第39話 トークは続くよいつまでも

「それでそれで、竜馬はどこが好きなんだ?」

「そうだよそうだよ~。そこが好きなの?」


 普段はいじられる側の春也と秋葉が、一転攻勢でまずは竜馬に迫る。

 慣れない状況に、竜馬はウザったそうに頭をかいた。


「お前ら……日ごろの復讐に来てるな?」

「そう思うなら反省することだな。それに話題を逸らして逃げようってのは許さないぞ」

「ったく……。そうだな、蘭の好きなところ……」


 竜馬はちらりと隣の蘭に視線を送る。

 彼女は意外と期待した目で、ほんのり頬を赤らめながら彼氏の言葉を待っていた。

 春也たちとは違って、2人はそこまで日常から好き好き言い合いうタイプのカップルではない。

 あくまでも仲の良い友達の延長線から、交際に発展したというイメージだ。

 そしてそして、日ごろの行動はともかく中身は意外と乙女な木島蘭さん18歳。

 彼氏がちゃんと自分の好きなところを、それも3つ言ってくれるとなれば、柄にもなくワクワクしているのである。


“蘭ちゃん……かわいい。”


 そんな蘭の様子を見て、秋葉が心の中で呟いた。

 とうの竜馬はといえば、少し考えた後、おもむろに口を開く。


「まず1つ目は……2人とも被るけど、一緒にいて楽しいところ。気楽なところだな」

「それでそれで?」

「2つ目はいろいろ気が使えて場を盛り上げてくれたりするところ」

「ふむふむ」

「んー、何かやりづれえ……」


 春也と秋葉がおどけた調子で相槌を打つものだから、竜馬も思わず顔の赤みが増す。

 しかしそれ以上に、言われている蘭は嬉しそうな何とも言えない笑みを浮かべていた。


「最後は……まあ、春也たちは知らないと思うけど。蘭が部活で泳いでる姿って、めちゃくちゃきれいなんだよ。それにやる時はめちゃくちゃ真剣だし。そこも結構好きだな」

「あ、それは分かる! 私も部活やってる時の竜馬のことめっちゃ好き」


 2人にしか分からないポイントを褒め合いだした目の前のカップルに、春也と秋葉は思わず顔を見合わせる。

 春也と秋葉に2人だけの世界があるように、竜馬たちは竜馬たちで、カップルとして2人だけが共有する大事なところを持っているのだ。


「じゃあ次は蘭ちゃんだね」

「えっと……1個目は、さっきも言ったけど部活やってる時の竜馬が好きってやつで……。2個目は、ノリが良くてこっちが言いたいことを何だかんだ分かってくれるところ。3個目は……シンプルに顔がタイプ?」

「え、そうなの? 俺、初耳なんだけど」

「私、めちゃくちゃ竜馬の顔好きだよ?」

「いや、俺も蘭の顔好きだが?」


 いつもの漫才とは異なり、褒め合いいちゃつきだした2人を見て、春也と秋葉は大いに砂糖を摂取する。

 さっきのチュロスの数倍甘い……といいたいところだが、まあさすがに2人だけの間接キスには勝らなかった。

 でも竜馬と蘭も、なかなか甘々なカップルに間違いはない。

 そもそも、付き合って1ヶ月も経っていないこの段階でギスギスされては、先行きが不安になるというものだが。


「いいね、蘭ちゃん」

「いいな、竜馬」

「もう! 春也っちも秋葉っちも茶化さないでよ!」


 蘭は恥ずかしそうに笑うと、秋葉からスマホを受け取り春也に渡した。

 今度のトークテーマが、春也の手に委ねられたわけだ。


「じゃあ行くよ」


 ――ドゥルルルルルルル……バンッ!


「えーっと……『結婚式は和風? 洋風?』だって。ずいぶんと突っ込んだテーマだな」

「今度は蘭ちゃんたちから答えてもらおうよ。せーので」


 秋葉に振られて、竜馬と蘭はしばし考えこむ。

 それからお互いに心が決まったのを確認し、声をそろえた。


「「せーの、和風」」


 2人の声がぴったりと重なる。

 和風を選ぶ方が少なそうな気もしたが、意外とそろったことに4人みんなが驚いた。


「意外と和風の衣装、蘭に似合うと思うんだよな」

「うん。私も竜馬はタキシード? みたいなやつより和の方が良いと思う」

「じゃあ、2人の結婚式は和風だな」


 春也に言われて、竜馬たちは顔を見合わせた。


“結婚……俺と蘭が?”

“結婚……私と竜馬が?”


 数秒後、2人は盛大に吹き出す。


「いやー、まださすがにイメージつかないわ」

「うん。私たちにはまだ早いかも」

「でもほら、こっちの2人はもう婚約済みだから」

「あ、そっか。春也っちと秋葉っちは……」


 2人の視線が、春也たちの右手人差し指に向けられる。

 そこにはいつものように、ペアリングがきらりと輝いていた。


「婚約じゃないっての」

「そうだよ。ペアリングだよ」

「まあまあ。それで2人はどっちなの」

「「うーん」」


 少し考えてから、やはり春也と秋葉も声をそろえる。


「「せーの、洋風」」


 こちらも意見が一致した。

 どちらのカップルも、何だかんだで気の合うもの同士である。


「秋葉は何を着ても似合うけどね。それでもやっぱりウェディングドレスは見てみたいかも」

「私もウェディングドレス着るのはちょっと夢だったりするんだ~」

「いいねぇ」

「俺らが友人代表でスピーチしてやるよ」


 未来の話で盛り上がる4人。

 ふと、秋葉が自分の右手に視線を落とした。


“結婚かぁ……。”


 この人差し指のリングは、きっとこの先も外すことはないだろう。

 そしていつか、薬指にも指輪をはめる日が来るかもしれない。


“これからいろいろあるだろうけど、最後はそうなったらいいな。”


 遠い将来に思いを馳せる秋葉。

 しかしもっと身近な将来の話、苦手なジェットコースターがもう少しのところまで迫っているのであった。

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