第2話 欲望のダンジョン歴 1日目

「何ですか!これは。天界の食べ物ですか!」


「悪くないわねぇ。程よい甘さがクセになりそう。パンも白くて柔らかいし。気に入ったわ。」


「でも、このアンパーンって、高いのか安いのか良く分からないなあ。ひと袋5個入りで50Pってどうなの?」


 チュートリアル ピクシーだったベルの勧めで、実際にDPダンジョン ポイントを使って何か購入してみることにした。


 それで食べ物のページで1番安かったのがこのアンパーンです・・・ひと袋50Pなり。


「ボクとしては1個10Pでこの大きさと味!とても満足さあ!」


 ピクシーのベルにとっては身体がまるまる隠れるほど大きいのだから、そりゃあ満足でしょう。


 俺としてもベルとエイルが美味しそうに食べてるので嬉しい。


「DP《ダンジョン ポイント》で買える食べ物が美味しいことが分かったけど、さてさて、これからどうしようか?」


 現在のDP残高はこうなってる。


1000P 資本金

-300P  ベルの永久雇用費

-50P  アンパーン(5個入り)

――――――――――――――

650P  残金


「なら、私は自分の研究室が欲しいわ。」


「研究室って何研究するの?」


「い・ろ・い・ろ・よ」


 アンパーンを食べた指を舐めながら話す仕草が、なんか男心をくすぐる・・・


「ダンジョンの『ルーム』はどれも高いからなあ・・・」


「ちっ、甲斐性なし!」


 グサッ!エイルの言葉が俺の心をえぐる・・・が、何故か悪くない気分がする不思議・・・


「今はダンジョンの入口ホールとダンジョン コアルームが通気口で繋がった唯の自然洞窟たから、まずはこれをなんとかしたいね。」


「入口ホールに入った人間が、このコアルームに気づいたらまずいか。」


「ボクは戦えないし・・・」


「俺も戦える自信がないな。」


「私も基本頭脳労働よ。」


「防衛力0か。となると、何かモンスターを購入するべきか・・・」


「あら、それがいいわ。そしたら私がモンスターを・あ・げ・る」


 エイルの瞳に狂気の影が見えた気がした。が・・・気を取り直して、『ダンジョンの書』のモンスターのページを開くと・・・


「なあ、ベル。ここにはゴブリンしか載ってないんだけど・・・」


 ベルは食べきれなかったアンパーンの上に座って答えた。なんかソファーのようだ。


「それは仕方ないね。だってこのダンジョンはまだ生まれたてばかりだし、人間が入った実績もないからね。初期登録のモンスターで備えるしかないよ。」


 それにしても、これってどうなのよ?


5P よわいゴブリン(装備:石)

10P ふつうのゴブリン(装備:錆びたナイフ)

15P つよいゴブリン(装備:棍棒)


「とりあえず、全部出してちょうだい。」


 エイルが食い気味にせかした。


 俺は『ダンジョンの書』から、初めてのモンスターを召喚した。


◇◇◇


 大陸の西の端にある『背徳の街ジュミラ』。その街に続く大森林を横切るジュミラ街道の支道に、その者たちは隠れていた。


 それらは背徳の街ジュミラを根城にするちっぽけな傭兵たちで、その名を『鷹の爪』と自分たちで呼んでいた。


「ガエーダ。本当にこの道で間違いないんだな?」


 細い支道から見えないよう森の中に隠れた傭兵たちの内の1人である卑しい顔の男が、顔に傷のある大柄な男に聞いた。


「間違いないよ!『盗賊騎士団』の幹部からの依頼なのだからさぁ。アタイも一緒に聞いたって言ってるでしょ!」


「だけどよ、イベーレ。いくら街の下っ端奴隷商人だらって、襲ってしまったら街の商人組合からにらまれやしないか?

 ましてや、護衛の傭兵も都合よく裏切って、俺らの味方につくなんて虫のいい話信じていいのか?」


「何度も同じこと聞くんじゃあねえ!気に入らねえんだったら、お前はいなくたって構わねえんだ!ミヌム。なんだったら、この世からいなくなっても構わねぇんだぞ!」


 ガエーダはさっきから文句ばかり言うミヌムに心底腹が立って、腰の剣に手をかけながら怒鳴り返した。仲間でも手にかけそうな勢いだった。


「しっ!頭、どうやら来ましたぜ!」


 見張りをしていたバンダナを頭に巻いた仲間が知らせてきた。

 すると間もなく森の木立の間に、2頭立ての荷馬車がゴトゴト音を立てて来るのが見えた。


「この距離でもすえた臭いがしてくるぜ。間違いない、奴隷馬車だ!」


 もう1人見張りをしていた顎髭あごひげの男が報告した。


「いいか、打ち合わせどおりに護衛は殺さず商人だけを狙え!行くぞ!」


 そう言ってガエーダは剣を抜いて飛び出すと、すぐその後を4人の仲間が続いて行った。


◇◇◇


「♪〜ふん〜ふふん〜ふふ〜♪」


 エイルが鼻歌を歌いながら、楽しそうにやっているのは・・・【生体改造】だった。


 【生体改造】はエイルの【ユニークスキル】で、を好きに改造できる【スキル】なんだそうだ。


 エイルは購入した三体のゴブリンをいきなり『コア』に押し込んむと、自分の両手も『コア』に突っ込んでゴブリンの【生体改造】をやり始めた。


「ベルさんや。普通こんなことってあるもんなのかい?」

 

「ボクはチュートリアル関係の知識しかないから・・・これはちょっと上級すぎるよ、ボクには・・・」


「なによ。だから『研究室』が欲しいって言ったじゃない。『コア』の外でやったら、きっと見たのを後悔するわよ。」


 エイルなりに気を使ってくれたらしい・・・恐らくは・・・


「さすが『コア』ね。『コア』由来のモンスターだから、中での改造が捗るわぁー!ハアハア・・・」


 エイルがとっても嬉しそうなのはいいのだが、だんだん頬が上気して息も荒くなっている件・・・


「できた!さあ、自分で出てきなさい!」


 そう言ってエイルは『コア』から両手を抜き出して、場所を譲った。


『ゴ、ゴブ、ゴブ』


 ゴブ語?を話しながら、一体のゴブリンが『コア』から現れてきた。


「改造前までは、俺の腰位の背丈だったゴブリンが、改造後には俺と同じくらいの背丈になっとるとは?あと2匹はどこ行ったの?」


「それにリヒトよりずっと筋肉質なんだね?強そうだね、この子。」


「そうよ。三体分のゴブリンを使って改造したわ。何をどう改造したかは聞かない方が良いわよ。

 それよりも、改造の結果を鑑定してみてよ。」


「あいよ」


 言われた通りに、『コア』に触れてモンスター情報を呼び出した。


=================

種族名: ゴブリン エリート

個体名: ???

性 別: ♂

Lv.: 30

スキル: 絶倫

=================


「・・・・・・」


「れ、レベルが『つよいゴブリン』の3倍はあるからさ。これはこれでアリなのかな?そうなのかなあ?」


「何言ってるの。少ないDPダンジョン ポイントで手駒を得るには、自然繁殖させるのが1番手間がかからないわ。モンスターなんて。

 それに遺伝的親として、そこそこの強さとレベルを持たせたから、DPのゴブリンより強い子が生まれるはずよ。

 加えて一応『ネームド』だから、マスターが命名すれば、更に強化されるはずよ。」


 俺たちが話してる間に、『コア』の脇で大人しく体育座りしてたエリートを見る。なんかホゲーっとした顔してるが、大物なのかバカなのか判断に悩む。


「じゃあ、エリートの名前は『アダム』で。」


 名前を付けたら一瞬エリートが輝いて、鑑定表示が更新された。


=================

種族名: ゴブリン エリート

個体名: アダム

性 別: ♂

Lv.: 40

スキル: 絶倫 統率

=================


「あっ、強くなった」


「でしょ?さっ、次はメスを作るから、出してちょうだい。」


 エイルに呼ばわりされるゴブたちが、なんか可哀想に思えてきたよ・・・



******************


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