3年春~再会~
峠を超えて市街地へと入ると、そこは以前も少しだけ住んでいた小さな田舎町。
目的地へと辿り着くと、遅れて引っ越し業者のトラックも到着した。
車から降り、懐かしい街並みを見ていると、どこからともなく声を掛けられた。
「やっぱり!帰ってきたんだな、俊。それに弥月ちゃんも…!」
振り向くと、自転車に乗った少年が一人、こちらへと近づいてくる。
俊と弥月も彼に気付き、笑顔で返事をした。
「圭君?久しぶり!元気だった?」
彼は以前この町に住んでいた頃の幼馴染で、一之瀬圭(いちのせ けい)。
ちょうど高校受験のために通っている塾の帰りだという。
「もしかして、また一緒にいられるのか?」
「うん、皆に会えるの、楽しみにしてたんだ。圭君、元気そうで良かった!」
「ああ、………って、俊は相変わらずな感じだけどな」
「ふふ、言われてるよ?お兄ちゃん」
「………」
そう話を振られて、俊は少し困った顔をして。
その間にも、圭と弥月は話に花を咲かせて、思い出話をし始めていた。
思えば、最後に圭と会ったのは、まだ小学校低学年だった。
だいぶ背も伸びて、少年らしく成長した幼馴染に、それでも変わらぬ笑顔を向けてる姿に、何も変わってないと知って。
自分はあれから、だいぶ変わってしまったのに…と、ぼんやり考えながら圭を見つめて。
それ以上、圭の笑顔を見続けることが苦しくなって、俊は早々に家の中へと入ろうとしたら、呼び止められた。
「…って、おい、俊。さすがに何も言わずに去るのはどうかと思うぞ?」
「………」
俊は一瞬だけ立ち止まり、振り返ろうとしたが、あれから変わってしまった自分を知られたくなくて、結局そのまま家の中へと入っていく。
「お兄ちゃん…」
弥月の呟く声が聞こえたが、構わずそのまま中へと入っていった。
その後、まだ引っ越し作業の途中だったこともあって、「また今度ゆっくり話そう」と言って、圭は自宅へと帰っていった。
その後ろ姿を見届け、弥月も作業へと戻った。
その次の日、早速編入届けをその地域の四葉台中学へと申請し、新学期からはその中学への通学が許可された。
そして同時に、新しい制服を頼み、教材も揃えて、新学期への準備は進んでいた。
しかし、一つだけ問題があった。
俊は上条学園での一件で、教室に入る事が出来なくなっている。
結局はこの学校でも、保健室登校になる状態だが、転入早々にそれも大丈夫だろうかと、不安になっていた。
だが、精神的な苦痛が伴うので、無理は出来ない。
あらかじめ、弥月に「迷惑かけるかもしれない」と謝ると、弥月は「気にしないで、大丈夫だよ」と返してくれた。
不安が残る中、新学期を迎え、俊と弥月は新しい制服に身を包み、ソワソワした気持ちで学校へと向かった。
小さな町なので中学が一つだけしかなく、この地域の子達はほとんどがこの四葉台中学に通っている。
中には、電車に乗って近隣市の中学へ通っている子も居るらしいが、謂わば私立中だったこともあり、生活面や俊の体調も考慮して、地元のこの町立中学に通うことにしたのだった。
今日は午前中に始業式と簡単な連絡事項だけを行い、午後から入学式があるという。
入学式はあらかじめ決まった在校生が出席するので、とりあえず連絡事項だけを聞きそのまま帰宅することになっていた。
授業がないので、その日だけでも担任から教室に居れるかと聞かれて、「出来るだけ出ます」と連絡していたので、新しいクラスメイトとの顔合わせもあって、今日だけは教室へと向かう。
そして、全ての連絡事項を終え、皆が帰宅の準備をする中で、早速、好奇心旺盛な生徒が、俊に話しかけ始めた。
中には、昔一緒だった小学校の子達も混ざって、「久しぶり」と挨拶を交わし、俊は緊張しつつも、笑顔で「ただいま」と返すと、クラスメイトはその表情にほんわかした雰囲気を漂わせていた。
外見が華奢で中性的な顔立ちなこともあって、女子の間では早速話題になっていたのだ。
その後も、クラスメイト達からあれこれ質問責めにあうが、ちょうど同じクラスになった圭が仲裁に入り、「こいつあまり責め立てると萎縮するから、加減してやってくれ」と言うと、女子達がブーブー文句を言いつつも、「あまり迷惑かけちゃ悪いからね」とそのまま引き下がってくれた。
とりあえず、初日はそれで何とか無事に過ごすことが出来た。
しかし翌日以降、クラスメイトは俊が教室に来ないことに気付いたのは、それから2.3日経ってからのことだった。
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