ステータスは月額制
明知 宗助
プロローグ わたしたちは月額制
森をぬけた丘で薬草をつんでいると、うすぐらい雲に光がはしった。モーリは急いで薬草を袋につめると、
今日は梅雨の
龍は頭をかがめながら、モーリのとなりにやってくる。
目をそらしちゃダメだ。目をそらさず、ゆっくりとさがって————どこかの
「クルウ……」
身体をちぢこませることしばらく、地面におろされた。モーリはおそるおそる目をあけた。にのうでにまきついていた舌ベロがゆっくりとはなれてゆく。
「ありがとう……」
「クウウ……」
怪我をしているのか。へたりこんだ龍の片翼は焼け
(薬はあるけれどさわっても怒らないかなあ)
空はごろごろと雨をふらせつづけている。おふるの袋を背中からおろした。すり鉢をとりだすと、龍が鼻さきでつついてきた。
「ダメだよ」
鼻を両手でおしかえす。優しい龍はおもしろがった。なんども同じやりとりをしていたせいで、薬ができたころにはすっかり昼間になっていた。雨はあがり、
師匠の家の二階で目をさますと、誰かが窓をたたいている。力が強すぎて、窓どころか家がゆれていた。しかたなく窓をあけると、燃えるような瞳と、簡単に人をのみこめる
「ルビー、お願いだから家を叩かないでよ。師匠の家が壊れちゃう」
もう二週間もたったのか。心なしかであったころよりも大きくなっている
「グルウウウッ」
「ああまた金貨をもってきたの。そんなにうけとれないよ」
みおぼえのある大きくふくらんだ袋が、牙にぶらさがっていた。
「グルッ」
ルビーはこれでどうだと言わんばかりに、エヴァンジェリンさんからの手紙をくわえてみせる。そこにはルビーがどうしてもというからうけとってあげてくれと書いてあった。
「ありがとう。ちょっと悪い
「グルウウウッ、グルッ」
「えっいまからいこうって?」
首根っこをくわえられて庭へでると、ルビーは『みてみて』とでもいうように翼をはばたかせた。家よりも大きな翼が上下するたび、周囲の
「はい、今日の包帯交換はおしまいだよ」
ルビーが嬉しそうにじゃれつくので、よそゆきの服はよだれでびしょびしょになった。
「モーリ、街へいくならハンバーガーを買ってきておくれ。ん?おや、ありがとうやルビーちゃん。おかげで良い稼ぎになるわっはっは」
ルビーは『はえかわりでうきあがったウロコをとってくれ』とでもいうように、師匠に尻尾をすりつけた。
毎朝、龍が遊びにくるようになってしばらく、師匠は鱗をわけてくれると大喜びしている。言葉がわかっているはずだから————師匠と一緒に笑いあっているということは、ルビーもお金が好きなのだろうか。モーリもこのあいだのお礼のおかげで生活に余裕ができはじめている。口元をなでると、ルビーはくすぐったそうに首をうねらせ、モーリをくわえた。
「毎度ありがとうございましたあ」
ルビーがひとっとびしてくれたおかげで、モーリはお店が開店するまえに街についた。モーリはステータスの月額契約をすませると、賢者公園のベンチへ小走りでむかった。
ついてる。今日は誰もいない。モーリはベンチにすわって、念願だったステータスをひらいた。
「わあ、ちゃんと〈スキル〉の
弟子入りして三か月だから、あと二年くらいがんばれば調合ができようになるのかな。こりゃあ、みんな成長がはやいわけだ。あとどれくらい練習すれば技術がものになるかわかるなんて、なんてらくなんだろう。
「グルウウウウウッ グルウ グルウ」
「ありがとう。ぼく学院にはいれなかったから、ステータスの無償補助をうけられなかったんだ。ルビーのおかげだよ」
ルビーが顔をよせてくれたので、モーリはおもわず抱きついた。あたたかい鼻息が顔をくすぐった。
キーンコーンカーンコーン。
ルビーとじゃれあっていると、学院の鐘が鳴った。そろそろ師匠の家にハンバーガーをもって帰ったほうがいいかもしれない。モーリが背に乗ると、ルビーは翼をはばたかせた。
(あれ、アルフォンス?)
ルビーが学院の上空をとおりすぎるとき、グラウンドで模擬戦をしているパーティのなかに、中等部時代の友人がいた————そんなわけないか。地上からはるか上空をこんな、とんでもない速度で飛んでいるんだ。顔がみえるはずがない。モーリはふりおとされないよう、ルビーの背中に必死でしがみついた。
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