第5回 たまにやる気を出す:AI翻訳のことなど

 Mirror Crack’dの読書は順調に進んで、50%を超えました。折り返し地点を通過した今、ちょっと立ち止まってみたいと思います。


 今回で第5回、前書き的部分を含めれば第6回目なのですが、あまりにも物語の内容に触れてなさすぎでは? そういう懸念が浮かんだからです。切り取った部分は多少ご紹介しましたが、最初に自分が今読んでいる物語のあらすじのような基本情報すら提示していないというのは、手抜きのそしりを免れないのではないかと。


 訳さないというのがこのエッセイにおけるポリシーです。だからといって原文からがさーっとまとまった分量を抜き出して、さあ読めと突き出すのも雑過ぎで、著作権を侵害しない範囲での「引用」から逸脱してしまう恐れもあります。


 翻訳はしないと言いながら、これまで要約はけっこうしてしまっていて、それも結局日本語の介入に他ならないではないかとも思ったりします。だから、今さら日本語のあらすじを提示するのもねえ。


 なので、今回はThe Mirror Crack'd from Side to Sideのあらすじを英語でご紹介したいと思います。もちろん、読み終えている50%分だけを。わざわざ断るまでもないでしょうが、わたしは完璧な英語なんて書けませんので、あしからず。


 英語が母語でないものが書いた英文を読む意味があるのか。


 当然の疑問です。

 趣味で勉強している、とりあえず自分の英語力を高めたい、そんなときは文法的誤りを含む英文なんて読んでもほぼ無意味でしょう。ただ、英語は世界言語であり、勉強しているひとがたくさんいます。英語を完璧に操ることができる英語ネイティブよりも、ブロークンな英語でしか発信できない人の方がはるかに多いのです。わたしも、その一人です。

 ビジネスで取引する相手も、そんな人々かもしれません。彼らは完璧ではない英文のe-mailを送ってきますし、母国語訛りでややわかり辛い英語を話します。わたしの英語がそうであるように。

 

 前置きが長くなりましたが、まあなんとなくリーディング以外の英語のエクササイズがしたくなったのだと思ってください。わたしが書いたあらすじは、無理に読まなくても大丈夫です。


 あらすじ作成は以下のルールに則って行います:


① 辞書はスペルチェック以外では使用しない。

② 200ワードを超えない。

③ 先に日本語で作成した文を英訳するのは不可。


 英作文でもやはり翻訳はなしで。わたしの日本語力は英語より高いのです。当然英語でなんと表現したらいいのかわからない語彙もたくさん知っていて、最初に日本語で文章を書けばそういう言葉を無自覚に使ってしまうでしょう。それで結局辞書を引く羽目になるのですが……はじめから英語で文章を考えていれば、自分が既に知っている表現しか使えません。これは既存の英語の知識を引き出し、運用する訓練に重きを置いています。


 このやり方だと、新しい語彙が全く増えないのではないではないか。


 そうですね。

 語彙を増やしたい時は、読んでいる本なり新聞記事なんかから未知の単語を辞書(英英)で調べて、その単語を含む一文ごと抜き出して単語帳にしたためていました。単語だけ覚えても使えるようにならないというか。せっかくそこに生きた例文があるのだから、活用しない手はありません。このやり方ですぐにWritingやSpeakingに活用できるわけではないし、やたら手間暇はかかりますが、自分は「出る単」みたいに羅列された単語を闇雲に暗記することを強いられるような勉強法は本当に苦手で。


 以下がMirror Crack’dの前半のあらすじ、197ワードです(若干のネタバレが含まれます):


One might believe Miss Marple, a renowned amateur sleuth, will remain forever at the age of 65 or so. The Mirror Crack’d from Side to Side shows it is not true. Here, she is quite weak due to recent illness (bronchitis). A doctor ordered her not to go out by herself. She does go strolling alone and fall. Kind, but annoying Mrs. Badcock rescues her. Later, her savior dies of what seems like acute heart attack at a party held at Gossington Hall. The big house used to be home of Miss Marple’s friend Mrs. Bantry. A current owner is a famous actress Marina Gregg and Mrs. Badcock was a big fan of the actress. A postmortem indicates she was killed by a poisoned cocktail. Police investigation begins. Chief-Inspector Craddock is a devotee of Miss Marple and consults her at once. She sends him to Mrs. Bantry who attended the party and witnessed that shortly before Badcock fell unconscious, the famous actress had been in some kind of shock while talking to Mrs. Badcock. As he goes interviewing involved parties, Craddock is convinced that the poisoned cocktail had been meant for someone else, not for Mrs. Badcock.


 ああ……。

 現在の生活、英語で文章を書く必要がなくなって久しいので、すっかり錆びついてしまっています。しかもこれは、あまりに出来の悪さにショックを受けて、もう一回書いてみたVersion 2です。

 嘆いていても仕方ないので、今後はもう少し英作文をするようにしましょう。一文は短めに、butやand、howeverを多用しない。そんなことすらも忘れてしまっていました。昔苦労して覚えた語彙も使わなければどんどん忘れてしまうので、少しでも歯止めをかける努力をしないと、洋書を読むことにも支障をきたすようになります。


 とりあえず自力で書きあげた後に、単語やフレーズの用法が正しいかどうか辞書で調べ、作文をブラッシュアップするのは効果的です。要するに、何でもかんでも最初から辞書に頼るのは好ましくないというだけでなので。


 今時はChatGPTなるAI翻訳があるのだから、英作文なんて馬鹿らしい、そう思う人もいるかもしれませんが、現状でああいうものを使いこなすことができるのは、相当に高い英語力を持った人だけだと思っています。


 なぜか?


 実に単純な話で、AI翻訳の性能が現状で100%ではないからです。科学の進歩は著しいですが、いずれは100%になる、あるいは限りなく100に近くなる日が果たしてくるのでしょうか。

 わたしはChatなんちゃらを使ったことはありませんが、Twitterの英語による長文投稿を横着してGoogle翻訳して読むことはたまにあります。あれ、瞬時に和訳が現れて、しかも結構な高精度ですね。驚きです。

 ただ、なかなかの精度ではあっても、やはり100%ではありません。へえ、うまいこと訳すじゃん、と感心することもあれば、文脈を全く無視かよ、と呆れ果てるひどいできのときもあります。

 仮に80%程度の精度で翻訳できるAIを使った場合、どこかに潜んでいるかもしれない誤りを見つけるために、結局全文をチェックする必要が生じます。契約書のように、わずかな言葉のあやでも甚大な損害をもたらしかねない重要な文書を翻訳する際に、AIに任せきりなんてことは、恐ろしくてとてもできません。結局、高い英語の能力を持った人間による確認作業が必須になります。


 あ、それから、守秘義務が生じるようなデータは、オンラインの無料機械翻訳に突っ込んではいけません。守秘義務違反になってしまいますからね。米国ではインターネット上の個人情報をAI学習用に勝手に利用されていると、訴訟が起きています。

 以前、請負で翻訳仕事をしていた時、翻訳会社(依頼人と翻訳者の間に入って仕事を斡旋する)から「ちょっと~あなたたち、駄目だって言ったのにGoogle翻訳とか使った人いるでしょ? 怒らないから申告してね~(意訳)」というメールが全翻訳者宛に送られてきたことがありました。


 素直に申告したら、怒られるパターンですね。


 わたしは使ってなかったので無関係なのですが、いい歳をした社会人のくせに非常識な人間がいたものだ、と呆れ果てました。


 個人の英語の勉強なんかにまったく活用できないわけではないでしょうが、時々しれっと嘘をつく(AIに嘘をついているという感覚はないでしょうが、それ故にサイコパスのような不気味さがある)ような相手とは距離を置くのが一番です。


 でも、こういう問題は、今に始まったことではないですね。

 もうすっかり現代人の生活に定着しているWikipedia。あれは非常に便利なもので、自分もちょっとした調べものに使うことがあります。ただ、Wikipediaは「誰でも編集できるフリー百科事典」という性質上、たまに間違っていることがあります。気付いていないだけで、たまにどころではないかもしれません。なんなら悪意を持って意図的に偽情報を世界に向けて発信することだってできてしまう危険なツールです。

 少々前のことですが、どこかの国の歴史の試験で、複数人が間違った回答をしたが、その間違え方がみな似通っていた。すわ集団カンニングか、と調査してみたら、全員Wikipediaの同じページを参照して勉強しており、その記述に誤りがあった、と。


 だから宿題や試験勉強、仕事のためにWikipediaやAIは頼らない方が安全です。AI翻訳やWikipedia情報を鵜呑みにしてレポートで落第したり仕事の上で深刻な間違いが起きたりした時でも、誰も責任をとってくれませんから。

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