第21話 光、分からせられる。
「お兄ちゃんは、キノコカートやったことあるの?」
キャラ選択をしながら、光が春也に尋ねる。
春也もまたキャラを選びながら答えた。
「あるよ。俺は持ってなかったけど、友達の家でやったことは何度かある」
「じゃあ経験者だ。秋葉ちゃんは?」
「私もやらせてもらったことはあるかな~。でもだいぶ小さい頃の話だから、もうあんまりどんな感じだったか覚えてないかも」
「でも一応は経験者なんだね。そうすると、初めてやるのは私だけかぁ」
「ボコボコにされて泣くなよ?」
「ボコボコにされないし! 泣かないし! “びぎなーずらっく”ってやつ、見せてやるし!」
意気込む光はかわいいお姫様のキャラに、マシンもかわいらしいピンク色のものを選択する。
コントローラーから何からピンクだらけだ。
そして春也はキノコカートの名のままにキノコの見た目をした軽量級のキャラを、秋葉は光とはまた違うお姫様キャラを、それぞれ選ぶ。
「負けないぞ~」
光が気合を入れてコントローラーをぐっと握ると、レース画面に切り替わり出走までのカウントダウンが始まった。
“ふっふっふ~。いきなりびゅーんって飛ばしてお兄ちゃんたちを置き去りにしてあげる!”
戦術『大逃げ』を選択した光は、カウントダウンが始まるなり即コントローラーのボタンを強く押した。
“えーっと……確か2の時に押し始めるとロケットスタートみたいなのがあった気が……。”
“あんまりどんな感じか覚えてないけど、ロケットスタートっていうのがあったのは覚えてる! 2の時に押すんだったよね?”
一方の経験者2人は、きちんとロケットスタートのやり方を覚えていた。
画面の数字が「GO!!」に切り替わった瞬間、春也と秋葉のキャラは勢いよく飛び出して行く。
対して光の車は、派手に煙を吹いてその場にとどまった。
まるでどこぞの芦毛の不沈艦のごとく、スタートで盛大につまずいたのである。
「えー! 何でなんで!」
「もしかして、ずっとボタン押しっぱなしだったんじゃないか? タイミングよくやらないと、そうなるんだよ」
「先に言ってよー!」
焦る光をよそに、お姫様を乗せたピンクの車体はのろのろ加速してようやくスタートラインを超える。
初心者の光のために、他のCPUは弱いに設定してあるし、排気量も低くして操作しやすくなっているので、出遅れたもののじわじわ順位を上げていくことができた。
コースも一番簡単なサーキットだから、コース外に落ちる心配もない。
しかしCPUではない春也と秋葉は、熾烈な1、2位争いを繰り広げながらコースを突っ走っていく。
小学生相手に容赦のない大学生2人である。
「行くよ春也! 赤甲羅!」
「バナナでガード~。からのバナナ投下!」
「へっ!? ああっ!」
春也の落としたバナナをもろに踏んで、秋葉の操作する車体がくるくるとスピンする。
そのすきに差を広げようとする春也だったが、もちろん秋葉も黙ってはいなかった。
「ふふっ。赤甲羅、もう1個あるもんね~」
「は!?」
「行け~!」
「だあっ!」
秋葉が投げた赤甲羅が直撃して、今度は春也の車体がスピンする。
バナナで開いた差は、一瞬で埋まってしまった。
2人は並んで最終ラップへと突入する。
“むむぅ……。お兄ちゃんたちだけイチャイチャ盛り上がってる……。”
先頭から引き離された4番手まで来ていた光は、キラキラ光るアイテムボックスに触れる。
そして手に入れたのは、トゲの生えた青い甲羅だった。
「行け! 青甲羅~!」
「へ……?」
「え……?」
光の言葉に、少し前に出ていた春也が減速する。
しかし秋葉も前に出ることはなく、やや減速した。
「秋葉、1位譲ってあげるよ。このままどうぞ~」
「だ、大丈夫かな~。春也こそ行っちゃっていいよ」
「いやいや、そう言わずにさ」
「そんなそんな急に譲らなくていいって」
2人が擦り付け合いをしている間に、トゲ甲羅がやってきて頭上で旋回を始める。
ロックオンされたのは1位にいた春也だったが、減速したことで秋葉も巻き込み不可避の状況になっていた。
「ああっ!」
「巻き添えじゃん!」
大爆発を食らって、春也と秋葉の車は派手に吹っ飛ぶ。
その隙に3番手まで上がった光がじわじわ差を詰めてきた。
だがしかし、さすがに経験者と初心者の間にある開きは大きかったようで。
「よーし、1位~」
「あ~! 負けちゃったぁ2位!」
「むむぅ……3位……」
春也が1位、秋葉が2位、初心者ながら光が3位に食い込む。
始まる前の威勢はどこへやら、完全に分からせられてしまった状態の光は、口をとんがらせて言った。
「ふん! いっぱい練習して、お兄ちゃんにも秋葉ちゃんにも勝ってみせるもん!」
「やりすぎてお母さんに没収されないようにな」
「隠れてやるもん」
「おい」
「でもね」
レースのリプレイが流れるなか、光は悔しげな表情から変わって、パッと明るい笑顔を浮かべた。
「すっごい楽しかった! お兄ちゃん、買ってくれてありがとう!」
「はいはい、どういたしまして」
「秋葉ちゃんも遊びに来てくれてありがとう!」
「こちらこそ、呼んでくれてありがとうね」
春也と秋葉は顔を見合わせて笑うと、優しく光の頭を撫でる。
2人によしよしされてご満悦の光は、コントローラーを強く握り直すと言った。
「もう1回やろ! もう1回! 次は煙吹かないから!」
そしてキノコカート大会は、やや手加減した春也と秋葉に光が勝つまで続くのだった。
※ ※ あとがき ※ ※
いつもお読みいただきありがとうございます!
あとがきでちょっとした告知なんですが、息抜きで書いた連載とテイストの少し異なる短編を投稿しました!
タイトルは『元カノと同窓会を抜け出した。』です!
3000字ちょっとのサクッと読める作品なので、もしよろしければチェックしてみてください!
引き続きこちらの作品もよろしくお願いします!
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