~告発計画~
俊の過去の噂話の情報源を突き止めた圭は、その人物に会い、「塾で一緒だった奴が言っていたんだ。そいつも今は上条学園から別の学校へ転校したらしいけど、架山と同じクラスだったって言ってて…」と聞き、その塾の仲間という生徒に連絡が取れないかと聞き、直接連絡を取ってくれた。
その相手は…甲斐だった。
甲斐は最初、昔のことは話したくないと、拒んでいたが、圭が必死に頼み込む姿を見て、これ以上俊と同じような生徒が出ないようになるならと、心を決めて、上条学園で起きたことを、自分が見てきた全てを話した。
そして、敦也がまだ唯一学園に残っていることも話して、連絡を取ってくれた。
後日、敦也と直接会って、いろいろと情報交換をして、敦也が決定的な証拠として、レコーダーを持っていたことが分かり、これを元に上条学園を告発しようという事になった。
しかし、最終的な手立てが思い浮かばず、唯一被害者でもある俊からの協力がなければ、真実みがないと考えて、俊に交渉しようという事になった。
そんなことを知らなかった俊は、話を聞き、一瞬耳を疑った。
「敦也が…レコーダーで、録音?」
「ああ、実際に俺も聞かせてもらったから間違いない。これを教育委員会の方だして、学園を告発できるんだ。そうすれば、お前と同じように今も苦しんでいるかもしれない生徒を救えるかもしれないんだ。だから頼む、協力してくれないか?」
「………」
「なあ、俊。お前の協力が必要なんだ。お前も被害者であるって言ってくれるだけで、学園を変えさせることが出来るかもしれないんだ。だから…」
「今更、そんなことをして何になる?」
「え…?」
「どうせ、そんなことをしても学園は何としてでももみ消そうとするよ。逆にこっちが嘘吐き呼ばわりされて、批難されるのが落ちだ。もう、どうにもならないんだから。協力する気は無い」
「でも…。お前だって、今も苦しんでいるじゃないか。見てられないんだよ」
「そんなの、自分勝手だろ。それとも何?正義のヒーローにでもなるつもり?」
「…何でそんなに、否定的なんだよ。確かに、今更どうしようとも遅いかもしれないけど、それでも、何もせずにいられるかよ」
「………」
圭は苛立ちを覚えて、息を荒くしているが、俊は至って冷静に、「どうせ何も変えられない」と否定し続けた。
意地でも拒絶する俊に、圭は最終手段として、彩希の話を持ちかけた。
「水瀬さんのところ、行ってきた。これ以上、水瀬さんみたいな犠牲者が出ても良いのかよ?」
「っ!何でそんなこと…」
「中條さんに連絡を取ってくれたのは、広瀬さんだ。彼も中條さんも、皆、後悔してんだよ。お前に全部押し付けてきたこと。だから、頼むよ。お前の協力が必要なんだ…」
そう言い、圭は頭を下げてひたすら説得し続けた。
そこまでされて、さすがの俊も返事に困り、「少し、考えさせてくれ」と言って、圭も、。「返事はいつでも待ってるから」と、約束を交わすことにした。
部屋に戻って、俊はいろいろと悩んだが、敦也がレコーダーで録音していたことを知り、一瞬だけ、心が揺らぐ。
しかし、実際にそれが公に晒されることになれば、章裕のことだ。
敦也と甲斐だけでなく、彩希の時みたくネットにもばらまき兼ねない。
そうなってしまえば、自分の身も危うくなってくる。
そう考えれば考えるほどに、いてもたってもいられず俊は章裕に、この事を報告することにした。
LINEで章裕に連絡を取り、敦也がレコーダーで全校朝礼の話を録音していたこと。
それを元に、学園を告発しようと計画していること。
連絡を受けて、章裕は「よく報告してくれた。お礼に写真のデータは消してやる」と返事を返した。
だが、削除するのは写真データのみ。
あの時に撮られた動画の方はそのまま所持とのことだった。
章裕にとっての保険だろう。
俊は「また何かあったら連絡します」と告げて、スマホの画面を閉じた。
結果はともかく、写真をばらまかれる危険はなくなった物の、今度は敦也の処遇がどうなるかだ。
下手をすれば、学園側から何か罰を与え兼ねられない。
一瞬だけ、敦也の顔が過ぎるが、俊が苦しくて自傷行為をしているときに、恐れて拒絶した時のことを思い返して。
それでも構わない、同じ苦しみを味わえば良い、と、敦也に対しての憎悪がわき上がっていった。
そして翌日。
敦也が学長室に呼び出されて、持っているレコーダーを出しなさいと告げられ、身体検査や持ち物検査をされ、そのレコーダーを没収されてしまう。
さらに、告発計画を企てていたとして、1週間の停学処分を言い渡したのだった。
そのことを敦也が圭に連絡し、もしかしたら俊が何かした可能性が高いと言い、圭は急いで俊の家へと押しかけ、問い詰めた。
「俊、お前…まさか、学園に告げ口したんじゃないよな…?」
呼び出されて早々、俊は早速来たかと、冷めた目で圭を見つめていた。
「…何のこと?」
「とぼけんなよ!俺らの行動が学園側に伝わるなんて、誰かがチクんなきゃわかんねーだろ!」
「………」
言ったら何になる、と言いかけて、俊は冷たい目を向けたまま、無言を貫いた。
「…お前、変わったな。昔はこんな風に、仲間を売るようなことなんてしなかったのに…」
「………」
「全てを狂わせた連中の言いなりは、今でも継続か?どんだけ権力握ってるんだよ」
「………」
脅されて口止めされてることを知らない圭に、俊はこれ以上、話すことはないと思って、早々にこの場を去ろうと考えていたが。
圭は必死に話を繋ごうとしていた。
「なぁ、何か言ってくれよ…。どうしたいんだよ、お前は…」
「……別に。どうもしようとなんて思ってないよ」
「じゃあ、なんでチクってんだよ!わけ分かんねーよ!」
困惑して叫ぶ圭に、俊は至って冷静に冷たい視線を圭に向けていた。
「もう話すことはない。これ以上、この件には関わるな」
そう冷たく告げて、俊は家の中へと入っていった。
「…くそっ!」
ドカッと圭が塀に拳を打ち付ける音を、俊は扉を内側で聞いた。
(ごめん、圭。でも、これ以上、桂馬で巻き込みたくない…)
言い放った言葉とは裏腹に、俊は圭を思っての行動をとった。
しかし、圭を困らせてしまっていることに変わりはない。
部屋に戻り、ふとサイドボードに目を向け、飾っていた彩希との写真を持ち上げて、そのまま引き出しへとしまった。
―――戻れるなら、あの頃に戻りたい。
―――でも、もう、戻ることは出来ない。
―――出来るはずがない。
そう思って俯くと、ふとスマホにLINEの通知が来ていたことに気がついた。
確認すると章裕からで、内容は先ほど圭から話を聞いた、敦也の件。
『反抗した者は容赦しない。例えお前の元友人でもな』
『引き続き、何かあったら連絡しろ』
それを見て、険しい表情を浮かべながらも、俊は『わかりました』と返事を送った。
そしてスマホを置く代わりに、小物入れからカッターを取り出した。
カチカチと刃を出して、そのまま左腕に刃を押し当てる。
それを2回、3回と繰り返し、何度か切り刻んでカッターを床に落とした。
滴り落ちていく血を見て、崩れ落ちるように座り込む。
もう何度この行為を繰り返しているのだろうか?
思い出せない程に、俊は自傷行為に溺れていた。
逆に、自身を傷つけていないと、精神が持たなくなっていた。
「水瀬…」
俊は小さく囁き、心の中で「ごめん…」と繰り返し謝っていた。
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