第6話 人間達の反撃

 ゴブリン族の一人を殺した武器は、十数発の銃弾だった。


 ゴブリン族に引き金を引いた兵士達は、いずれも機関銃を手にしていた。

 顔をヘルメットで覆い、黒一色の服に身を包み、動作を妨げない体の部位には強い衝撃から身を守るための装甲が装備されていた。

 顔を完全に覆ったマスクの下は国籍も人種も統一されていない。会話言語に関しては、英語と日本語の混ざる会話を行っていた。


 「対象モンスターA、クリア」


 続いて、他のゴブリンに狙いを定めて冷静に片付ける。

 ゴブリン族は銃弾に対して効果はあるようで、手応えは人間と変わらない。

 タタタ、タタタタ、引き金を引けば狼狽えるゴブリン族を無駄弾を撃つことなく処分していく。


 「他のモンスター共も、こちらに気付いたようだぞ」


 隊長格の兵士の通信により、身を低くして兵士達はその場に密集する。


 「鳥女が来るぞ」


 捕食していた人間達をその場に捨て去り、ハーピィ族は銃を構えた兵士達に飛び掛かる。

 その場に居た兵士達は、ある人物から事前にモンスターの出現と対策を幾つか教えてもらっていた。

 詳細な情報は少なかったものの共通していることがあった。


 ――モンスターが何かアクションを起こす前に殺せ。


 意識するのは部隊の仲間達が引き金を引くタイミングだけだ。

 我先に飛翔して鉤爪を突き出してきたのは三体の鳥女ハーピィに瞬時に引き金を引いた。


 「撃てっ!」


 人間よりも頑丈な皮膚を持っていたハーピィ族にも油断があったのだろう。しかし、兵士達が手にしている機関銃は最初から人間を想定していない暴力的な破壊力を持った銃弾だった。


 血飛沫と共に羽が空に舞い上がり、その凶悪な顎ごと銃弾で抉られ、態勢を崩すハーピィ族達には弾倉を入れ替えたばかりの機関銃が再度火を吹いた。

 手足が細かく分裂し、脳漿のうしょうをぶちまけて、本来の形を失ったハーピィ族達の肉体を弾丸で撃ち砕いた。

 兵士の一人が思い起こす、モンスターとの戦いを教えてくれた人物が言っていた。


 ――モンスターを、こちらの生物と同じ枠組みで考えるな。首を折っても、四肢を切断しても、頭を潰しても、心臓が停止しても、攻撃の手を緩めるな。


 兵士の多くはその言葉を噛みしめ、納得していた。

 目の前のハーピィ族は、恐ろしい生命力を発揮しつつ、腰から下を失ってなお這いずりながらも近づいてくる。

 最早そこに人間を惑わすハーピィ族の美形はない。暴食の成れの果てがそこにあるだけだ。

 一切の同情もなく機関銃がハーピィ族達を完膚なきまでに粉砕した。





 ゴブリン族が殺されたタイミングで、すぐさま近くの路地裏に身を潜めたのは、ザガドを含めた五人のリザードマン族とトルカとノヴァクだ。


 「まさか……アレが、破壊者か」


 的外れなトルカの発言に、ザガドは大げさに肩をすくませた。


 「よく見ろ、俺達が王に見せられたのは人間のガキだ。背格好もだが、人数が多すぎる。俺が考えるに、こちらの世界の兵士てところだろ」


 冷静なザガドの話を聞いていると、トルカはもちろんノヴァクも平静を取り戻してくる。

 ザガドの言う通り、あの黒服の連中をよく見ていると、王国の兵士達の鎧を装備しているようにも思える。両手に持った飛び道具は弓矢とは違うが、強力な飛び道具の類だろう。


 「ザガド、あの人間達の攻撃見えたか」


 「気が合うな、俺もお前に同じことを訊ねようとしていたところだ」


 ハーピィ族は弓矢程度なら数発受けても死ぬことはない。むしろ次の攻撃を撃つ隙を狙って攻撃を行うだろう。しかし、次の攻撃を用意するまでの時間の無駄がなかったことに加えて、想像を上回る強烈な攻撃を前にしてなす術も無かったのだろう。そして、それはオーク族も同じことだ。


 「ノヴァク! あそこを見ろ!」


 トルカに肩を掴まれて、強引にノヴァクの視線は外側に目がいく。

 人間達を嬲っていた三体のオーク族達に兵士の銃口が向けられていた。三人はノヴァクやトルカよりも若い、それだけこの危険な状況を理解できていない。

 ゴブリン族は全滅、残っていた二体のハーピィ族は上空に姿を消した。スライム族も、兵士の武器の音に驚いてどこかへと雲隠れした。

 呑気なのはオーク族の若造だけだ。

 

 「あ、あいつら……!」


 「静かにしろ、トルカっ!」

 

 「け、けれど、あのまま放置してたらあいつら死んじまう」


 「それは分かってる! 分かってはいるが、正面から行っても助けようが……」


 欲望に流された結果だ自業自得と言えばそれまでだったが、ノヴァクからしても子供の頃から知っている彼らが無惨に殺害されるのは簡単に割り切れる問題ではなかった。

 視界の隅には損壊の激しい魔族の遺体が転がっている。

 それが目に入る度に、自分の未来の姿を見せつけられているようでノヴァクの思考は停止しそうになった。


 「――おい、何をうだうだしてやがる。あの黒服共を狩るぞ」


 自分が発言したものではない、それは意外な人物の――ザガドの言葉だった。


 「ザガド、本気で言ってるのか」


 「当たり前だ、奴らは貴重な戦力だ。これ以上戦力が減るなら、標的と戦う前に終わりだ。それに今だって、ああして囮になってくれている」


 「……勝機はあるのか」


 「勝機しかねえよ、それこそ、ここで行かなかったら奴らの次の標的は俺達だよ。あの目で追えない速さの弓矢を所持していることと、ゴブリン族を殲滅した奴らは油断している、奇襲をするなら今だ……ここで俺達の不意打ちが成功したら、あの黒服共を倒せるかもしれねえだろ」


 感情論で動いてる訳ではないことに気付いたノヴァクは、トルカと周辺のリザードマン族の表情を確認した。

 トルカは臆病なところもあるが覚悟をしてきたようで、むしろやる気になっているようだった。他のリザードマン族も、戦士長に従うとばかりにただ会話に耳を傾けていた。


 「逆に言えば勝機があるのは今だけ、てことか」


 「その通りだ、察しが良くて助かる。オーク族のガキ共の生死に興味はねえが、奴らは阿呆なゴブリン共よりも使える駒だ。少しでも破壊者のガキを殺す確率を上げるために助けに行くさ。後は好きにしろ、俺達は勝手に行く」


 さも当然であるかのように動き出すリザードマン族達。

 ノヴァクとトルカは互いに視線を交わして彼の後に続いた。

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