~亀裂~
翌日から、章裕が俊たちのお願いを受け入れたことで、暫くは呼び出しを受けることはなかった。
ようやく、落ち着いた日常を送ることが出来た俊だが、現状、平穏な日々ではなかった。
昨日の一件以来、顔を合わせても互いに視線を逸らし、登校して挨拶はするものの、それ以外の会話はほとんどしなくなった。
三人の異様な雰囲気に、クラスメイトは何事かと、ひそひそと小声で言い合っていた。
「ケンカでもしたのか?」
そんな程度の声がちらほら聞こえ、俊は居たたまれなくなり、教室を出て行くが、敦也も甲斐も、声を駆けることもなく、自身の席に座ったままだった。
後日、俊は休みの日に部屋の掃除をしていると、ある一冊の本が出てきた。
それは、数ヶ月前に甲斐から借りた雑誌だった。
俊は一瞬悩み、考えた結果、翌日甲斐に返そうと鞄の中に雑誌をしまい込んだ。
そして翌日。
登校してきた俊は、玄関へと行くと、既に甲斐が来ているのを見て近づいた。
「おはよう、甲斐」
「…おう」
「あの…これ、前に借りてたやつ。返すの遅くなってごめん」
「………いいよ、それ。俊にやるから」
「え…」
雑誌を返そうと、鞄を開こうとしたら、甲斐にそう言われて。
俊は戸惑いながらも、やはり返した方が良いと思い、「やっぱり返すよ」と雑誌を差し出した。
―――だが。
「っ!」
甲斐は雑誌ごと、俊の手を振り払ったのだった。
バサリ、と雑誌が床に落ち、俊は一瞬何が起きたのか分からずにいると、甲斐は顔をしかめて言った。
「…マジ、いいから。それと、もう話しかけないでくれ…」
それだけ言うと、甲斐はその場を離れて、一人教室へと向かった。
呆然と立ち尽くす俊に、その光景を見ていた生徒たちは、何事かと俊をチラチラ見つつ、それぞれの教室へと去って行く。
しかし俊は暫く、その場を動けずにいた。
甲斐に拒絶されて、呆然としたままその日は過ぎて。
帰り際、甲斐が敦也に何かを話している。
何を話しているのだろうと、気に掛けていると、その視線に気付いた二人がこちらを向くや否や、すぐに視線を逸らして、教室を出て行った。
「………」
その後ろ姿を無言で見つめる俊。
クラスメイトはまたひそひそと、「未だ仲直りしてないのか?」「架山のやつ、完全にボッチだな」と、口にしていた。
それから、俊は教室の中でも完全に独りきりになり、何も喋らなくなり、授業で当てられても、小さな声で発言するようになっていった。
そのことで、クラスジョーカーグループが面白がり、俊をからかうも反応はなく、「何かつまんねぇ」とジョーカーグループたちはからかうのをやめた。
そして、季節は少しずつ涼しさを匂わせていく。
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