ミル・クレーのおやつ (適当)

オララオ

ミルクレープ


「ミルクレープ買ってきたよー」

と、誰かがどこかに向かって叫ぶ。途端上の方から走る音が二人分ほど。

「ほんと? やったー!」「ありがとう! 楽しみー!」

と、二つの元気な声が重なった。


ここは田舎に近いが多くの住民が住んでいる一つの町。都会のような、右見てもビル、左見てもビルのような風景はしていない。どちらかと言えば田んぼが目立つ。

その街では、ミルという少年と、クレーという少女が住んでいる。二人は兄妹だ。この兄弟は二人そろっての大が付くほどのスイーツ好きで、スイーツを食べている様子が高頻度で目撃される。この辺りでは有名なスイーツ兄妹だった。


今日のおやつはミルクレープのようだ。二人は颯爽と机について、目をキラキラさせてそれが入っていると思われる箱を凝視する。先程、ミルクレープを買ってきたと言った人物は二人の母親である。母親は二人が凝視する箱を丁寧に開封していく。中にはきれいな形をしたミルクレープが三個入っていた。どうやら母も食べるらしい。

母は三個のミルクレープを小皿にそれぞれ分けて、ミルとクレー、自分の前に置いた。


目の前にミルクレープが置かれた二人は、早く食べたくてソワソワしている。それを見た母は優しく「食べていいよ」と言った。

その瞬間、勢いよく周りに付いているフィルムをはがしていく。フィルムはがされたミルクレープは皿の上に鎮座したまんま。


「「いただきます!!」」


二人はそろって、フォークを持ち、これまたそろって、ミルクレープにさして、カットする。

フォークには一口サイズにカットされたミルクレープが刺さっている。大きく口を開けて、勢いよく頬張る。口に広がった甘さが二人を笑顔にする。まぁ、この二人は何のスイーツを食べてもこうなるらしい(母親談)。一口目を飲み込んだ二人はお茶で一度口の中をリセットさせる。そしてまた大きく口を開いてカットしたミルクレープを口に入れる。これを数回繰り返して、ミルクレープを綺麗に完食した。


「「ごちそうさま!!」」


ミルとクレーはひとまずお腹いっぱいになり、遊んでいた。その様子を皿やフォークを洗い終わった母は優しく見ていた。すると、どうしたことかクレーが近寄ってきた。


「お母さん、私ミルクレープ作ってみたい…。ダメ?」

と、上目遣いで母を眺めるクレー。


何を言い出したのかと母は驚く。確かにスイーツ好きであるが、今まで作ってみたいと言ってくることは一度もなかった。

(いや、でもこれは良い経験になるかもしれない。)

母はやってみるのもアリだと考え始めていた。子供がやりたいと言っているのだ。まずはやらせてみるのもいいかもしれない。

「分かった。今度一緒にやってみようか」

承諾した母に対し、クレーはというと。


「イヤ」

なんと拒否してきた。母もこれには驚きを隠せない。

「ん、何でイヤなの?」

「ミルも一緒じゃないとイヤ」


なるほど。一回拒否したのはそういう事らしい。クレーはミルに一緒に作りたいとお願いすると、今日一の笑顔を見せて作りたいと言ってきた。


「じゃあ、今度の休みにでも買い物に行って作りましょうか」

「「ありがとー!!」」


かくして、今度の休みを使って三人でミルクレープを作ることが決定した。


そして休日。

三人は最寄りの大型ショッピングセンターに出向いていた。

食品売り場で、ホットケーキミックスに卵に牛乳、バター、サラダ油と必要な材料を籠の中に次々と入れていく。生クリームは既に出来上がっている状態の物を籠に入れた。一応、すべての物は多めに購入した。

会計を済ませ、家に帰っている時はミルとクレーはずっと興奮しっぱなしだった。早く作りたくて我慢しきれないのだろうか。


家に着き、最初に必要な道具を用意する。ミルとクレーはこの段階から母親に従って準備をした。幸いにも道具で無いものは無かった。

材料と道具を準備し終わり、いよいよ作り出していく。ミルとクレーはエプロンを身に着けた姿になっていた。やる気は十分のようだ。


ミルクレープは様々な工程があるらしいが、最初にクレープ生地を作るらしい。

そこで、ボウルに卵を割り入れるのはミルに決まった。こんこんと卵にひびを入れ、指を入れ、卵を割る。

「出来た!」

ミルがそういうので、母とクレーはボウルの中を覗く。中を覗くと、綺麗な卵黄数個と小さな白い物体が見て取れた。多分卵の殻だろう。流石にこのまま続けるのはアレなので、母が菜箸で殻と思われるものをつまんでは外に出していく。横ではミルがやや落ち込んでいた。殻が入ってしまったことにショックを受けているのだろう。


「大丈夫だからミル。殻は誰でも一回は入るからっ!」

「う、うん」


機嫌は直った…のか?よく分からんが次の工程に行こう。

次はクレーの番。クレーの作業は泡だて器で溶きほぐし、牛乳を加えて混ぜ合わせる作業だ。

クレーは泡だて器片手にもう片方の手でボウルを掴み、思いっきり溶きほぐした。そのせいで至る所に卵が飛び散った。台所や近くの壁にまで卵が…。


(これはまずい)

母は急いでレクチャーに入る。


「クレー? 今のよりももう少しゆっくりでも出来るよ?」

「え? じゃ、一緒にやって」

「いいよ」


クレーさんや、他人に丸投げしないのは偉いと思う。

一緒にやって無事牛乳まで入れて、ホットケーキミックスを投入し、かき混ぜ、バターも投入してさらにかき混ぜる。そして、生地をザルで二回こして生地は完成。次からは生地を焼く工程に入る。


生地を焼く工程は火を扱うので、ミルとクレーは横で眺めている。


「ねぇ、ミル。ミルクレープ美味しく出来るかな?」

「順番通りにやっているんだし、万が一の事が無ければ出来るんじゃないか?」

話をしていたら、生地の良いにおいが鼻に届いた。どうやら生地が完成してようだ。生地は五枚。それぞれ五つずつあるミルクレープが作れそうだ。


さて、ここからがミルクレープの最大の特徴である層を作る工程に入る。ミルとクレーはこの時をずっと待っていた。


ミルとクレーの二人でこの作業を行う。ここでは母は見るだけにとどめる。

どっちが生地担当になるか、生クリーム担当になるか決める。決める時に喧嘩なるかと思ったが、じゃんけんで平和に決まった。

ミルが生クリーム担当になり、クレーは生地担当になった。

ミルが皿の上に、一枚目の生地を乗せる。サイズは直径10センチほどの小さなやつ。

その生地の上に、ミルがヘラで生クリームを生地に塗っていく。ヘラで綺麗に生地の上に伸ばしていき、全体に渡ったらクレーが次の生地を乗せる。これを後四回繰り返す。同じ作業だからミスることはない…はず。


数分後。特にミスることが無く無事に五層重なった。所々クリームがはみ出ていたり、凸凹していたりするが手作りなんてこんなもんだろう。

出来上がったミルクレープを母がケーキ用ナイフで三等分に切っていく。断面はミルクレープのそれだった。ちゃんと層になっていた。全体の見た目は少しアレだが成功である。あとは肝心の味だ。

しかし。

「食べるのはもう少し後ね? 冷蔵庫で冷やすから。食べるのはおやつの時間」


ミルとクレーは早く食べたいと言わんばかりの顔でフォークを構えているではないか。いつの間に持ってきたのだろう?


言いながら母は、カットしたミルクレープを冷蔵庫に入れた。

逆にそれを聞いた二人はというと。


(ガーンッ……)


盛大に落ち込んでいた。ちなみに、現在の時刻はお昼になる一時間前。そんなに今すぐにでも食べたかったのか。いや、スイーツが好きすぎるからという線も考えられる。もしや、どっちも?


お昼も過ぎ、外の空気が暖まってきたころ。とうとう二人の待ち望んだおやつの時間になった。


「やたっ!ミルクレープ食べる!」

「ミルクレープ食べたーい!」


ミルとクレーがほとんど同時に行ってきた。冷蔵庫に入れたミルクレープも良い感じに冷えている頃合いだろう。

冷蔵庫から冷えたミルクレープを取り出し机に並べていく。それと同時にミルとクレーの二人は椅子に座る。その時には既にフォークを構えていた。…相変わらず持ってくるのが早いよこの二人。


「食べていいよ」


と、母が呼びかけるも二人は食べださなかった。あまり見ない光景に母は困惑一色。いつもなら真っ先に食べるというのに。


(…??)


「どうかした?」

「……食べるのが、もったいないの」


クレーが口を開いたと思えばそんなことを言った。

そのまま二人は自分たちで作ったミルクレープを少しの間眺め、やっとフォークを動かした。ゆっくりとそれぞれの口に一口サイズミルクレープを運んでいく。


ぱくっ…もぐもぐ……ごくん…。


………。


「「うんまー!」」

満面な笑みで美味しいと叫んだ。


ミルクレープの作成は大成功!

(この後、二人は美味しく平らげとても満足したそうだ。)


完。

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ミル・クレーのおやつ (適当) オララオ @LAO321

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