第1話 わたしたちは入学して恋
入学式の帰り道。夕日のてった
アルフォンスはおもわず、自分のお腹をこっそりつまんだ。有名冒険者たちは、美人のルイーズさんよりもさらに背が高く、なのにアルフォンスとちがって筋肉質でスリムだった。
夕食どき、アルフォンスはおもいきって、好きな子がいることを母にうちあけた。食欲がないとあんじていた母の顔は
「っは」
アルフォンスはあわててベットからとびおきた。眠っているあいだに時計は八時をさそうとしていた。
アルフォンスは木製の
木刀をにぎった手を先端まですべらせると、六年ぶんの
「ははははっ、もうレイチェルってば」
ゆれるお腹や二の腕をみられただろうか。じっとしていると、笑い声は住宅街のおくへとはなれていった。
翌日の昼食。アルフォンスは母のおしえにしたがって、学院の食堂でサラダ定食をたのんだ。うしろにならんでいたユージ君がわざとらしい大声でおどろくと、みんながアルフォンスのトレイに注目した。
逃げるように席についたけれど、そのあとも視線をかんじて、ゆっくり食べることはできなかった。ゆっくり食べたほうがいいってママにおしえてもらったばかりなのに————はやくやせよう。
放課後、アルは
窓をてらす夕日がいっそう
お風呂にはいるまえ、ランジやプランクをやってみると、お腹や足が痛くなった。剣士部の先生が部活おわりにいっていたようにお風呂でマッサージをして、その日は気絶するようにベットに倒れこんだ。
◆
最近、太っちょが部活をのぞきにくる。部長や先生はきっと入部するまえに見学しにきたんだろう。そっとしておいてやりなさいっていうけど、
「おまえ来週で部活やめるってマジ?」
たずねられたやつはうれしそうに「そうなんだよ」と笑っている。あいかわらず根性なしが多い。そんなならはじめから部活にはいるなよ。
ゲンはむしゃくしゃして、
「あーだりい。はやく帰りてえ」
「お、俺もう休憩~」
翌日の練習中、ゲンのいらいらはついに爆発した。
「練習したくねえんだったら帰れよ。おまえらの
部室にとどろいた大声に上級生や顧問の先生の視線があつまるのをかんじても、怒りにまかせてこそこそ文句をつぶやいていた連中を罵倒しつづけた。先輩や先生たちはとめたけど、
部活おわり。ゲンは顧問の先生と部長、副部長と部室にのこった。先生は購買からお茶を買ってきてくれたけど飲むきにはなれなかった。
「どうして先生はあんなやつらかばうんですか」
「かばうってどういう意味だ」先生のくせに意味わかんないのかよ。
「えいひいきしたじゃないですか」
「してないよ。練習嫌いな子がいたっていいじゃないか」
その返事をきいた瞬間、我慢が限界にたっした。
「ここは剣士部なんですよ。練習嫌いなら最初からいれなきゃいいじゃないですか。あいつらは練習中ずっと帰りてえ帰りてえいって邪魔してくるんですよ」
「それは入部してはじめてわかることじゃないか。やってみたいとおもう子たちのすべてが練習を好きになるわけじゃないし、うまくなるわけでも強くなるわけでもない。でもそれはなにも悪いことじゃないはずだ。学院もクラブ活動もできる者のためだけにあるわけじゃない」
「だから俺は我慢しなきゃならないわけですか」
ゲンはいいかえす言葉が
「いや我慢しなくてもいいさ。ほんとうにあの子たちが愚痴っていたのが耳ざわりで練習に集中できていなかったのか。きいてみたかったんだよ」
「どういう意味ですか」
先生と部長が顔をみあわせた。
「みんなががんばってないのになんで俺もがんばらなきゃいけないっておもってないかってことだよ」
部長があけすけにいった。ゲンはむっとしたが言葉はでてこなかった。
「愚痴ばっかいうやつがうっとうしいのはすげえよくわかるよ。とくに大会まえとかな。でもさ。そんなん関係なしに練習できて大会でも結果だすやつっているんだよ。アーサーとかな」
たしかに二年生のアーサー先輩はあの根性なしどもとも仲良くはなしてる。なのに大会ではいつも優勝で、部長でもかなわない。たしかにあの人みたいになれたらいいけど。
「誰だっていらついたら声をあらげることだってある。俺は十五、おまえはまだ十三歳だしな」
「四十になっても感情をコントロールできなくなることはいくらでもある」
先生が先輩の言葉にうなずいた。
「まだ入学して一か月もたってないから信じられないかもしれないけど、いま二・三年生でのこってる部員のなかにだって練習中さぼって愚痴ばっかいってたやつがまざってんだぜ」
「それほんとですか?」
先輩はゲンのおどろくのをわかっていたように優しく笑った。
「おう、もちろんやめていなくなったやつだっていくらでもいる。それでも学校で顔をあわせたら馬鹿話するやつもいるよ」
窓の夕日がよわよわしくなるにつれて、いつのまにかゲンの怒りはしずまりつつあった。先生はほほえんでいた。
「もし練習中にさぼっててストレスがたまったら俺でも部長でも先輩部員でもいい。はきだしてみろ」
「はきだしたらどうにかなるんですか」
「どうにもならんさ、むかつくものはむかつく。でももしかしたら多少はらくになったり、部活をやめた先輩たちのその後をきいたら理解できるかもしれない。退部した先輩たちのことや、退部しても仲のいい先輩たちのことがな」
学院の玄関をでると、夕日が山脈におちてきえそうになっていた。先生に見送られて、ゲンは先輩とともに帰路についた。ゲンは暗くなってゆく山脈をながめながら、先生の最後の言葉をおもいだしていた。
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