第5話 欲望のダンジョン歴 4日目

「あ、あのう・・・ここはどこですか?」


 そう言って目を覚ました奴隷の少女は、『コア』と俺たちを交互に見ながら聞いてきた。


「あっ、あのう。私夢で見ました。夢で私を運んで助けてくれた・・・あなたは神様ですが?」


 だいぶ命の力を取り戻した少女のサファイアの瞳には、真摯しんしなな祈りの色が感じられた。


「えっと、これ何て答えればいいんだ?」


「えっー!ボクも答えなんか持ってないよー!」


 こんな時こそチュートリアル ピクシーの出番では!


「ここはダンジョン。私たちはダンジョンで人間に危害を加える魔物化け物よ。」


「えーっ、何それ!それじゃあ、身も蓋もないないではありませんか!エイルさんや。」


「1ミリの嘘もないわ。事実よ。」


「うっわーっ!言い切っちゃったよ、この悪の博士改造魔が!」


「ボクの口からは何とも・・・。レベルが高すぎる問題だもん。」


 日よったよ、このチュートリアル!


「あ、あのう、神様。どうか私をおそばに置いてください。なんでもしますから、どうか、どうか・・・」


 エンシェント ドワーフの少女は、ヨロヨロと体を起こそうとしたが、失った手のせいでバランスを崩し倒れてしまった。


「気を失ったわ。」


「そうか、苦しくならないように、静かに寝かせてあげてくれ。」


「そうね。そうしましょう。」


 そう言ってエイルは、どこかから取り出した注射器を少女の点滴に刺した。


 すると少女は安らかな寝息をたて始めた。



「これは天国の食べ物ですか?神様。とても美味しいです!」


 死にかけた少女に笑顔を取り戻せるなんて、スゴいなアンパーン!


「そうか。それは良かったな。ゆっくりとお食べ。」


「はい!」


 翌日の昼頃、再び目覚めたエンシェントドワーフの少女と一緒にアンパーンを食べている。

 俺たちも、少女を囲むように座った。


 ついでにイブを呼んで、アダムと人間たちにも持ってってもらった。

 すっかりお腹が大きくなったのには驚いたよ。

 エイルの見立てでは、明日出産だそうだ。



閑話休題それはさておき


「さて、諸君大事な話がある。」


 俺以外はまだ、アンパーンを食べてるが、そんなこたぁーどうでも良い。


「なになに?」


「えーっ!食べたら私、『研究室』に引きこもりたいんだけどぉ!」


「だからだよ!それにお前さぁ、一体そんなに『研究室』にこもって何してんだよ!見えないんだから、成果を報告しろ!」


 何か聞き覚えのあるようなフレーズだな・・・。


「嫌よ!マスターでも、『研究室』に入ったらコロス!『コア』で覗いてもコロス!」


「まあまあ、『ダンジョン』に関わる問題も今は無いし、お互い仲良くやろうよ。ねっ」


「それだよ!ベルくん。俺はこれからのダンジョンに関わることを話したいんだ。」


 エンシェント ドワーフのほっぺたに、アンパーンのクズがくっ付いてたので、取ってあげる。

 それをパクリとしたら、彼女が嬉しそうに微笑んだ。可愛らしくて透き通った笑顔だ。


「はぁ、仕方ないわね。それで、どんなこと話したいのよ。」


「まずは諸君の協力のおかげで、我々のベーシックインカムは安定しだした。

 今もアンパーンを食べながらも頑張ってるな。」


 ドワーフの少女が起きてる間は、アイツらの様子は大っぴらには映し出せないからな。密かに様子を見てる。


「そこで、次に我々が目指すべきは・・・」


「べきは?」


「『成長進化』の成長だ!」


「覚えててくれて、ボクは嬉しいよ。」


「ふはははは!当然だよベルくん。当然だ!」


「はいはい。早く続けなさいよ。」


「そこでベルに質問なんだが、一般的にダンジョンってどうやって成長する?」


 ベルは今日もアンパーン ソファーに腰を下ろして考える。


「成長、つまりDPダンジョン ポイントを効率的に稼ぐことだけど、一般的には2つの方法があるね。

 一つは沢山人間をダンジョンに呼び寄せて、それをモンスターやトラップで殺してDPダンジョン ポイントを貯める方法。これは初級のダンジョン向けかな。

 そしてもう一つは、できる限り広くて深いダンジョンを作って、その奥深くまで人間をおびき寄せる。するとダンジョンに入ってから外に戻るまで何日もかかるから、DPダンジョン ポイントが貯まる。これは上級向けだよ。

 リヒトもこれらを基本に考えないと・・・ね。」


「だよな。それがダンジョン界の一般常識だよなぁ・・・。だが、断る!」


「ええーっ!とうしてなのさぁ?」


「よくぞ聞いてくれたな、ベル!

 理由は2つのある。

一つ、他のダンジョンと同じことしてたら、他のダンジョンと同じくらいしか稼げない。同じくらいしか稼げないと、同じくらいの戦力しか持てない。」


「戦力を同じくらいしか持てないと・・・」


「1年後までに、3つのダンジョンを攻略するのは無理!」


「2つ目の理由を聞きましょうか?」


「なあ、俺たちのダンジョンは『欲望』のダンジョンだ。人間を『欲望』のとりこにしない限り、1年後には勝ち残れない!」


「逆に人間を『欲望』の虜にしたら?」


「人間牧場で発見しただろ!『欲望』のとりこにした人間は、5倍のポイントを稼ぐ!

 つまり、俺たちはよりこのダンジョンの本質に根ざすやり方てアプローチすべきなんだ!」


「確かにマスターに一理あるわねぇ。」


「そう言われると、そうなのかなあ・・・」


「そこで俺たち『欲望のダンジョン』は、『人間の利益』を追求する!」


「えーっ?それどうゆうこと?んん?」


「それはな、人間の『欲望』を刺激するアイテムやサービスを提供するんだよ。エンシェント ドワーフの傷を治したような『上級治療薬』なんかいい例だ。」


 エンシェント ドワーフの損傷した腕を見る。欠損した部分が徐々に再生して、今はもう手首位まで再生してる。明日には完治するだろう。


「それから、ドワーフの病気を治療した薬なんて『万能薬』として人間が行列を作って取りに来るぞ!」


「それだったら、『絶倫薬』とか『百発百中薬(子孫繁栄的な意味で)』なんか良さそうじゃないかな?」


「いいぞ!ベル。その調子だ!」


「『麻薬』に『毒薬』も人間の歴史からは切っても切れない薬ねぇ。」


「物騒な薬だが、上手くこっそり供給できたらいいんじゃないか。」


「でも、なんか私だけが忙しくなりそうね。私の研究時間減らされるの嫌なんだけど!」


「エイルには好きなだけ助手を付けてやる。そいつら好きなだけ改造してもいいぞ!」


「分かったわ!それで行きましょ♡」


 こえーなこの女。まったく!


「ところで、リヒト。サービスってなに?ダンジョンでサービスって思いつかないんだけど・・・」


「ふふふ!これ思いついた時は、『俺って天才じゃね?』って思ったよ!ふはははは」


「いいから早く言いなさいよっ!」


「あのなぁ、ダンジョンに来るのはほとんどが男だ。そうだろ?」


 エイルとベルが黙って頷く。


「そんな野郎どもがモンスターと戦いながら、ずっと緊張し続けて何日もダンジョンに潜るんだぜ!

 そこにたとえモンスターであっても、見た目が綺麗で魅力的な『女』が酌して酒が飲めたらどうだ?更にもっと刺激的なサービスがあったとしたら?どうだ?」


「・・・きっと居座るだろうね・・・」


 死んだ目で言うな、ベル吉!


「それには根本的な問題があるわ!一体どこの世界にモンスターに、例えばゴブリンに欲情する人間の男がいるの?そんなのマスター級のド変態だけだわ!」


「いや、俺変態じゃねーし!でもよエイル。アダムとイブを見てみろよ。改造前と比べたら、全然人間らしく見えるし、もっと改造したらもっと人間に近づくんじゃないのか?何ならそこら辺のタガが外れる薬を盛っちゃえばいいのさ!」


「・・・」


「ねえねえ、リヒト。それだと人間の半分しか来ないから、あと半分の『女』を狙うのはどうかな?例えばさぁ、ボクたちのダンジョンに来ればキレイになれるなんてのはどうかな?」


「いいよ、いいよ!ベルちゃん!来てるよー!女の美に関する『欲望』なんて最高の餌じゃないか!お前も天才かよ!」


「へへー!どんなもんだい!」


 俺たちが浮かれ騒いでいるのを目をパチクリさせながら見ていたエンシェント ドワーフの少女は、思い詰めた表情で声を上げた。


「あ、あの!私武器や道具が作れます!街で暮らしてた頃は、お父様のお手伝いをして、とても上手だと褒められました。だから私にも手伝わせてください!どうか仕事をさせてください・・・」


「ここがダンジョンだと分かっても、それでもここにいたいのかい?」


 優しく少女に問いかけた。


 すると少女はコクリと頷いて


「もう、外の悪意に満ちた世界は嫌なの。お役に経ちますから、ここにいさせてください・・・うううっ」


「分かった。君を追い出したりしないから、いつまでもここにいていいよ。」


「うわあああん、わあああん」


 少女の片手では拭いきれないほど、沢山の涙が少女の愛らしい頬を流れ落ちた・・・



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