第19話 ゲームショップにて

 茉莉&その母親と別れ、2人はようやく目的の場所にやってくる。

 ゲーム機やソフト、関連グッズを取り揃える専門店だ。

 持ち運びできる携帯型ゲーム機から、テレビに繋ぐような据え置き型までありとあらゆる種類のものが揃っている。

 しかも最新機種だけではなく、かなり古い世代のものも中古ではあるが販売されていた。

 ゲームヲタクが見たら垂涎の店なのだが、あいにく春也も秋葉もそこまでゲームに詳しいわけではない。

『マ●オ』とか『ポ●モン』とか『ど●森』とかを人並みにやってきた程度だ。

 なのでたくさんのゲーム機やソフトを見ても、いっぱいあるなぁくらいにしか思わなかった。


「光ちゃんが欲しがってるのって、どのタイプのゲーム機なの?」

「うーんとテレビに繋いでもできるし、それだけでもできるってやつなんだけど……あったこれだ」


 春也はミーテンドーという会社から発売されているゲーム機に目をつける。

 カラーバリエーションは、ブラック、ホワイト、レッド、ブルーに加えて、先日発売された新色のさくらピンク、パステルグリーンがあった。

 光のご希望は、新発売のさくらピンクだ。


「これだな」


 春也は残り1個となっていたさくらピンクの箱を手に取ると、改めて商品に間違いがないか確かめた。

 ゲーム機本体とコントローラーが2つ、それに充電器やケーブル類などが入っている。

 光ご所望の商品で間違いない。


「あとは……」


 春也と秋葉は続いて、ソフトのコーナーへ移動した。

 そして春也は、光がやりたがっていた『キノコカート・ハイパーDX』なるゲームを手に取る。

 いろいろなアイテムを駆使しながらカーレースを楽しむ人気ゲームの最新作だ。

 目的のものはゲットしたのだが、秋葉は楽しそうにゲームソフトを眺めていた。


「すごい種類だね」

「だね。俺が小学生の頃にやってたようなのもあるから、新作旧作問わず置いてあるみたい」

「懐かしいのあるよね。最近はやってないけど、今も物置のどこかにはゲーム機とソフトあるはず」

「そういうのって、久しぶりに出してやってみると意外と楽しかったりするよね」

「あ、分かる!」


 ひとしきりゲーム談議に花を咲かせたところで、2人はレジへ向かう。

 店員は手早く商品をスキャンした後、値段を告げる前に言った。


「こちらのゲーム機、現在キャンペーン中でして。この新発売カラーをご購入された方に、先着でコントローラーをもう1つプレゼントしてるんですが、何色がよろしいですか? 通常色からも、新色からも選べます」

「あ、そうなんですね。うーんと、ちょっと電話して聞いてみてもいいですか?」

「もちろんです」


 春也はスマホを取り出すと、母親に電話を掛ける。

 光はまだ自分のスマホを持っていないのだ。


「もしもし」

「あ、もしもしお母さん。光、いる?」

「いるわよ。ちょっと待って」


「光ー! お兄ちゃんから電話!」

「はーい!」


 母親の呼びかける声と元気な返事、そしてどたどた階段を駆け下りる足音が聞こえてきた後、電話の向こうから光の声が響く。


「もしもしお兄ちゃん? どうしたの?」

「今、光のゲーム機を買いに来てるんだけど」

「おおっ! ついに!」

「それでキャンペーンやってて、コントローラーをプレゼントしてもらえるんだって。何色がいい?」

「ピンク!」

「同じ色でいいの?」

「うん。統一感大事」


“理由があんまりかわいくねえな。”


 心の中でぼやきつつも、まさか妹にかわいくないなどと言い放つひどいお兄ちゃんではない。


「分かった。じゃあ、ピンクで買って帰るな」

「はーい。お兄ちゃんも秋葉ちゃんとのデート楽しんで~」

「おう……って! 何で秋葉いること知ってるの?」

「え!? 私!?」


 春也、そして急に自分の名前が出てきた秋葉が驚くなか、電話の向こうからは光の爆笑する声が響く。

 ついでに、母親の笑い声も聞こえてくる気がする。


「やっぱり秋葉ちゃんと一緒だったか~」

「こいつ……カマかけやがったな……」

「えへへー」

「まあいいや。とにかくじゃあ、そういうことだから」

「あーお兄ちゃんちょっと待って!」


 電話を切ろうとすると、光が慌てて制止する。

 そして母親と何かをごにょごにょ話した後で、再び話を続けた。


「お母さんが生クリーム買ってきてほしいだって。今日の買い物で買い忘れちゃったみたい」

「生クリームな。OK」

「あと、秋葉ちゃんに予定が無かったら連れ込む……じゃなくて、連れてきてよ。私、秋葉ちゃんとも『キノコカート』したいなぁ~」

「……聞いてみる」

「は~い、じゃあね~」


 最後は一方的に用件を伝えると、光は電話をブチぎった。

 どこまでもマイペースな妹である。


「コントローラー、ピンクでお願いします」

「かしこまりました」


 店員がコントローラーを取りに行っている間に、秋葉がまだ少しびっくりした様子で言う。


「何で光ちゃん、私がいるって分かったんだろ」

「妙に勘の良い奴だからな。あーそれでさ……」


“うわー、家に誘うとなるとハードル高っ! なんか緊張するし……!”


「今日、うち来ない?」

「へっ!?」

「光が秋葉ともゲームしたいって言ってて。もちろん、予定が空いてればでいいんだけど」


“光ちゃんが呼んでくれたんだ……でもこれっておうちデート!?”


 にわかに鼓動を速める心臓を抱えて、秋葉はちょっともじもじしながら答える。


「お邪魔……します」

「うん……分かった……」


“好きな人のおうちにお邪魔するのって……緊張してきた……!”


 春也の母、そして光とはスタビャで顔を合わせている。

 それでも家にお邪魔するのは、全く別次元の緊張があった。

 ましてや秋葉は、春也への気持ちを自覚したばかりである。


“どどどどうしよう! 何か手土産とか持っていた方がいいのかな……!”


 慌てしきる秋葉をよそに、コントローラーを持ってきた店員はさっさか会計を済ませるのだった。

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