第6話 学生生活の始まり
入学式を終えた二人はクラス分けを確認するため、第1校舎前に向かった。そこで自分のクラスを確認する物の、平民であるリシリーがAクラスである事に不満を持った貴族男子にリシリーが絡まれてしまった。幸い、イレーナが助けに入った事で事なきを得たのだが……。
あの騒ぎの後、イレーナはリシリーを伴ってAクラスの教室へと向かっていた。その道中で。
「リシリー、大丈夫か?」
「は、はいっ。もう大丈夫ですっ」
イレーナは隣を歩くリシリーの顔を心配そうにのぞき込んだ。それに対してリシリーは笑みを浮かべるが、それは若干引きつった物だった。無理やり笑みを浮かべているのは、イレーナでも分かった。
「リシリー」
それが分かったイレーナは足を止め、リシリーの両肩に手を置くと彼女を自分の方へと向かせた。
「これは、あなたにとっては酷な事かもしれないけど、よく聞いてほしい」
「ッ。な、何でしょうか?」
酷な事、と聞いてリシリーは息を飲み、少し不安そうな表情で問いかけた。
「恐らく、学園の中にはさっきの男のように、平民でありながらAクラスとなったリシリーを快く思わない連中も居るだろう。だからもしリシリーが怪しい輩に絡まれたり、変な事を言われたりしたら、すぐに私に相談するんだ。良いな?」
「そ、そんなっ。そんなの、出来ません。イレーナ様にここまでお世話になっておきながら、更に迷惑をかけるなんて、とても……」
リシリーは申し訳なさそうに目を伏せた。
「迷惑などではないよ、リシリー」
目を伏せる彼女に、心配そうに優しく声を掛けるイレーナ。彼女は徐にリシリーの顎に手を当て、彼女の視線をゆっくりと上げさせた。
「あっ」
リシリーは小さく声を漏らすと、頬を赤く染め少し潤んだ瞳でイレーナを見上げている。
イレーナは左手を彼女の腰に回し、優しく抱き寄せる。
「リシリーが私をどう思っているかは分からないけれど、私はリシリーを友人だと思っている。同じクラスでこれからともに勉学に励む学友だ。クラスメイトだ。だからこそ、リシリーが困っているのなら力になりたい」
「イレーナ、様」
「だからこそ、変な輩に絡まれたり、困った事があったら私を頼りなさい。良いね?」
「は、はい」
リシリーは頬を赤く染め、蕩けた表情でイレーナを見上げながら頷いた。
「よろしい。では行こうか」
「はい」
リシリーの返事に満足したのかイレーナは頷き、リシリーの手を取って歩き出した。
ちなみに、周囲にはがっつり他の生徒たちも居たのだが、完全に二人きりの世界に入っていたリシリーとイレーナは気づかなかった。そしてその生徒たちはというと……。
『『『『なんか初日からメッチャイチャついてる人たちだなぁ』』』』
二人に気づかないふりをしつつ、廊下を歩く生徒たちは同じことを考えていたのだった。
その後、イレーナとリシリーは彼女達の教室へとたどり着いた。既に教室の中には先に来ていた生徒たちが居た。
教室は階段状に机が並んでおり、その前方には巨大な黒板とその前に教壇があった。生徒たちは、それぞれが1人、或いは複数でそれぞれ好きな位置に座っていた。が……。
「ッ、おいあれ」
「あぁ。さっき入り口辺りで揉めてたやつらだろ?」
「……平民でありながらAランク、か」
「ふんっ。平民分際で」
「全くですね」
生徒たちはイレーナとリシリーが入って来るなり二人に目を向けた。しかしそれはどう見てもクラスメイトとして歓迎しているような雰囲気ではなかった。ある者は興味本位、ある者は疑惑。ある者は嫌悪や嘲笑。と言った具合だ。
「………」
だからこそイレーナは無言でリシリーを庇い、特にリシリーを嘲笑うかのような発言をした女生徒とその取り巻きらしい他の女生徒達をキツく睨みつけた。すると睨まれた女生徒はバツの悪そうな表情と共にそっぽを向いた。
『やはり、平民でありながらAクラスとなったリシリーを良く思わない連中も、少なからず居るか』
「あ、あの?イレーナ様?」
「ん?なんだ?」
「そ、その。怖い顔をされていたので、どうしたのかなぁ?と」
「ッ。すまないリシリー」
彼女は声を掛けられ、リシリーの少し怯えたような様子に、『怖がらせてしまったか?』と感じすぐに頭を被り振った。
「さ、さぁリシリー。私たちも席に着こうか」
「あ、はいっ」
話題を変える意味でも、イレーナはそう言って歩き出し、リシリーも続いた。
二人は階段状になっている机の、中央より少し後ろの窓際の席に二人並んで腰を下ろした。そしてそのまましばらく雑談をしていると……。
「は~い、皆さん揃っていらっしゃいますか~?」
不意に閉じていた入り口の扉が開き、紺色の教員服を着た、眼鏡と柔和そうな笑みが目立つ、20代後半か30代前半のような見た目の男性が入って来た。
すると、他の面々と談笑したりしていた生徒たちは、一部は即座に姿勢を正し、一部はゆっくりと姿勢と正した。教員らしい男性は大きなノートらしき物を手に教壇へ立った。
「え~こほんっ。恐らくここにいる人にとっては初めまして、でしょう。私は本年度入学した皆さん、つまり1年生Aクラスの担任である『レイナンド・バートン』と申します。はじめまして」
そう言って軽く会釈をするレイナンドに、生徒たち数人も答えるように軽く会釈をした。
「さて、ではまずは皆さんの出席状況を確認します。名前を呼ばれた人は返事をしてください。え~それではまず……」
そう言って出席確認を始めるレイナンド。幸い、Aクラスは上位クラスだけあって生徒の数はそこまで多くは無い。なので確認も物の数分で終わり、また欠席者は0だった。
「はい。皆さん揃っていますね。では、改めて言わせていただきます。ようこそ、グランス学園へ。あなた達は今日からこの学園の生徒であり、未来の為ここで多くを学ぶ若人です。ここで学んだこと。出会った人との縁。それは皆さんが今よりも成長した時、皆さんの力となるでしょう」
イレーナやリシリー、更に他の生徒たちはレイナンドの話を静かに聞いていた。
「今日という日が、皆さんの新たな門出の日であり、そして新たな試練の始まりでもあります。多くを学び、様々な人と出会い対話し、ここで何を得るか。誰と縁を結ぶか。それら全て、皆さんの努力次第です。私はそんな皆さんの努力を期待します」
そう言って一礼するレイナンド。それに対する生徒たちの態度は様々だった。気合を入れなおすようにビシッと姿勢を正す者。気だるげに息をつく者などなど。イレーナやリシリーは、前者だった。
リシリーは緊張し冷や汗を流しながら。イレーナは真剣な表情で真っすぐレイナンドを見つめながら、話を聞いていた。
「さて。長話は無用でしょう。まずは、本日の予定を説明いたします。入学式を終えて正式にグランス学園の生徒となった皆さんですが、本格的な授業の開始は明日から、となります。本日のこの後の予定ですが、1つ。この後皆さんは私に付いて来て頂いて、皆さんが使う事になるであろう施設の場所を一通りチェックします。
2つ。それが終わり教室に戻って来た後は、授業などに関して細かいガイダンスをここで行います。本日の、この後の大まかな予定はこんな所ですね」
彼の説明を聞いていた生徒の何人かが、成程と言わんばかりに小さく頷いている。
「あぁでも、学園内を案内する前に、一つだけやる事があります。皆さん、学生証はお持ちですね?それを出してください」
と、彼が言うと、イレーナやリシリーを始め生徒たちはカバンやズボンのポケットから学生証を取り出した。
「皆さんが持っている学生証、開いてもらうと分かりますが、まだ学年やクラスの欄が空欄のままです。ですので、まずは空欄に情報を入力します。え~っと確かそのための魔道具がこの辺に~~」
レイナンドは教壇に隠れるように屈みこみ、何かを探しているようだ。
「あぁ、あったあったっ」
再びひょっこりと顔を出したレイナンド。彼のその手には水晶のような物があった。
「え~、ではこれより、この魔道具を使って皆さんの学生証の空欄を埋めますので、一人ずつ、呼ばれた人から前に来てくださいね」
そう言ってレイナンドは一人ずつ生徒を呼び、呼ばれた生徒は教壇の前まで行く。そして水晶のような魔道具に学生証をかざす。そしてレイナンドが水晶に手を触れながら何か呟くと、水晶が光り輝き同時に学生証の空欄部分、学年やクラスの欄が瞬く間に文字で埋まって行った。
そして、イレーナとリシリーの二人も無事に記入を終えて席に戻り、他の生徒たちが終わるのを待っていたのだが……。
「ふふふっ」
リシリーが学生証を見つめながら嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「嬉しそうだな、リシリー」
「あっ、み、見てらっしゃいました、か?」
嬉しそうに笑みを浮かべるリシリーを見つめながらイレーナも微笑を浮かべつつ声を掛けた。すると見られていた事に気づいた彼女は途端に顔を赤くし、学生証で口元を隠しつつ問いかけた。
「あぁ、とても可愛い笑みを浮かべていたな?」
「ッ~~~~!」
イレーナの微笑みと共に可愛いと言われ、リシリーは目を見開き更に顔を赤くした。
「も、もうっ。見ないでくださいっ。恥ずかしいです」
「ははっ、すまんすまん」
恥ずかしそうに窓の方を向くリシリーにイレーナは小さく謝った。
と、そんな雑談じみたことをしている間に、生徒たちの記入作業は終了した。
「さて。では皆さんの学生証に記入も終わりましたし、この後は学園内部の設備について案内しながら説明をしますが、まずはこの教室の設備についてお教えしましょう」
『ん?教室の設備?』
不意に聞こえてきた言葉にイレーナは首を傾げた。他にも数人、生徒たちが『何のこと?』と言わんばかりの表情を浮かべていた。
「皆さん、まずは席を立って後ろへと行って下さい。そこに皆さん用のロッカーが用意されています」
『ロッカー?後ろに?』
レイナンドの説明を受けるとイレーナら生徒たちはそれぞれ席を立ち、後ろへ。階段を上り切り、教室の後ろの壁元まで行ってみると、壁の一部にロッカーがいくつもはめ込まれ並んでいた。
「ロッカーってこれかぁ」
「あれ?でも名札のとこ、空白じゃん」
生徒たちは横に上下2列で並んだロッカーの前に立つが、ロッカーの扉の一部に表札のような物がはめ込まれていたのだが、どれも空白だった。
『ここに名前を書いて自分のロッカーを決めろ、という事だろうか?』
などと考えていたイレーナ。そこへ。
「皆さん。では次に、そのロッカーの扉の、取っ手の上にある小さな水晶に学生証を翳してください。あぁ、場所は好きなロッカーで構いませんよ?』
「え?翳す、って?」
生徒たちの後ろ、階段を上がって来たレイナンドの言葉にリシリーは首を傾げている。
「学生証を、翳す。ここか?」
イレーナは半信半疑ながらも手にしていた学生証を手近なロッカーの水晶部分に翳した。すると突如として水晶が淡い光を放ち、直後真っ白だった表札にイレーナ・クレトリア、と彼女のフルネームが浮かび上がった。
「「「「おぉっ」」」」
それを見ていた周囲の生徒たちが一斉に声を上げた。
「はい、この通りです。実はこのロッカー自体が、一種の魔道具なのですよ。このロッカーの水晶は、皆さんが持つ学生証を認識するための物です。さっき皆さんが空欄の記入の際に使った水晶の、まぁ親戚みたいな物です。そしてロッカーの施錠も学生証が簡単にできます。この水晶が赤く光っている場合はロックが掛かっている状態で、その状態で水晶に学生証を翳すと、ロックが解除され光も赤から緑に変わります。逆に、緑の状態で触れると今度はロックが掛かり光も赤に変わります。さぁ皆さん、ロッカーも数はありますが位置は早い者勝ちですよ」
そう言ってレイナンドが軽く手を叩くと、生徒たちはすぐに思い思いの場所のロッカーの水晶に学生証を翳し始めた。
「なんだかすごいですね、こんな設備があるなんて」
「そうだなぁ。生徒一人に魔道具のロッカー。確かにおいそれと用意できるものではないが。……って、リシリーはロッカーの位置を決めなくて良いのか?」
生徒たちがロッカーの位置を決めていた中、リシリーはイレーナの隣に立ったままだ。まだロッカーに認証をしていない事に気づいてイレーナは問いかけた。
「良いんです私は。もう場所は決めてますから」
そう言うと、リシリーはロッカーに近づき、上下2列あった下の列、イレーナのロッカーの真下のロッカーに学生証を翳し、認証させた。
「はい、これで大丈夫です」
「そうか」
『下段では上段よりも低い位置にあるから物の出し入れがやりにくいだろうが。まぁリシリーがそこで良いのなら、私が何か言う必要もないか』
と、彼女が考え事をしている内に生徒たちのロッカー選びは終了した。
「はい。それでは皆さん。早速ですがロッカーにカバンをしまって、準備が出来ましたら園内の案内を始めますよ」
レイナンドの指示に従い、生徒たちは早速各々のロッカーにカバンをしまい、そして彼を先頭に学園内を見回り始めた。
そして生徒たちの先頭を歩きながら、レイナンドは色々な事を教えた。
レイナンド曰く、主だった授業はそれぞれの教室で受けるため、基本的に授業の度に教室を移動する必要は少ないのだが、グランス学園には様々な科目がある。基本的な座学はもちろん、剣術から魔法、魔道具の開発に関わる物まで多岐にわたる。
1年から2年生の間は、浅く広く様々な事を学び、3年から4年にかけて、生徒たちは自主的に受ける授業を選択する事が出来る。『自分の進みたい道に関わる授業を学ぶも良し。自分の得意な事をさらに伸ばす授業を受けるも良し』、とレイナンドは生徒たちに教えていった。
そんなこんなで案内されたのは、教室以外の施設だった。剣術や格闘技、その他の運動や魔法の授業で使われる大きなグラウンド。各階にある男女別の更衣室。授業の中には専門の道具を扱う物もあるので、そう言った場合に使われる特別教室。生徒であれば無料で利用できる食堂。多種多様な書物が収められた図書館などなど。
あらかたの施設を見て回った後、教室に戻ったイレーナたちは明日から始まる授業の時間割など、今後の学生生活についての大まかな予定や学生生活について気を付ける事などをレイナンドから教えられた。
そして、今日はそう言ったガイダンスだけで終了となった。
「では、本日はここまでとなります。当面は、特に問題などが無ければ皆さんに渡した時間割や年間の予定表の通りに授業や行事などがあります。明日から本格的に授業が始まります。皆さん遅刻などはなさらないよう、気を付けてくださいね。では今日はこれにて」
そう言ってレイナンドは一例をすると、教室を後にした。彼が教室を出ていくと、生徒たちはすぐに思い思いの行動に移った。
手早く荷物をまとめて教室を出ていく者。他の者と談笑し始める者など。
「ふぅ。本日はこれで終わり、という事だったが、リシリー。君はこれからどうする?」
「そう、ですね。私は、帰る前に食堂に寄って行くつもりです」
「食堂に?」
リシリーの言葉が予想外だったため、イレーナは思わず小首を傾げた。
「じ、実はその、緊張して朝食を殆ど食べられなくて、今は、そのぉ」
と、顔を赤くしつつ恥ずかしそうに話していたリシリーだったが……。
『クゥ~~』
「ッッ!?」
次の瞬間、彼女のお腹からなんとも可愛らしい悲鳴が漏れた。瞬く間に顔を真っ赤にしてプルプルと震えだすリシリー。それを聞いてしまったイレーナはというと……。
「そうだなぁ。私も腹が空いて来たし、良い時間だ。私も食堂に行くとしよう」
「う、うぅ」
彼女をフォローするように笑みを浮かべるイレーナ。対してリシリーは羞恥心から顔を真っ赤にしていた。
その後、2人は一緒に食堂へと向かった。先ほどレイナンドに案内された時は生徒たちの姿は無く閑散としていたが、今はどうやら他の学年の生徒たちも昼食を取っている時間なのか、広い空間に置かれた無数の椅子とテーブルにそこそこの数の生徒たちが座り食事を取っていた。
そんな中イレーナとリシリーは入り口近くの壁に掛けられていたメニュー表を見ていた。
ここの食堂は先に注文を決め、窓口で注文し出来上がった物を別の窓口で受け取る、という方式を取っていた。
メニュー表を見て、料理を決めた二人は受付窓口で料理を注文し、少し待った後、料理の乗ったトレーを手に空いていた場所を探し、丁度小さいテーブルを一つ挟んで、向き合うように椅子が配置された場所へと腰を下ろした。
「さて、ではいただくとしようか」
「はいっ」
二人は早速食事を始めた。イレーナはシンプルにミートパスタ。リシリーはオムライスだ。
「んっ!これ、凄く美味しいですっ!」
スプーンでオムライスを掬い、口に運んで一口食べると、リシリーは美味しそうに笑みを浮かべた。
「それは何よりだな。食事は美味しい事に越した事はない」
「はいっ!」
お腹が減っていたのもあってか、リシリーは本当においしそうにオムライスを食していく。が……。
『ん?』
イレーナは、リシリーのほっぺにケチャップが付いている事に気づいた。しかし肝心の彼女は今も美味しそうにオムライスを頬張るばかりで気づいている様子は無い。
『やれやれ』
仕方ないなぁ、と言わんばかりに微笑を浮かべたイレーナはフォークを置くと身を乗り出し、リシリーの顔へと手を伸ばした。
「んぐっ!?い、イレーナ様っ!?」
ちょうど食べていた物を飲み込んだ直後、見るとイレーナの手が迫っていた事に驚いて慌てるリシリー。
「じっとしていろ」
「ひゃ、ひゃいっ!」
突然の事に訳も変わらず顔を赤くしたまま頷くリシリー。目を閉じ少し震える彼女の頬に付いたケチャップを、イレーナは優しく指で拭った。
「ふ、ふぇ?」
「ふふっ。頬に付いていたぞ?」
目を開け、状況が分からない様子だったリシリーに微笑みかけながら、イレーナは指先のケチャップを舐めとった。
「ッ!あ、あぁ、ありがとうございますっ!」
どうやら頬にケチャップが付いていた事に気づかなかったのが恥ずかしいのか、リシリーは顔を真っ赤にして俯いたまま食事を再開した。そんな姿を微笑ましそうに見守りながらイレーナも食事を再開するのだが……。
「おいっ、あれだろ?1年で平民のAクラスの女って言うの」
「平民がAクラスとはな。面白くない話だ」
その時、イレーナの耳に小さく聞こえてきた話し声。彼女は素早く周囲に目を向けた。見ると、複数の生徒たちがリシリーを見つめていた。
だがそれは一目惚れや、彼女に見惚れていた、などという物ではない。Aクラスである事への嫉妬、平民という立場への侮蔑。そう言った類の視線だった。
そしてそれに気づいたイレーナは、今も顔を赤くしながらオムライスを食べるリシリーへ目を向けた。
『彼女に、何も無ければ良いのだが』
入学式という晴れやかな日を迎えたはずが、彼女の胸にあるのは、リシリーの心配だった。
『せめて私が守ろう。あの日出会った、友人として』
イレーナはそんなことを考えながら、一方で一抹の不安を覚えていたのだった。
第6話 END
貴族令嬢の女剣士、いつの間にか百合ハーレム作っちゃったっ!? @yuuki009
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