第6話 わたしたちは信じたい
————であるからして、わたしたちの祖先は努力がかたちにみえることを
キーンコーンカーンコーン。
次に授業までに新たなスキルに挑戦することを宿題にして、スキル学の先生は教室をでていった。みんな魔道具で黒板の魔法文字をすいとっている。ケントも列にならんで魔道具に黒板をうつした。食堂は満員、ケントは購買でパンを買って教室にもどった。
焼きそばパンを食べながらステータスをぼんやりながめる。レベル1のスキルがふたつ。いずれも学校で授業をうけていれば取得できる。みんなもっているスキルだった。
「ケントくん、ここいいかい」
コロッケパンに手をつけようとしたところで、オスカーがまえの席にすわった。その席のぬしであるアルフォンスは教室にはいなかった。
「アルフォンスくんかわったよね」
「うんそうだね」
たしかにアルはかわった。やせただけじゃなくて、ケントにもわからないなにかがかわっていた。いまでも仲はいいけれど、まえほど一緒にはいなくなった。それといれかわるようにオスカーとからむようになって、もうけっこうたったな。
「実は四月なかばくらいからアルフォンスくんにスキルの相談をされてさ。僕は参考書にのってるスキル取得実例を真似することをすすめたんだよ。でも取得するとやせるスキルがあるなんてきいたことはないからさ。僕は新しいスキルを発見したんじゃないかとおもったんだけど」
「そんなスキルとった覚えはないってアルはいったんでしょ。今月にはいってからもう八回はきいたよそのはなし」
ぼくもスキルを取得したらなにかかわるんだろうか。でもどうかわりたいんだろう。ステータスとにらめっこしても答えはでないのに、最近はこういう時間が増えた。ただかわったアルはいままでよりもかっこいいなっておもうから、あんなふうになりたいのかもしれない。
「僕はおもうんだよね。スキルの秘匿はよくないんじゃないかって、あたえあうことで人は成長するってスキル学の巨頭シェア師もいってるんだ」
「こないだアルと三人ではなしたときにおしえてくれてたよ。食事制限と運動をして早寝するってさ」
「うん。そうおしえてくれたんだよ。きっと
そんなスキルもあるのか。だったらきっと、節制した生活をすることがスキルの発芽条件なんだろう。机のしたでこっそりお腹をつまむと
◆
お昼ご飯を食べて教室に帰ると、クラスメイトがレオンをうわさしていた。
「あいつチケットノルマをクリアしたらしいよ」
「うそ。去年の学期末テスト、わたしとそんなかわんなかったはずなのに」
「やっぱり俺も商業コースの授業受けたほうがいいのかな」
「わたしは嫌だな。商売ってよくわかんないし、てかチケットノルマってなんのほんと。わたし絵描き志望なんだけど」
「でも一枚数十万で絵を売れっていわれるよかよくない?」
離れた席でうわさに耳をかたむけていると、すぐに教室移動をしなくてはならない時間がやってきた。音楽室を先生がさってゆくと、ジョルジュがギターをかたづけながらささやいてきた。夕焼けが窓をそめている。
「知ってるか。レオンのやつ外部から仕事の依頼がきたらしいぜ」
「へ、へえそれはすごいな。どんな仕事なんだ」
教室をでていくレオンを遠目にみおくりながらたずねた。
「それはわかんねえけど、先生から外注依頼をみにくるよういわれてるレオンをクラスのやつがみたらしい」
ジョルジュは不満げだった。
いつもの帰り道。今日は珍しくファーストフードのハンバーガーを買って、ジョルジュの部屋によった。ギターにもさわらず、音楽もかけず、無言でポテトをほおばる。油でぬれた指でハンバーガーの包装をといてかぶりつくと、美味さでイライラがけしとんだ。
「俺らさ」
ジョルジュはおもむろにつぶやいた。
「なに?」
ずいぶんと考えこんだまま、彼はしゃべらなかった。
「俺らさ。俺らの曲ならいつか絶対売れるとおもってたんだけどちがうのかな」
「僕は僕の伝えたいことを歌におとしこめば売れるとおもってるよ」
交錯した視線はおだやかでも攻撃的でもなかった。おもい悩んだような複雑さをひめていた。
「今日レオンにどうして商業コースの授業なんか受けるんだよってクラスのやつがきいてたんだけど。レオンのやつ『求められたほうがうれしいから』っていってたんだよ。意味わかるか?」
「ぶっちゃけわかんない。みんながいいとおもうものがいいものってわけじゃないでしょ」
「だよな」ジョルジュはハンバーガーののこりを大口でつめこむと、コーラでながしこんだ。だから今日は曲づくりしなかったのか。まあでも、たまにはこういう日があってもいいだろう。いい曲をつくって投稿サイトにのっければ、仕事はいくらでもできるはずだ。単位なんてとれなくったって、デビューできればこっちのもんだろう。山脈に陽がしずむまえに、ヨハンは帰路についた。
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