第8話 わたしたちは知らない
入部してはじめて、先輩たちにご飯にさそわれた。先輩たちの会話のなかに
適当にえらんだかつ丼屋の
「うわっカートじゃん。ここでバイトしてたのかよ」
「あ、こいつゲン。今年はいった一年のなかじゃあ一番やるんだよ」
「へえそいつはすごいな。一年後には主力だな」
カート先輩はちょっと大げさな笑顔でおどろいていた。ゲンはひかえめに
「てか、おまえいまなにやってんの?」
「へへ、商業コースに転科して商売の勉強してんだ。てかさ、これみてくれよ。バイトで貯めたお金で買ったんだ」
一瞬、きまずい空気がながれるも、カート先輩はなにも
「おいこれどうしたんだよ。ゴッド工房の最新作じゃん」
「は、買ったの?」
「へへ、つい最近な」
「くれっおまえ使わねだろ」
「金貨百枚な」
「それ定価じゃん」
「そりゃ使ってないからな。ディスプレイしてんだ」
先輩は高級店さながらにライトアップした
「こらーカートっ、さぼんじゃないよっ」
「す、すんませーん。俺いかなきゃ」
「おおがんば」
しばらくのあいだ厨房からはお説教の声がこんこんときこえていた。
店をでると、日没後の赤い空に街灯がつきはじめた。住宅街にはいると、ひとりの先輩がおもいだすようにうなだれた。
「いいよなあゴッド工房の最新型」
「バイトって金貨百枚もかせげるんだな」
「いやみんなができるわけじゃないだろう」
「いやバイトくらい誰でもできるだろ」
「かしてもらったりできないんですか?」
「おまえさっきのはなしきいてなかったのか。ゴッド工房の最新作で金貨百枚もかかるんだぞ。傷でもついたらなんて文句いわれるか」
「そうそう。かりるくらいなら金貨百枚、親にねだったほうがましだよ」
さっきの冗談じゃなかったんだ。先輩たちと笑ってるうちに家についた。魔道具でゴッド工房を調べると、とんでもない値段の
「たしかにこんなのかりれないや」
公式サイトにはほんとうに定価金貨百枚と表示されている。ふだん剣士部で
◆
久しぶりに学校へいったら、学年主任だという先生に頭ごなしに説経された。いまでも前時代的な先生がいるものなんだな。彼はとにかく学校にこいといっていた
「それでこんなに帰りが遅くなったのか。本当お疲れさま。それで学校をやめる覚悟がついたんだ」
「うん。お父さんにお金を払ってもらいながら学校にいかないのはずっとうしろめたかったんだ。あの学年主任の先生はフタのあかないジャム瓶くらいムカついたけど、おかげでふっきれたんだ」
ふたりで夕食をテーブルにはこび、席についた。
「わかったよ。手続きはお父さんのほうでやっておくから、ああもしウィンのサインとか必要だったらお願いしてもいいかい?」
「うん。ありがとうお父さん」
今日のパスタはいつもより何倍も美味しかった。
自分の使った食器を洗って部屋にもどると、さっそく今日の帰りに買ってきた本をひらいた。
「うわあやっぱり最難関学校は卒業率が低いなあ」
通信制のある学校をひととおり見終わるころには、商店街は寝静まっていた。冒険者大全をひらくと、年収モデルや、スキル構成、職業寿命などが細かくのっていた。
「お父さん、いまちょっといい」
一階におりると、お父さんがキッチンのテーブルで書類を書いていた。
「どうしたんだい」
「通信制の授業内容とかみたんだけど、すぐには決められなさそうで……ちょっと怖いんだけど冒険者をやりながらゆっくり考えようとおもうんだけどダメかな」
お父さんは「そうだな」と目をつぶると、
「わかった。でもパパにも手伝わせてほしい。冒険者は危険にさらされる場面も多い仕事だから」
「うん。ありがとうお父さん」明日からは忙しくなりそうだ。
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