ミステリー10000
霜降十月
本編
僕は三年ぶりに秘密基地に足を踏み入れた。秘密基地と言っても、子供が森の中に作るようなものではなく、古くて安い辺境の物置小屋を買い取り、生活できるように作り替えたものだ。少しほこりっぽく、油の匂いがする。
秘密基地は大学時代、主にあいつが金を出し、作業を僕らが手伝うことで出来上がった。秘密基地はあいつの住処になると同時に、僕らのたまり場となった。
あいつはモノづくりが趣味だった。子供時代に流行ったおもちゃを改造したり、何の役に立つのかわからない機械を作ったりしては、度々僕らに見せつけては満足そうに笑っていた。
僕がここに来たのはあいつが作ったゲームがあると聞いて、実家に帰省するついでにこの場所に再び足を踏み入れた。
俺からの挑戦状、塗装のされていない、ゲームセンターの筐体のようなものに赤色のペンでそう書かれていた。筐体には少し大きな画面の下に小さなボタンがあり、その横には硬貨を入れるためにあるであろう穴、その下の雑な切断面に無理やりキーボードがはめ込まれていた。めちゃくちゃな配線も丸見えだ。僕は題名のばかばかしさに懐かしさを覚えながら、筐体に電源を入れる。
光る画面には赤いゴシック体でミステリー10000と大きく書かれていて、その下には出来の悪いプレゼンの資料で使われるようなフォントで賞金10000円、1Play20円と書かれていた。僕は財布の中から十円玉を二枚取り出し、細長い穴に放り込む。途端に画面は移り変わり、アニメ調で描かれた少年が映し出される。
「これを見てください」
彼が口を開くと同時に、スピーカーから機械音声が流れる。画面に映し出されたのは今現在僕が立っている部屋、しかし異質なのは中央の床、人が倒れている。雑なCGで作られた人形であったが、人形の体勢から恐らく死んでいるであろうことはわかる。
「被害者は背後からナイフで一突き、そして密室となったこの倉庫、君はピッキングでドアを開けた、鍵は現在見つからない……という設定です。一万秒以内にどうやって密室が作られたのかをそこのキーボードで記入してください。以上です」
画面は切り替わり、打ち込んだ文字が表示されるであろう四角が現れた。現場検証を自分で行い、密室の作り方を考えろとのことだろう。
この小屋で外につながっている場所は三つだ。北向きに付いたドア、東向きに付いたシャッター、西向きに付いた窓の三つだ。
僕はまず窓に向かった。鍵を触ってみたり、窓の開き方を確かめてみたりもした。窓を閉めた時の衝撃によって鍵が閉まったりはしなかった。
次にシャッターに向かう。僕はシャッターのボタンを押して、動かないことを確かめる。これは僕とあいつでシャッターを高速化しようとして失敗し、その後動かなくなってしまったものだ。僕はなつかしさに浸りながらシャッターのそばを離れた。
最後にドア、何百回と通り抜けたドアだ。これはわざわざ確認する必要もない。鍵を使わずに外から鍵を閉めることは不可能だ。
僕が次に思いついたのは隠し扉、ぱっと見渡しても目立つ変化は無かったが、簡単に見つけれたらそれは隠し扉ではないのだろう。僕は壁際を歩きながら棚を漁り、何かアイデアが下りてくるのを待った。
中身を射出する筆箱、腕を食べるパソコン、あいつが作ったばかばかしい発明を見つける。ガラクタの山を掘り返す度に、頭の底から思い出がよみがえってくる。
僕は部屋を一周して、筐体の前に戻ってきた。しゃがみ込み、キーボードを叩く。
犯人はお前だ
あいつは鍵を閉め、そしてそのまま鍵と共にどこかに消えた。それが答えだ。あいつは一年前に姿を消した。画面には正解と小さく書かれている。あいつが作った最後の物ならもしやと考えたが、正解だったようだ。
筐体から吐き出すように三枚の硬貨が飛び出してくる。十円玉が一枚と五円玉が一枚、そして一円玉が一枚だ。
「賞金の10000《イチゼロゼロゼロゼロ》円です」
画面には再びアニメ調の少年が映っている。
「まあ、僕は機械なんでね」
そう言って画面の中の少年は口を斜めにした。その悪戯な表情はどこかあいつに似ている気がした。
僕は出てきた十六円に百円を足して買った飲み物を近くの川の土手に置き、駅へと向かった。
ミステリー10000 霜降十月 @apdgpennam
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