を嫌う俺は、繰り返そう!ブラックな職場を嫌う俺はだな、コンパニオンシスターズを増員して、2シフト勤務に改善してあげたのだよ。


 新しいコンパニオンシスターズの名は、ツル、サチ、ユキ、タエの4姉妹。


 更に、コンパニオンシスターズのアシスタントとして、新たにメイドちゃんを10名(?)用意した。


 ステータスはこうだ。ドン!


=================

種族名: ゴブリン メイド

性 別: ♀

Lv.: 10

スキル: 家事全般、礼儀作法、

    暗殺

=================

(*イメージ映像)


 ネームレスでレベルも低いが、ちゃんと物騒なスキルぶっ込んでくる所は、ある意味安定のエイル姉さんクオリティ・・・


 今では『アゲハ蝶』のカウンターで飲んでても、ちゃんとお代りを作ってくれるようになったんだ!


 『黒服』?奴らは結局グラス磨きしかできなかった、というか覚える気がなかったので、相変わらずカウンターの置物となっている。


 でも、大事なコンパニオンシスターズやメイドちゃんずの護衛なので、増員したよ。


 はじめにいたダグラスとブライアン に加えて、ヘンリーとジョニーが仲間に加わった。

 まあ、こいつらが役に立つ事態が起こらんに越したことはないないがな。


「あー!いたいた!やっぱ、ここで油を売っていたのぉ!リヒト!」


「グハハハ!ざまぁ!リヒトぉ!お前も働いてこい!」

「ブハハ!そうだそうだ!働いて来やがれ!」


 カウンターの酔っ払い共がアオってきやがる!こんちくしょうめ!


「トートちゃんが呼んでるから、早く行くよ!ほらっ」


 ベルが俺の耳を引っ張る。


「何だと!トートちゃんが呼んでるだと!」

「コラー!リヒト!お嬢が呼んでるなら、飛んでけー!」

「ベルちゃんみたいにな!ブハハ!」

「ワハハ!」


 ・・・俺は隣の席で酔いつぶれて寝てる男の足をけとばして、席を後にした。

 俺が席を立つと、空いた俺の席とカウンター席から転げ落ちた男の席には、早くも他の客が座って、メイドちゃんと楽しげに話し始めてるよ・・・



 それで俺が連れてこられたのは、『アゲハ蝶』につづく、2つ目の集客の目玉として準備しているダンジョンルーム『カジノ大富豪』だ。


「遅いよ!リヒト。開店明後日に控えてるんだからさあ、サボらないでよっ!てか、現場から逃げるな!」


 図面(俺氏作)を手に持って、街から来た大工の親方と話してたトートが、目にクマを作りながら怒ってる。


「あい、師匠。てもさあ、師匠も少し休まないと体に悪いよ。子供なんだから、無理すんじゃないよ・・・」


「私はもう14だって、何回言わせんのよ!この辺じゃ、14・15は立派な成人なの!それに、ここで客を引き寄せる目玉を用意する必要があるって何度も言ってるじゃない!ここでもっともっと客を呼び寄せるための勢いを逃しちゃいけないのよ!今がその時なの、分かる?」


「イエス・マム」


「それじゃ、内装が仕上がっている入口の辺りから、スロットマシンを配置していって。ここからここまで。いい?」


 図面をトントン叩きならが、トートが説明する。俺は一旦コアルームへスロットマシンの用意をするために戻った。


 すると、そこではシフォンが俺を待っていた。


「マスター。ちょうどいい所へ。今20台のスロットマシンのコピーが終わりました。『電源』が取れないので、DPダンジョンポイントからエネルギーを変換できるよえに改造しました!」


「天才か!素晴らしい!凄いよ、シフォン!」


 さすが『神』の名を冠するスキル、『機械神の英智』を持つだけのことはある。

 『マスター装備』で召喚した遊戯台である『スロットマシン』を、分解してダンジョンで使えるよにしたのはウチの天才鍛冶師シフォンだった。


 彼女は『迷宮』の『宝箱』に入れる『名工の剣』や『極上の短剣』など、エイルの『薬品』と並んで、客を引きつける魅了的な賞品商品を作り続けてくれている。


「ありがとう、シフォン。いつも感謝してるよ。」


 俺に何の見返りも求めない奴隷の少女は、ただ俺に頭を撫でられるのが嬉しいというんだ。


 だから俺は感謝を込めてシフォンの頭をなでてあげる。すると、可愛らしい笑顔を浮かべて目を細めるシフォン。

 なでなでなでなで・・・


「あら、戻ってたの。」


 珍しく、『研究室』から出てきたエイルが、出来たての色々な薬 ― 俺もどんな薬かは最早確認してない ― を『コア』に補充している。


「ちなみに聞くけど、今回はどんな薬?」


 『コア』に薬の瓶を突っ込む手を止めずにエイルは答えた。


「死にかけの爺さんでも、飲んだら婆さん押し倒して腰を振り出す『強壮薬』。最低でも休み無しで、24時間は戦えるわ!」


 ほらな、聞いたの後悔しただろ?


「ところで、頼まれてたゴブリン。改造終わったわよ。持っていく?」


「おお、出来たか。じゃあ早速トートの所に連れてく。ありがとな、エイル」


「そ、そんなの、大したことじゃないわ・・・あ、アンタの為にやったんじゃないから!勘違いしないでよね!」


 はい、エイルがツンデレました。



「トート!荷物を運搬するゴブリン、連れてきたぞー!」


「ちょっと待ってー。今行くから。」


 『スロットマシン』を『カジノ』に配置し終えた俺は、トートの居場所を確認して入口ホールの『トート商会』に転移で跳んだ。


 『トート商会』の取引所窓口には、ダンジョン資源の相場が書かれた大きな看板があって、ダンジョンに潜る男たちの目安にもなっている。


「おーい、リヒト!またサボってんのか?」

「またベルちゃんにどやされるぞ!」


 取引所に並ぶ列に『暁の剣』の3人組が並んでた。


「うるせ!仕事だよ仕事!見て分かんないのか?」


「分かんねえなあ!リヒトのドヤされてる姿しか見たことないからなあ!」


「言ってろ!そんなことより、お前らもう上がりか?」


 何の気なしにリーダーのティムガッド

に聞いてみた。


「いんや、これ換金したら、背徳の街ジュミラに行ってくる。」

「『トート商会』の物資運搬の護衛を請け負ったんだ。」

「久しぶりに、ジュミラに行って、メグちゃんに何か見合うプレゼントを探して来るんだ。」


 そう長髪のドゥラスが、フラグっぽいことを言う。


「まあ、メグは人気あるからな。推し活頑張ってくれ。あれ?でも物資運搬にお前らみたいな中堅が付くのか?」


「何だ、知らなかったのか?最近ここいらにブルーウルフやブラックウルフが現れ始めたのを。」


 髭面のビスクラが、ダンジョン資源がいっぱいに詰まった袋を担ぎ直しながら口にした。


「ブルーウルフやブラックウルフ?」


「ああ、タチの悪いモンスターで、必ず群れで襲ってくるんだ。ルーキーたちじゃ相手にならんな。」


「悪いことにワーウルフを見かけたって奴もいるくらだ。」


 ティムガッドが物騒な顔をしかめながら言った。結構ヤバそうだ。


「そうか、情報ありがとさん。俺もちょっと調べてみるよ。

 そんじゃあ、お返しに1つ。メグは黒の下着が好きなんだ。いいか赤じゃないぞ。」


「リヒト、てめー何で知ってんだよ!」


「ブワハハ!ドゥラスお前さ、この前赤の下着プレゼントしてたろ?」

「フハハハ!残念、好感度下がってしまったな!」

「くそ、まだ慌てる時間じゃあねえ!これからだ、見てろよ!」


 相変わらずおバカな3人組と話してるのは楽しいな。


 だが、モンスターの出現に関しては気になるな・・・


 俺は一旦『トート商会』を離れて、人の少ない通路まで戻って、テレパシーを送った。


『アーチャー、聞こえるか?俺だ。

 『欲望の小道』の哨戒から外れて、最近森に現れだしたウルフのモンスターの警戒を頼む。狼系のモンスターなら、縄張りがあるはずだ。どの辺りに縄張りがあるのかが知りたい。

 いいか、決して殺すな!そして相手に俺たちの存在を知られるな!行け!』


『『・・・』』


 嫌な予感がする・・・



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