第五話「大切なもの」
「はるくん!あそぼー!」
「うん!」
幼い頃の記憶、今でも覚えている。
俺と彩葉が幸せだった頃。
「彩葉、今日も遊んで楽しそうだね!遅くなり過ぎてお父さんやお母さんに怒られないようにね〜」
「ねーさんありがと!わかったー!」
彼女は
「いーちゃん…ぼくと遊んで大丈夫なの〜?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!もしおそくなったら言い訳すればだいじょーぶだもん!」
彩葉とはよく遊んでいた。
本当にその頃は楽しかった。………本当に…楽しかったんだ。
「はるくん!今日はゲーセン行こうよ〜!」
「いーちゃん走るの早い!待って!!今度こそ僕が勝つからなー!!」
「二人共、出かけるのは良いけど気を付けるんだよ。」
「姉さんありがと!ちゃんと気を付けるよ〜!姉さんも気を付けて帰ってね!」
小5の頃、俺と彩葉は昔と変わらずよく遊んでいた。
その日俺達はゲーセンで遊んでから楽しく帰った。
…―――……彩葉の姉さんが帰っている途中で死んでしまったとも知らずに。
葬式の時、彩葉は泣いていた。
彩葉は姉さんの事が大好きだったし、よく姉さんの自慢話を聞かせてくれていた。
俺も一緒に葬式で泣いた。
彩葉の姉さんが亡くなってから、せめて俺だけは隣に居ようと思った。
「彩葉ちゃん!勉強教えてよ〜!」
「おっ!良いよ〜!どの部分が分からないの?」
「ここ!さすが彩葉ちゃん!やっぱり彩葉ちゃんは頭の出来が違うね!」
「…えへへ〜。ありがとー!」
中学からは、彩葉は沢山友達を作って、よく勉強を教えていた。
彩葉は人気者で、他の人に褒めて貰うといつも笑顔だ。
その頃は…――…「いーちゃんの笑顔を見れるのは僕だけで良いのに。」とか思ってた事もあった気がする。
「はるくーん!あたしこの子達と帰ることになったんだけど、良かったらたまには、はるくんも一緒に来ないー?」
「…えっ…良いの…?」
「もちろん!はるくんも大切な友達だからね〜!!」
誘ってくれている時の彩葉は太陽の様な笑顔だった。
もちろん断る理由なんてない。
「ところでいーちゃん、何処に行く予定なの?」
「最近ねー!新しいクレープ屋さんが出来たんだよ!みんなで食べるの!」
よく彩葉が友達の人達と遊びに行ったり、何かを食べに行ったりしていたのは知ってる。
…―――…でも、クレープ屋さんに行く時は、何故だかいつもより楽しそうな笑顔だったのを覚えている。
「…いーちゃんって、クレープ好きなんだね。」
「ん〜?どーしたの急に。……まぁクレープに限らずお菓子とかスイーツは普通に好きだよ。」
彩葉と一緒に食べるクレープは、一人で食べる時よりも美味しく感じた。
他の友達の人達は一旦ジュースを買いに行ったりしていて、その時は彩葉と二人きりだった。
「……いーちゃん…あのさ、いーちゃんは……好きなタイプって居るの…?」
思い切って聞いてみた。
「えっ?……う〜ん…表向きじゃないあたしの事もちゃんと見てくれてて〜…あと助け合える人かな!」
表向きじゃない彩葉…。
この頃の俺も、今の俺も、ちゃんと表向きじゃない彩葉の事を見ることができていただろうか。
……―――…そしてある日、中二の夏頃、彩葉の友達の人達が事件に巻き込まれて亡くなったらしい。
お通夜と葬式には、日帰りで俺も行くことになった。
友達の人達のお通夜が終わった後、父さんから呼び出された。
「父さん…どうしたの?」
「もうそろそろ言っておこうと思ってな。」
うちの父さんは少しおかしな人だった。
ドラマで人が死ぬシーンを見たら何故か笑っていたりする人だった。
…―――…何だか嫌な予感がした。
「お前は気付いているか?…お前の友達、雫芽 彩葉の周りの人達が死んでいって居るのを。」
父さんは不気味な程にニヤニヤしていた。
嫌な予感は…――…確信に変わった。
「……父さんが…彩葉の姉さんや友達を……殺したの…?」
「違う違う―――…お前が殺したんだよ。」
「……は?」
「俺はあくまで、お前に関わりのある人間が不幸になるよう仕向けただけ。………お前に出会いさえしなけりゃ、あのガキの周りの人間も死ぬ事はなかっただろうよ。」
「ち……違う…違う!!……そもそも手を下したのは父さんなんだろ…?………それなら僕は…僕は…ただ……」
「ただの…被害者だってぇ?」
父さんは嘲笑っていた。
(…違う…僕は違う…だって僕が手を下した訳じゃないじゃないか……頼んだ訳でもない…)
『本当に違うのか?……だって僕は思って居たじゃないか。「いーちゃんの笑顔を見れるのは僕だけで良いのに。」って。』
もう一人の黒い俺が話しかけていた。
(…そ…それは……いや…でも…僕じゃ…)
『良い加減認めろよ。……彩葉から大事な人達を奪ったのは…他でもない僕だって。』
…そうだ。悪いのは他でもない俺だった。
………彩葉は、そんな俺をどう思うんだろう。
「そんなお前に選択肢をやるよ。……俺に協力するか。……それとも、俺に歯向かって雫芽 彩葉を殺すか。」
父さんは俺に選択肢を与えた。
……彩葉の周りの人達が本当に死んでいる時点で、本当に彩葉が死んでしまうんだろうと言うのはなんとなく分かった。
「…わ…分かった…言う通りにするから……彩葉は……彩葉だけは……」
「お前ならそう言うと思ったよ。……手始めに、高校に入学して友達が出来たら、そいつらをあるゲームに巻き込め。」
「……ゲーム…?」
「…大丈夫、言う通りにさえしてくれれば、あのガキは死なないさ。」
俺は言う通りにするしかなかった。
……もう…反抗したりする意欲すら沸かなかったんだ。
…そして葬式の日。
(…僕が……僕が殺した……僕が…彩葉を傷付けて……)
葬式の日、俺は涙が止まらなかった。
……俺には彩葉しか居ないんだ。
彩葉に沢山勇気付けられて来た。…彩葉が居なくなったら俺には何も残らない。
………―――――……彩葉は、巻き込まれないはずの予定だった。
「……あっ…はるくんさ…えっと〜…たまには久しぶりにゲーセンでも行かない?」
学校の放課後、彩葉が話しかけてきた。
「……あのさ、もうそう言う呼び方やめない?……… "俺" 達…もう中二だしさ。……もうそういうのやめようよ。 "彩葉" 。」
「……えっ…」
俺なりの作り笑いをした。
……ちゃんと笑えていたかな。
高校に入ってからも変わらない。
友達思いの翼、芯が強くてめげたりしない憧れの美月さん、……そして幼い頃からずっと一緒な彩葉。
……大切な友達だった。……でも裏切らないといけない。
「やぁやぁチビ春人ー!いやね〜最近よく友達の相談に乗ったりしてる訳なんだけどさー!あたしちゃんと相談乗ったりしてるんだよー!すごくない?……………それでさ〜…春人は悩み事とかある?」
「……何だよ急に。………あとチビ言うな!!」
「まぁね〜春人ともあろうお方がー、ビビって悩み事隠したり相談しないなんて事しないとは思うんだけど〜!………それで、あるの?」
「……ある訳ないだろ。」
「………………そっか。」
彩葉はよく俺に話しかけてくれていた。
彩葉には沢山、大切な友達がいる。………俺はその中に居るわけなんてないけど。
……彩葉だって、助け合える人が良いって言っていたじゃないか。
………だから、俺が彩葉を助けないと。
……――――…今日の朝、俺は他の人よりも早起きしていた。…父さんに呼び出されたからだ。
「…何ですか。……父さん。」
「お前にもう一度選択肢を与えようと思ってな。……歯向かって雫芽 彩葉を殺すか、他の友人を殺すか、……――…それか、お前が俺に殺されるか。」
新しい選択肢。……もちろん選択は決まっている。
「……分かりました。………俺が死にます。」
「そうか。お前ならそう言うと思っていたよ。」
父さんはニヤニヤしている。
……最初から、父さんはこのつもりだったのだろうか。
…でももう……抵抗する意欲も、誰かに助けを求める意欲も沸かなかった。
これで安心だ。彩葉も大切な人を失わないで済む。
きっとこれが正解だった。
「……これで良かったんだよな……彩葉…。」
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