第三話「合理的と情動的」

「皆様、おかえりないませ。」

僕達の能力を視てくれていたカウンター席の女性が話しかけてきた。


「…あ…どうも。」


…疲れた。

そもそも急に裏切り者を探せなんて言われても…


「…ところでさ、あたし達がなんかされてる間何があったの?!なんか気絶させられて倒れた春人に押し潰されるし!!………まぁチビだから軽いけど。」

「チビ言うな!!………まぁ確かに何があったかは気になる。」

「…私も…です!」

「……―――…実は、僕達の中に裏切り者が居るって話を…」


他の3人に事情を説明した。

この中に裏切り者が居る可能性もあるが、誰かが少しでもヒントを持っているかも知れない。


「………なるほどね〜。」

「…うっ…裏切り者なんて…そんな…私達の中にいる訳ありません!!」

「……あの胡散臭いジャスティスとか言う奴の言ってた事だろ?………俺は到底信用出来ない。」


やっぱりそう言う反応になるよな。

僕もこの中に裏切り者がいるだなんて思いたくない。


「とりあえず休んでみてはいかがでしょう。今から部屋へご案内致します。」


カウンター席の女性が話しかけてきた。

…彼女は敵なのか?味方なのか?

…と言っても疲れてるのは事実だ。お言葉に甘えて今日は休ませて貰おう。


「こちらがあなた方の部屋です。4人組らしいので4人部屋にさせて頂きました。」

「…ありがとうございます。」


その女性に感謝をし、僕達は部屋に入る事にした。

裏切り者を探すにしても、とりあえず休んでからだ。

休まない事には冷静な判断が出来ない。


「意外と快適だね〜。電気は明るい!ベッドはフカフカ!そして意外と狭くない!!」

「確かに…どんな部屋かと思いましたけど快適そうです!………でもお家には帰りたいです…」

「美月さん大丈夫です!………とりあえず今日は寝ましょう。俺も色々と不安な事はありますけど。」

「…そうですね…!……私も、信じる為にも、裏切り者探し…手伝います。」

「うん、そうだな。」


とりあえず僕達は眠りについた。


――深夜2時――


「……眠れない。」

全然寝付けない。

目も閉じて、耳も塞いだはずなのに、第一の試練の時の隙間から聞こえる程の悲鳴がまだ焼き付いている。

………怖い。

俺はとりあえず、リビングホールのような部屋で休む事にした。


「……ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさい…」


俺はただ謝っていた。

何に関して謝っているのか自分でももうよく分からない。

もしかしたら自分が思っている以上に限界が来ているのだろうか。

こんな訳の分からない場所に閉じ込められて、死ぬ可能性のあるゲームなんてさせられて……もう俺は限界寸前だった。


「春人どうしたの〜?……あたしも丁度寝付けなかったんだよね〜。」

「…あっ…彩葉…」


彩葉が俺に話しかけてきた。

幼い頃からずっと一緒に居て、俺を守ってくれたりしてくれていた幼馴染。


「……意外だな。彩葉って合理的だし、あまり罪悪感とかないのかと思ってた。」

「いやいやあるに決まってるでしょ〜。あたしの事サイコパスか何かだと思ってる〜…?」

「別にそこまでは思ってねーよ。………俺は彩葉に色々と助けてもらって来たし。」


俺は幼少期、幼稚園児の頃にいじめられていた。

その時に助けてくれたのが彩葉だった。


――――――


「ねえね、きみ、だいじょうぶ?」

「……だぁれ?」

「あたしはね、いろは!雫芽 彩葉しずくめ いろはっていうのー!」

「…ぼくは…はると…貝塚 春人かいづか はると。」

「そっかー!じゃあはるくんだね!よろしくね〜!」

「……うん、よろしくね。……い…いーちゃん。」


――――――


俺はそれから、彩葉の姉さんとも仲良くさせてもらっていた。

………その姉さんは、俺と彩葉が小5の頃に事故で亡くなったけど。

彩葉は意外と不幸に見舞われるタイプだったのかも知れない。

中学の頃彩葉と仲良くしていた友達も、事件に巻き込まれて亡くなってしまった。

……だから、せめて俺だけでも、彩葉の側に居てやりたい。


「……あたしもね〜。不安じゃない訳ではないよ。……だってあたしだけ何故か無能力だし、万が一裏切り者が居るとしたら多分一番最初に狙われるのってあたしだろうし。」

「……そっか。…でも大丈夫だよ。その時は…俺が裏切り者から彩葉を守るから。」

「………へぇ〜。………手震えてるけど大丈夫?」

「…なっ…ふっ…震えてねーし!!!」

「…ぷっ…ふふっ。」


彩葉は笑っている。

いつもそうだった。

彩葉と話して居ると、何故だがどんな不安も忘れる事が出来るような気がする。


「…春人ってさ〜…ずっと変わらないよね。あたしが中学の時…あたしが仲良くしてた友達が亡くなった時………春人私より泣いててさ、あの時は戸惑ったな〜………あたしが合理的なら、春人は情動的だよ。」

「…そうか?………彩葉もずっと変わらないよ。合理的なところも…そして誰よりも友達思いなところも。」


何だか彩葉のお陰で少し心が回復したような気がする。

……まぁいつもはチビとか煽って来て嫌いだけど!!


「…彩葉、彩葉はさ、高校で翼とか美月さんとか、色んな友達が出来て…楽しい?」

「ん〜?…そりゃもちろん楽しいよ〜!」

「そっか、俺も楽しい。……お陰で少し元気が出たよ。俺も寝ようかな。」

「あたしも寝る〜!」


そして俺達は眠りについた。


――――――


「翼くん、おはようございます!」

「…玲奈…」


玲奈に起こされて目が覚める。

とりあえず裏切り者について話し合おう。

…――…その時だった。


「あの…私…良いでしょうか。」


玲奈が口を開いた。


「ああ、何だ?」

「裏切り者が居るかも知れないって話…信じたく…ないですけど…」


玲奈は何かに気付いたのか…?


「違うなら違うって…否定して欲しいのですが。……―――…彩葉ちゃん…話聞かせて…欲しいです。」

「…えっあたし?」

……――…彩葉…?

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