第4話 謎の新聞記者

 川北氏にとってのロボット開発は、まさしく、

「人間型になるべく近づくロボットの開発」

 であった。

 もちろん、種々の問題から、不可能と言われるものであるのは、

「タイムマシン開発」

 と同じようなものだった。

 タイムマシンというと、パラドックスの問題から、ずっと昔からありえないことのように思われていたのは、浦島太郎の話でも分かることだった。

 だが、それは理論的な考えであり。ロボット開発においては、もっとリアルな考え方によるものではないだろうか。

 ロボット開発にはタイムパラドックスのようなものhない。過去に行って歴史を変えると、戻る場所がなくなるという、理論上は説得力はあるが、その証明をすることができないというあまりにも漠然とした、限りなくリアルに近い妄想だと言えるのではないだろうか。

 ロボットの場合は、ロボットを作ったとして、コンピュータができる計算くらいは簡単にこなせるはずで、頭の回転の素早さは人間の比ではないに違いない。

 しかし、ロボット開発には、これも開けてはいけない

「パンドラの匣」

 とでもいうような、結界が存在する。

「一番の問題が、開発したロボットが狂ってしまったらどうすればいいんだ?」

 ということである。

 これは、フランケンシュタイン症候群とも言われていて、人間のためになるアンドロイドを作ろうとして、ちょっとした手違いから、怪物を作ってしまったことでの教訓であるが、その教訓が人間の頭の中に、

「人類のトラウマ」

 として刻み込まれたのか、その後、ロボット開発における、

「ロボット工学三原則」

 なる考え方が生まれてくることになった。

 あくまでも、それは、人間をターゲットにした、ロボットの戒律のようなものである。

 三つか戒律を破ることは絶対に許されないというもので、これが完全に機能するロボットでなければ、作ってはいけないのだった。

 これはあくまでもロボットの安全性についての問題であるが、そもそもロボット開発が理論的に無理ではないかと言われるゆえんも存在する。

 これが、一種の、

「フレーム問題」

 と言われるもので、こちらはタイムマシンのパラドックスのように、理論的に不可能ではないかと言われるゆえんの発想であった。

 ロボットに何か命令をした場合、たとえば、

洞窟の中に燃料があるので、その燃料を取ってくるように」

 という命令をしたとする。

 ロボットは、洞窟の中で、そこにある燃料を認識したが、その下に別の箱があるのが分かった。その箱が爆弾であるということも分かっている。つまり、ロボットが燃料を運ぶために、燃料を持ち上げれば、爆弾が爆発するという、人間の大人が考えればすぐに分かるようなちゃちい仕掛けであったが、そのロボットは迷わず燃料の箱を持ち上げて、結局爆発してしまった。要するに、爆発するのは分かっていたが、そこまでの知能がなかったということにある。

 次に開発した二号には、ロボットに先を予知する力を与えたのだが、そのままフリーズしてしまい、何もできずにその場にいて、結局時限爆弾なので、そのまま爆破に巻き込まれたのだ。

 ロボットのいわゆるボイスレコーダーともいうべき、知能の記憶装置には、その時のロボットの考え方が、残っていた。

 ロボットは、箱を持ち上げたらどうなるかをいろいろ模索して考えたようだ、その中には、壁が白くなったら、とか、持ち上げた瞬間、別の世界が開けたら、などというまったく考えないでもいいことまで考えてしまった。

 つまりは、次の瞬間、何が起こるか分からない状況であるということだ。可能性は無限にある。その無限の可能性を高速で計算したとしても、結論など出るはずもない。

 そこで考えたのは、

「人間のように、その場その場をパターンに分けて、考えられるようにロボットの知能を変えればいいという発想が出てきたが、考えてみれば、次に起こることが無限だということであれば、そのパターンも無限にあるというわけである、つまり、いくらパターンでゾーンを決めても、結局無限地獄から抜けることは不可能なのだ。

 この場合のパターンやゾーンのことを、フレームという言葉で表し、このような問題のことを、

「フレーム問題:

 と表現するのだった。

 人間が、このフレーム問題に無意識で解決できる理由は謎であるが、ロボットにはこのフレーム問題を解決することはできない。

 ロボットを作り出す人間に、そのメカニズムが分かっていないのだから、それも当然と言えるであろう。

 このような、フレーム問題であったり、ロボット工学三原則のようなものが解決できなければ、永久に人間がロボットを作り上げることなどできないのだ。

 リアルな問題というのは、このフレーム問題のことで、タイムマシンにおけるタイムパラドックスと同じような解釈だと思っていいだろう。

 川北氏の考えた発想は、直接ロボットやタイムマシンに関係があるというわけではないが、どちらかというと、この発想から、ロボットやタイムマシン開発の何か糸口が見つからないかという程度のものだった。

 それでも、

「数十年に一度の大発見」

 とまで称されたものであり、

 川北氏が考えた研究の概略とすれば、

「すべてのモノはある周波数に共鳴するようにできていて、その周波数に合わせれば、最終的には自在に動かすことができる」

 というものだ。

「そんなのリモコンと同じではないか」

 と言われるであろうが、すべてのものの共通性を見つけ。ある程度まで周波数により、遠隔である程度の動きができるようにするのであれば、ロボットが知能を持たなくても、人間がコントロールすればいいという考え方である。

 ただ、ここにもそれなりにフレーム問題が絡んでくるのだろうが、ロボット独自に何かを考えるわけではなく。指示を出すのが人間なので、これなら、ロボット開発における、当初の目的は達成できるだろう。

 しかもロボットというものは、ロボット工学三原則を埋め込んで、人間に危害を加えないようにしなければいけないという課題も、最終的には人間の意志で動くのであれば、その問題は解消する。ただし、三原則の組み込みは絶対に必須ではあるが……。

 川北氏は、この研究において、第一人者であった、勝沼博士の後継者として一人前になった。それが証明されたのであって、理由あって殺してしまったことになっているが、博士の意志を継いだことで、ある程度、懺悔になったのではないだろうか。

 先ほどからよく出てくるいわゆる、

「ロボット工学三原則」

 というものが何であるか、

 これは、実は学者が提唱したものではなく、アメリカのSF、ミステリー作家が、今から半世紀以上も前に提唱した、

「小説のネタ」

 に過ぎなかった。

 だが、あまりにもよく考えられていることで、その後の日本においても、アニメーション、特撮などの発展とともに、ロボットものにおいては、この三原則を中心に描かれたものが多かった。

 特に勧善懲悪なるストーリーものには、よく描かれていて、あくまでも、

「人間が考えた、人間のためのロボットへの戒律」

 となっていた。

 これは、三原則という言葉どおり、三つの条文からなっていて。ここからが問題なのだが、最初を最優先として、すべてに優先順位がつけられていた。

 まず最初の条文は、

「ロボットは人間を傷つけてはいけない」

 というもので、さらに、補足として、

「人が傷つくことが分かっていて、それを黙って見過ごしてはいけない」

 という条文もあった。

 この二つはすべての状態に対して接待的に優先されるものである。さらに、第二条として、

「ロボットは人間のいうことに従わなければいけない」

 というものがある。

 ただし、これは第一条の次の優先順位なので、

「人(支持する相手)を殺しなさい」

 という命令は、第一条に抵触するので、その命令を聞いてはいけないということになる。

 そして第三条であるが、

「ロボットは自分の身は自分で守らなければいけない」

 というものがある。

 これも、第一条、第二条に抵触しない限りの優先順位なのだが、これは、ロボットを守るためというよりも、ロボット開発にお金がかかっているので、ロボットに勝手に壊れられてしまうと、その分のお金が無駄になるという、どこまでも人間のための戒律らしさを示していると言えるのではないだろうか。

 つまり、人間でいえば、理性とも言えるこの感覚を組み込んでおかないと、人間並みの判断ができず、ロボットだけに判断を任せられないということになる。

 ただ、もう一つの問題としては、いくら思考能力が備わったとしても、理性がなければ、人間に近づくことはできないという意味と、

「人間が作ったものなので、人間と同じ野望を持ったりすると、人間よりもより強力な力を追っているロボットだけに、制御不能になる」

 ということだ。

 裏を返せば、それだけ、

「人間というものほど恐ろしいものはない」

 ということの証明であると言えるのではないだろうか。

 そのようなタイムマシンや、ロボット開発などと違って、川北助教授の研究は、規模の小さなものなのかも知れない。

 しかし、一足飛びにタイムマシンやロボットを開発するわけではなく、それらの研究に携わるための、途中の段階として考えられた、

「周波数」

 という発想は、今の時代だからこそ、有効なのではないだろうか。

 もっとも、タイムマシンにしても、ロボット開発にしても、その前提となる問題を解決しなければいけないというのも、それだけ人間の考えが、群を抜いて優れたものであるという裏返しなのかも知れない。

 ただ、それだけ人間というのは脆いものであり、それは肉体的にも精神的にもどちらに対してもその脆弱性を表していると言えるのであないだろうか。

 博士が、周波数というものにヒントを得たのは、コウモリの発想と、もう一つは、何かのトリックで見た覚えがあった、

「共鳴振動」

 という発想であった。

 あの話は、この「共鳴振動」という発想を用いて、人を殺すことで、自分のアリバイを作るというものであったが、これは、

「この世のすべては、振動している」

 という発想から来るものだった。

 つまり、音や振動には、モノを動かす力もあれば、振動やその周波数によって、言葉として人間同士が会話できるというものである。

 だから、音が出なかったり、人に知られない特殊な周波数を遣えば、誰に知られることもなく、操ることができる。つまりは、ロボットのような作用をもたらす基礎になるという考えである。

 そう考えると、人間の思考も一種の周波数だとは言えないだろうか?

 ある一定の周波数の組み合わせによって、人間は思考し、次の瞬間、何が起こるのか、そして何をしなければいけないのかということを瞬時に判断できる能力を持っているというのは、この周波数の影響によるものだと考えれば、フレーム問題という鉄壁に見えるロボット開発への障害を打ち砕くことになるであろう一石を投じれることも可能なのではないだろうか。

 人間には言葉がああり、人間同士であれば通用するのは、きっと人間に分かる周波数を用いているからであって、逆にイヌやネコなどと言った。

「ワンワン」であったり、「ニャンニャン」という風にしか聞こえないために、何を言っているか分からないことであっても、相手が同種の動物であれヴば、理解できる周波数なのかも知れない。

 そう考えると、言葉をしゃべったり、鳴き声を出すことのできない動物や昆虫、あるいは植物に至るまで、人間には聞こえないという特殊の周波数を持っているのだとすると、周波数という考え方ひとつで、何でも解釈できることになると考えれば、

「昆虫や植物などの、鳴き声さえない動植物は下等なものでしかない」

 という定説は、まったく覆ることになるのではないだろうか。

 こちらの方が人間中心に考えているから思いつく発想であって、むしろいわゆる一般的に考えると、

「人間には分からない言葉を発しているだけだ」

 という発想はあっても、どうしても最後は、相手を下等なものとして解釈することになってしまう。

「それこそ人間のエゴだ」

 と言えるのではないだろうか。

 この発想は、コウモリの発想にも繋がってくる。

 コウモリという動物は、目が退化してしまっていて、視力がない。そのために、超音波を発して、その反射で、障害物や何かを見分けてぶち当たることなく飛んでいる。それが科学の世界でいう、

「レーダーやソナー」

 というものだと解釈できるのだろうが、コウモリのように、声を発しない動物が超音波を発するのだから、声を出せないと思われている生物は、

「万物は振動している」

 という発想と関連できるのではないかと言えるのではないだろうか。

 また、コウモリには目が見えないという欠点のために、生き残るための知恵を持っているようである。

 もちろん、童話(イソップ童話らしいが)の中に出てくる話であるが、分類学上では哺乳類に属するコウモリには、鳥のような飛行能力が備わっている。そのため、鳥と獣が争う仲、コウモリはどちらにもいい顔をするのだが、結果として、どちらからも嫌われるという、

「卑怯なコウモリ」

 という話もあるが、これも生き残るための手段だと考えれば、十分に理解できるものであり、、

「卑怯」

 と言えるかどうか、難しい解釈を迫られる。

 もっとも、分類学上というものは勝手に人間が線引きしたものであるから、

「哺乳類なのに、鳥のような特性」

 と言っても、違和感があるのは人間だけであり、他の動物は、別におかしな分類であるとは思っていないだろう。

 むしろ人間の方が、自然界の中で特殊なものであり、

「知恵を持っている分、一番の高等動物だ」

 という発想は人間の人間たるゆえんでしかなく、人間にはなく、他の動物には備わっているものがたくさんあることが、知恵というものに匹敵すると言えるのではないだろうか?

 周波数の研究は、そもそも勝沼博士が提唱していたことだった。

「共鳴振動や、弁物がすべて、振動というものを持っているという発想は、私にとって、一生涯の研究材料になるものだ。きっと一つが証明されたとしても、それはあくまでも最初の証明でしかなく、そこから次々と実用化に繋がるものができてくるんだ。だから、私は最初の章名を成し遂げて、パイオニアになりたい。それができれば、ノーベル賞ものなんだろうね」

 と以前、雑誌のインタビューで言っていたことがあった。

 教授は何も、ノーベル賞が欲しいわけではない。ノーベル賞というのは、一種の建前で、それよりも、名声としての「レジェンド」という言葉がほしいのかも知れない。科学者の中で、

「共鳴証明と言えば、『プロフェッショナル勝沼』と言われるようなそんな存在にであった」

 しかし、彼は不幸にも癌になってしまい、余命まで宣告されてしまった。まだハッキリと余命を示される前、勝沼博士は川北助教授を研究室に呼んだことがあった。勝沼博士の研究室は、ある意味少数精鋭であり、教授と呼ばれる人間は勝沼博士しかいなかった。つまり勝沼研究室のナンバーツーは川北氏であり、元々博士に何かあれば、研究室を支えていくのは、川北氏であった。

 川北氏は当時まだ三十歳だった。まだ助手という程度のことしかできず、とても研究所を支えていくだけの力があるわけではない。

 しかし、勝沼研究所には、顧問弁護士としての佐久間弁護士が控えていた。元々、研究が成果を挙げた時に、特許の問題などで協力してもらおうと思っていた程度の、顧問弁護押しというほど、常駐していたわけではない。非常勤の取り締まりという程度のものであったが、勝沼博士が癌の宣告を受けたあたりから、佐久間弁護士に急速に接近し、常駐の顧問弁護士にしてしまった。

 勝沼博士が佐久間弁護士にどれほど期待していたかというのは、博士の遺言書を見ればよく分かる。

 顧問弁護士として自分が死んだ後の、すべての段取りを任せること、そして、川北氏に残したような遺産を、佐久間弁護士にも残している。

 元々、勝沼博士は親の代から、かなりの遺産を相続していて、とてもではないが、一代で使い切るなどできないほどだった。

 しかも、研究に没頭する博士は、物欲はほとんどなく、親からの遺産、ほとんど手つかずの状態で残っていた。

 そんな博士は、子供がいなかったこともあって、佐久間弁護士と川北氏をまるで自分の息子のように感じていたことだろう。

 その思いは佐久間弁護士には伝わっていたのだろうが、川北氏にどれほど伝わっていたのか分からない。

 それらの人間関係については、警察の方で、勝沼博士が殺された時、聞き込みなどである程度まで分かっていた。だから、遺産相続という意味で、一応容疑者の一人として佐久間弁護士も捜査線上に浮かんだのだが、聞き込みを続けるうちに、すぐに捜査線上から消えることになったのだ。

 佐久間弁護士が博士に呼ばれたその時、

「私は、もう長くはない。君に研究以外のすべてを任せたい。研究所の所長は川北君にお願いするつもりでいるんだが、研究所に関しては、川北君を支えてやってほしい。そしてそれ以外の私の財産などの管理は君に任せたいんだ。それについての遺言も書くつもりだ。きっとあまり時間もないだろうから、早急に進めていきたい。だから、何とか協力願えないだろうか?」

 と言われた。

「何をおっしゃっているんですか。私にお任せください。博士はあまり余計なことを考える必要がないほどに私の方で精いっぱいにやらせていただきます。博士の方からは何か指示があれば、その都度伺っていきたいと思います。例えば、まわりの人にいつ頃どういう発表をしたいなどとかですね。だから、博士の方も医者かわ言われた情報を、なるべく早く私の方位いただけると幸いです」

 と、作目弁護士は答えた。

「ありがとう。君ならそう言ってくれると思っていたよ。やはり私が一番頼れる人間だと思っている。それに比べると、川北君は、いまいち便りがない。誠実で真面目な人間ではあるんだが、人を統率したり、所長として組織をまとえたりする役目は彼には荷が重すぎる気がするんだ。だから、川北君が表に出ている時でも、君が影から支えるようにしてほしいんだ」

 という博士に対し、

「分かりました。私も川北さんには、少し不安もあるので、私の方で支えるようにいたします」

 と、佐久間弁護士は言った。

 そんな研究所から、今回、周波数関係で一つの定理を生み出したことが功績として求められ、学会で大いなる評価を受けた。それを記念してのパーティだったのだが、そんな中、一人の記者が混じっていた。


        

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