2年夏~エスカレート~
結局、それから状況は変わることなく、俊は下僕的な扱いを受ける日々が続いた。
彩希もまた、俊が無理矢理押し付けられた仕事を手伝ってくれたり、毎朝必ず、「おはよう」と声を掛けたり。
そうして彩希は俊を庇うようになっていった。
もちろん、周りの者達は、彩希のそんな姿を白い目で見ていて、中には気に入らない者もいた。
彩希のLINEに「偽善者」「何様のつもりだよ」「ウザい」といった内容のメッセージが送られるようになり、体育の着替えの時には写真を撮られて、その画像を拡散されたりと、友人として付き合ってきた者達が、次々に態度を変え、彩希を貶めていくようになった。
それでも彩希は、変わる事なく、今まで通りに接していた。
そんな健気な彩希が、俊にとっては唯一の支えだった。
「ずいぶんとご機嫌だな。良い夢見れて、幸せか?」
「…何のことですか?」
「とぼけんなよ。てめぇ、女子の一人とやたら親しそうにしてたじゃないか。お前の女か?」
「別に、そんな関係じゃないですけど…」
「否定はしないんだな…。じゃあ、もっと良い夢見せてやるよ。おい」
章裕が何かの合図をすると、入り口の戸が開き、彩希と数人の取り巻きが入っていくる。
「えへへ。ごめんね、架山君。へましちゃった…」
そう笑いながら謝る彩希に、俊は驚きと不安の入り交じった顔で、章裕を見つめた。
章裕はにやにやした顔で、スマホを取り出し、二人にカメラを向ける。
何をさせる気だろう?と、俊はより一層不安になっていく。
「は~い、みんな注目~!こいつら下僕同士で付き合ってま~す!」
章裕の言葉に、その映像が生徒達のスマホに送られている事を知り、さすがの彩希も驚く。
「ほら、皆に見えるようにキスしろよ!」
そう言いながら、二人は頭を掴まれ、無理矢理キスをさせられる。
その瞬間をスクショにして、「私たち結婚しました。子供100人産みます!」と、卑猥な書き込み加工され、全校生徒のスマホに送られたのだった。
そしてその写真は教師の目にも止まり、ふたりを「不純異性交遊」と見做し、重い処分が言い渡される。
「こんなの、絶対におかしい!なんで私達が罰を受けなきゃいけないの?」
「それにこんな事を、見て見ぬふりする教師もおかしいよ。明らかに私達が被害者って分かるじゃない」
渡された反省文を書きながら、彩希はぼやく。
俊は体育教師に体罰を受け、殴られた鳩尾の辺りを擦りながら、「仕方ないよ、誰も王様には逆らえないから…」と、諦めたように呟いた。
それでも、彩希は怒りを露わにして「納得いかない!」と机に拳を叩きつけた。
それからも、日々エスカレートしていく嫌がらせに、ふたりの心労は溜まっていく。
それでも、彩希はめげずに毎日俊の元へ訪れては会話をし、明るく振る舞っていた。
「なんで…、そうやって笑えるの?」
「言ったでしょう?私は私の意思を貫くって。だから絶対に、負けちゃダメだよ」
そう言って微笑む彩希は何処か弱々しくて、俊は胸が苦しくなった。
いつも庇い続けてくれる彩希に、自分は何も出来ないことを、もどかしく感じていた。
そんな二人の姿に、章裕はすべてが気に入らず、これ以上二人が幸せそうな顔が出来ないような、なにかを企んでいた。
それは、彩希に対して、二度と出しゃばった真似が出来ないように、章裕が考えた、最悪な出来事だった。
「やめて!!何するの!離して!!」
「王様、やめてください!水瀬をどうするんですか?!」
「お前もちゃんとみてろよ?大事な彼女が、女になる瞬間をよ!さっさとやれ!」
「いやぁぁぁ!!」
それは、クラスメイトの目の前で、取り巻きの男子に彩希を襲わせるという、卑劣な方法だった。
章裕はにやにやしながらスマホでその光景を撮影している。
クラスメイトのほとんどの女子は、さすがの出来事に恐れを感じ、教室から出て目を逸らしていた。
しかし、中には興味津々で野次を飛ばす生徒もいて、章裕は気分が良くなり、「ほら、もっと良い声聞かせろよ」と茶々を入れている。
俊は他の取り巻き達に羽交い締めにされながらも、彩希を助けようと必死で叫んでいた。
「やめろ!離せ!…水瀬っ!」
「うるせーよ、下僕の分際でゴチャゴチャと。それとも何か?お前も混ざりたいんじゃねーのか?あははは!」
結局、彩希はクラスメイトの目の前でレイプされ、さらにその動画も撮られた事に屈辱を感じ、暫く踞っていた。
「水瀬………」
「…………」
俊が声を掛けるが、彩希は返事も無く、そのまま泣き崩れた。
騒ぎを聞きつけた養護教員が駆け付け、状況を判断すると、すぐに彩希の制服を着直させ、保健室へと連れて行く。
俊も同行しようとしたが、養護教員に「ごめんね、今は距離を置いて」と断られ、そのまま二人を見送った。
しかし、章裕の企みはそれだけでは終わらず、録画した彩希のレイプ動画を、何とネットにアップさせ、公開したのだった。
その動画がネット上で拡散され、賛否両論のコメントが付けられ、一気に炎上した。
そして、数日後。
最悪の事態が起きてしまう。
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